第二話 初めて日本人と出会った話

「に、ほん、じん? どうして、あなたさまが、ここに?」


 兵士ははっきりとこう言った。

 片言だが、日本語だ。

 私は思わず、その兵士に詰め寄った。


「あなた、日本人を知っているの?」


 兵士は酷く脅えていた。

 この男だけじゃない。周りの兵士は誰も私を捕まえようとしなかった。

 私が日本人だと分かり、恐怖を見せている。

 この世界に日本人は私一人じゃない? 私以外に過去に日本人が来て、この世界の人々に何かをした? あるいは何かを与えた結果がこれなの?

 兵士は何も答えず、一定の沈黙の後、私のために、取り囲んでいた兵士たちが道を開けていく。

 いや、違う。

 私のためじゃない。

 その開けられた道から一人の男が歩いてきた。


「やぁ」


 その男について語るならば。

 弓と矢を持った狩人のような恰好をした男、だった。そして顔たちが日本人に近く、何より日本語が片言に聞こえなかった。


「誰?」

「僕はソウヤ。君と同じ日本人だ」

「日本人?」


 私以外の日本人。それも、だいぶ長くこの街にいるみたいな。


「君、名前は?」

「ユウナ」

「ユウナか。この世界に来て、どれぐらいだい? 君の反応を見ていると、まだ来たばかりみたいだけども」

「今日、よ」

「今日!? それは驚いた。来たばっかりじゃないか。じゃあ、ついさっきまでXXXXと会話をしていたのか」


 XXXXも知っている。

 つまり、この男は間違いなく、私と同じ境遇になる。


「君はこの世界について知らないだろう? もし良かったら、この街の中央に僕の家がある。来ないかい?」


 男、ソウヤの誘い。

 私はそれに答えるべきか悩んだ。

 この男が信用できないから。というよりも信用する力がないから。でも、この世界を知らず、この世界の言葉も知らない私にはこの男に頼る他ないのかもしれない。


「分かった」


 私は男の言葉に頷くことにした。



 男の家は大きなものだった。

 扱いが、貴族とか王族のそれに近い。

 真っ白な壁と床でできた建物。広大な手入れがされた庭とプールが見える。たくさんの使用人が、ソウヤに頭を下げて出迎える。

 ソウヤはそれに微笑みかけながら、この世界の言葉で何かを話す。

 私は応接間のような部屋に招かれた。

 ソウヤは弓と矢を隣に置いて、ソファに座る。私はその前に座った。

 しばらくして、使用人がおぼんを持ってきた。上には紅茶だろうか。この世界に紅茶があるか分からないが、それに近い飲み物が入ったカップがあった。それが私とソウヤの前に置かれる。


「あなたはこの街でどういう立場なのかしら?」

「僕かい? 僕はこの街のヒーローということになっている」

「ヒーロー?」

「僕はこの世界に来て、この世界の人々を救った。その結果がこれだ。僕は町民からこの広大な建物を頂いて、のほほんと生活している」


 ソウヤは続ける。


「君の使命はなんだい?」

「私の使命もあなたのそれに近いわね」

「やっぱりそうか」


 ソウヤはそう言って笑う。


「XXXXから特別な力を貰っただろう? 僕の力は弓と矢に関するものだった。君はどんなのだい? 武器を持っていないから、格闘家とか。ああでも、来たばかりだと何もないか。君はXXXXからなんて呼ばれた?」

「呼ばれた?」

「僕は狩人と呼ばれた。そんな風に、何か職業的なもので、呼ばれなかったかい?」


 私はXXXXの言葉を思い出す。


「私は勇者よ」

「勇者!?」


 ソウヤはそう言って、大げさに驚いた。


「すごい。勇者か。人々を救う職にぴったりだね。僕の狩人とは大違いだ」

「そうね」

「どうだろう。良かったら、僕と一緒にこの街をよりよく変えていかないかい?」


 ソウヤはそんなことを提案してきた。


「お断りするわ」


 私ははっきりと言った。


「どうして?」

「だって、この街の人々の目を見たらわかるわ。あなたに対して、尊敬も感謝の念も感じない。日本人に対して恐怖しかなかった」

「…………」

「あなた、一体どんな風に人を救ったのかしら?」


 私の言葉に参ったなとソウヤは言った。


「でも、それは関係ないかな」

「どうして?」

「僕は強欲だからね。欲しいと思ったものはなんでもほしい。この世界の女性は、少し信用できない。だって何か知らない病気を持っていそうだろう? だから」


 ソウヤが何故、私に近づいてきたのかがはっきりとした。


「僕は君が欲しくなった」

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