大工と鬼六

30分Ver.

MC

 むかしむかしのお話しです。ある村に、大川というとっても大きな川がありました。


MC

 大川には、橋が架かっていません。村の人達は、何度も橋を架けようとしたのですが、半分も出来ないうちに壊れてしまうのです。


   SE 雨


村人1

 また雨だ。川の流れが速くなって釆たぞ。危ない、また橋が押し流される!


   SE 橋の壊れる音


MC

 そう、大川は、ちょっとした雨が降るだけで大洪水になる、恐ろしい川なのです。


   雨の音F・O


MC

 困った村人たちは、庄屋様の家に集まって、相談をしました。そして。


村人2

 東村の大工どんはたいそう腕がいいそうだ。あの大工どんに頼むべ。


MC

 と、言うことになって、東村の大工どんの所に頼みに行きました。


   大工登場。


大工

 それほど見込まれたら断れん。よし、おらの腕によりをかけて、やってみやしょ。


   と、胸を叩く。

   大工退場。

   暗転。

   大川の岸辺。

   SE 激流

   大工登場。

   辺りを見回して腕を組む。


大工

 これはこれは、思った以上だ。まるで川が、橋を架けることに怒っているみたいだ。


   川を睨んでいる大工。


大工

 さて、どうすべぇか…。


   そこに、川の中から鬼が現れる。


鬼六

 貴様は碓だ! 何しに来ただ!


   腰を抜かす大工。


大工

 あ、いや、あの…お、おら怪しいもんでねぇ。この先の、東村から来た大工だ。


鬼六

 大工? 大工が何しにこの大川さ来た。


大工

 む、村の衆に頼まれただ、ここに橋を架けてほしいと…。


鬼六

 何? ここに橋だと。ハハ、やめろやめめろ! どうせ、半分も出来ぬうちに流されるに決まっておるわ。


   ちょっとムッとする大工。


大工

 どうしてそう言い切れるだ?


鬼六

 人間である貴様が、作るというからだ。


大工

 やってみねぇと、わからんべ。


   鬼六、ガハハと笑って川に消えて行く。


鬼六

 ならばやってみるがいいわ…。


大工

 やってやろうじやないか。


   大工、橋を作り始める。


     《歌》

おいらは腕利き大工さん

みんなに頼まれ橋造り

のこぎり使って材木切って

カンナを使って材木削り

立派な橋を造りましょう

えっちらおっちら組み立てて

ほうらもうすぐ出来上がり


   半分ほど出来た頃、雨が振り出す。

   SE 雨


大工

 やや、雨か。おらの造った橋は。大丈夫だべか? 流されねぇべか。


   SE 橋の壊れる音


大工

 ああ…。


   と、うつむく。

   川の中から鬼六登場。


鬼六

 ガハハハハ! だから言ったべ、人間の貴様には無理だって。


大工

 だったらおめぇは、出来るだか?


   ニマッと笑う鬼六。


鬼六

 もちろんだ、ワシはこう見えても赤鬼建設株式会社の現場監督だぞ。


大工

 なんだそれ?


鬼六

 つまりだな、工事現場には、危険な機械が一杯あるだで…。


   理解出来ないでいる大工。


鬼六

 そうか、まだ人間は建設機械を発明しておらんのだったな…要するに、ワシは、大工の棟梁じや


大工

 そうか。


鬼六

 どうだ、貴様にかわってこのワシが橋を架けてやろう。


大工

 鬼のお前が、このおらにかわって橋を架けるとな?


鬼六

 おお、架けてやるわい。だか、ただではやらんぞ。橋が出来上がったときには、その礼として貴様の目ん玉いただくでな。よいか。


   睨み合う大工と鬼六。


大工

 目ん玉はやれん! 橋も出来ぬうちにそんな約束が出来るか。


   大工、村へ帰って行く。


鬼六

 クックックックック…。


   笑いながら川に沈んで行く鬼六。

   暗転。

   橋が半分架かっている。

   大工、恐る恐る橋に近づいて行く。

   突然、鬼六現れる。

   驚く大工。


鬼六

 どうだ、嘘は言わなかったろう。ワシは嘘はつかんのだ。あしたの朝には、向こう岸まで架かっているぞ。出来たら貴様に渡初めをやらせてやるが、そのときは約束どおり、目ん玉をいただくでな。


   ブルブルと震え出す大工。


鬼六

 どうした? 怖いのか。


   一所懸命に首を横に振る大工。


鬼六

 フン、無理せんでいいわ。目ん玉やるのは、イヤだというのだろう。


   首を縦に振る大工。


鬼六

 ならチャンスをやろう。


大工

 ちゃんす?


鬼六

 ワシの名を当ててみろ。もし当てたなら、目ん玉は許してやるわ。


   鬼六、川の中へ沈んで行く。


大工

 まいったなぁ、雨でもふんねぇべかなぁ。


   SE 雨

   川は激流になるが、半分架かっている橋は、びくともしない。


大工

 まいったまいった。


   暗転。

   夜明けの薄暗い中、大工が恐る恐る橋にやってくる。

   橋が出来上がっている。

   川の中から鬼六が出てくる。


鬼六

 おお、ばかに早く来てくれたな。さ、橋はこのとおり出来上がったで、目ん玉差し出せ! それが出来んのなら、ワシの名を当ててみろ。


   腰の抜けた大工。


大工

 ま、待ってくれ。あ…ん…明日、明日まで待ってくれ。


   と、すたこらさっさ逃げて行く。

   鼻で笑って見送る鬼六。


鬼六

 フン! どうせ無駄なことを…。


   と、川の中に沈んで行く。

   暗転。

   山道。

   弱り切った顔をした大工が、トボトボと歩いてくる。


大工

 困ったぞ…鬼の名前なんぞ、どうやって当てろと言うんだ。それにしても、一体どんな名前なんだろうなぁ…「鬼瓦権三」…とか? あてずっぽうで当たるんならいいんだがなぁ…いっそ逃げ出そうか? いやいや、鬼のことだ、きっと追いかけてくるに違いない。


   歌が聞こえてくる。


大工

 おや? なんだ?


   谷底をのぞいてみる。

   鬼の子たちが、唄い踊っている。


     《歌》

鬼六 鬼六 優しい鬼六

はやく目ん玉持ってこぉば

ええなぁ ええなぁ

鬼六 鬼六 優しい鬼六

おれら目ん玉喰いてぇだぁ

はやくぅ はやくぅ


大工

 鬼六だと? 目ん玉ぁだと? ははぁん。ことによったらあの大川の鬼が…。


   元気になった大工、飛ぶように家に戻って行く。

   完成した橋の前で、腕組みをして大工を待っている鬼六。

   そこにやってくる大工。


鬼六

 おお、来ないかと思ったが、約束どおりに来なさったか。それでこそ村一番の大工だ。さ、ワシの名を当ててみろ。フフン、一度で当たるもんでない。三度まで言わせてやる。


   鬼六、大工を睨み据える。

   大工、腕組みをするとしばらく考え込んで、


大工

 大川の鬼蔵!


鬼六

 ハハ、そんでね、そんでね。


大工

 じやあ、鬼左衛門だ。


鬼六

 違う違う。どうだ、もう諦めて目ん玉よこせ。


大工

 まだ一度ある。


鬼六

 フン無駄無駄。


   鬼六、大工に向かって近寄って行く。


大工

 お前は、鬼六だ!


   鬼六、一瞬動きが止まり、逃げるように川の中へ沈んで行く。

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人形劇用台本 結城慎二 @hTony

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