第三話 初めて日本人と戦った話

「僕は君が欲しくなった」


 ソウヤははっきりとこう言った。

 どういう意味かはすぐに分かる。だから、その言葉の気持ち悪さに私は思わず身震いをする。

 XXXXから貰った力は膨大なものだ。この男も同様のものを持っている。だから、おそらく。彼は変わってしまったのだ。力が人を変えたのだ。


「もちろん、お断りするわ。私はあなたのモノじゃなくてよ?」

「そう言うと思ったよ。でも、よく考えてほしい? 君は僕に勝てるつもりかい? まだ来たばかりの君と違って僕は長い。力の使い方も長けている」

「力で私を屈服させようと言うのね」


 私は考え込む。

 確かに、勝機は少ないだろう。考えれば考えるほど、私に勝ち目がないように思えてくる。

 ただ不思議と私は感情的に負けない気がした。


「なら、してみたら?」


 だから、私はあっかんべーをした。


「そうか。君がそういうなら」


 ソウヤは隣に置いておいた弓と矢を手に持つ。


「僕は力ずくで君を手に入れたいと思う」


 その言葉を聞き終わる前に私は建物の外に逃げた。

 幸いにも応接室は一階で、私は窓から逃げることができた。そして、すぐに一本の矢が私目がけて放たれた。矢は私ではなく、私の足元に突き刺さる。どちらかというとワザと外したみたいだ。


「その程度?」


 私は距離を離すと、窓の方を見る。

 ソウヤは笑って、私の言葉に答えた。


「次は本番だよ」


 ソウヤが弓を構える。

 特別な力が込められたのか。矢が光っているように見えた。構えから、おそらく私の足を狙っている。

 指が離れた瞬間。

 拳銃というのを見たことはないが、まさに拳銃と呼ぶべきものだった。弾丸よりも大きく驚異的な矢はそれ以上の脅威かもしれない。

 音速を超えた速度で、矢は放たれた。

 反射的に私はジャンプをして、その矢を避ける。

 見えなくはない。でも、まさかここまで変わるとは思いもしなかった。


「よく避けたね」

「あら、向かう場所が分かるなら、例え音速を超えても避けれるでしょ?」

「それでも、普通無理だと思うけども。そうか。君も力を貰っているからね。その力のおかげか」


 ソウヤはそう言って、建物から出ると矢を変えた。

 それまでは何の変哲のない、木と鉄でできた矢だった。しかし次の矢は全体が同じ素材でできている。そして鉄よりも明るい色だった。そう銀色に近い。


「何が違うのかしら?」

「悪魔や狼男を倒すのは銀の弾丸。だからそれにちなみ、僕は日本人を倒すために銀の矢を使う」

「銀の矢?」


 私の質問に微笑みを浮かべて、弓を構えた。

 そして放たれた銀の矢。

 その速度は、音速をはるかに超えるものだった。


「…………へ?」


 銀の矢は私の顔の隣、決してすぐ近くではない。ただ、放たれた衝撃で私の頬が薄く切れる。音を置き去りにして、矢は遠くの木を貫通したのが見えた。


「すごいだろう? さっきの矢の約14倍の速さがある」

「どういうこと?」

「僕が自分の力を教えると思うかい?」


 ソウヤはまた銀の矢を構えた。

 もしも銀の矢が私の体に当たれば貫通は必ずする。

 だから避けないといけない。

 でもどうやって?

 私はソウヤの構える先に集中した。そして、なるべく狙いが定まらないように横に走る。ソウヤの矢はそんな私を追いかける。

 そして、放たれる。銀の矢は私の少し後ろを通った。


「やっぱ、難しいね。扱いずらい」

「普通の矢の方が良いんじゃない?」

「いや」


 ソウヤは、新しい銀の矢を手に取り。

 思いっきり地面を蹴った。

 この上ない速度で、ソウヤは私の方に向かってきた。そして私に弓を振った。それをしゃがみ避けると、ソウヤは私の上を飛んでいた。

 矢が構えられている。

 放たれた銀の矢は私の腕をかすめて、地面の奥深くまで突き刺さる。

 偶然にも避けることが出来た私は、すぐにソウヤを蹴り飛ばす。人を殺した時みたいに、力を込めて。

 遠くにソウヤを飛ばす。しかしソウヤには何一つ効いた様子はなかった。


「僕は元いた世界で弓を使ったことはないからね。僕は遠くにいる的に当てるのは苦手なんだ。だから、僕は考えた。どうすれば良いか。その答えは簡単だった」


 ソウヤは起き上がり、言った。


「至近距離で撃てば良い。そうしたら、当たるだろう?」

「外れたけどもね」

「外れたんじゃない。ワザと外した。君をなるべく傷つけたくないからね。どうたい? 力の差は感じたかい?」

「全然」


 ここまでの攻防、いや一方的な防戦。

 明かに私の方が分が悪い。

 でも、まだ不思議と。負ける気がしなかった。

 それは、まだ私が自分の力に完璧に気づいていないからだ。


 少しだけ不思議な感覚が私を襲った。


「出来たら、今すぐにでもあきらめてほしいけども」

「それは出来ないわね」

「じゃあ、次は君の足を狙おう」


 ソウヤがまた同じ行動をする。

 そのソウヤに対して、私はあえて向かった。

 ソウヤが弓を振る。それをジャンプして回避する。そして、ソウヤの顔を蹴ろうとするが、ソウヤはあと少しのとこで腕でガードをした。そのまま腕を蹴り、私はソウヤから離れる。

 その瞬間にソウヤは弓を構えた。

 そして銀の矢を放つ瞬間、私は横に飛ぶ。銀の矢は私の横を通り、私がすぐに反撃をする。思いっきり殴ろうとするが、ソウヤはそれを避けた。

 そして、銀の矢が私の足に向けられた。


 放たれた銀の矢。それが足に当たる、コンマ数秒、いやレイコンマ数秒の間に私はその矢を


「な!」


 ソウヤは私を蹴ろうとする。それを腕でガードする。

 ソウヤは私と距離を取った。

 そしてまた銀の矢を私に向けた。


 放たれた銀の矢。今度は私の顔に向けて。

 それを手にある銀の矢ではじき返す。高速で飛ぶ銀の矢は私のはるか後ろに突き刺さった。


「見えているのか?」

「うん。不思議と銀の矢が見える。見えてくると」


 私はどこか気分が高まっていたのかもしれない。


「案外、遅いんだね」


 私は変わろうとしている。

 勇者として、勇者らしく、勇者になろうとしている。


「ふざけるな!」


 ソウヤが私に向かってきた。

 そのソウヤを蹴りで上空に飛ばす。力を少し込めてしまったからか、ソウヤの口から血が噴き出た。しばらくして自由落下を始める。

 そして、地面に落ちたソウヤの胸を私は踏んで、見下ろす形で私は微笑みかけた。


「あなた、実は弱いのね」

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