いなかのねずみとまちのねずみ

15分Ver.

ナレーション

 とある田舎の片隅の、小さな農家の一軒家。物語は、ここに住むネズミのチュウ太に街ネズミのネズ郎から手紙が届くところからはじまります。


   ナレーション通りの背景。

   のんびりと壁の穴から出てくるチュウ太に手紙を渡す郵便ネズミ。

   郵便ネズミはそのまま退場。


チュウ太

 ありがとう郵便屋さん。えーと、誰からかな? ありゃ、こりゃネズ郎からじゃねぇか! 懐かしいなぁ、元気だべか? エー、なになに…


ネズ郎の声

 チュウ太、元気か? 僕はすこぶる元気だ。今度、君のところに遊びに行こうと思う。楽しみに待っててくれ。


   手紙を読み終えて、


チュウ太

 くーっ! 相変わらずクセー文章だなァ。


   と、そこにネズ郎登場。


ネズ郎

 クサくて悪かったね。


チュウ太

 どぅわぁっ!!


ネズ郎

 そんなに驚かなくてもいいじゃん。


   嬉しそうに、


チュウ太

 ジャンだってよ。へへっ、久しぶりだなァ…どういう。風の吹き回しだよ、こんな。田舎にさ。まぁいいや、俺ン家入るべ。


ネズ郎

 そうさせてもらうよ。


   壁の穴に入る二匹。

   暗転。

   舞台変わって家の中。

   ジャガイモやニンジンなどが無造作に置かれている中に案内されるネズ郎。


ネズ郎

 へぇ…案外広いところに住んでるじゃん。


チュウ太

 てへへへへ、それ程でもねぇべよ。


   言いながら、手近な食べ物をネズ郎の前に持ってくる。


チュウ太

 ささ、遠慮しねぇで食えや、ここン家で作ってるモンばっかりだからよ。新鮮でうめぇぞ。


   と、自分の近くにあったニンジンにかじりつく。


ネズ郎

 それじゃ、遠慮なく。


   と、ジャガイモを一口食べて、黙り込んでしまう。

   景気よくムシャムシャポリポリやっていたチュウ太、ネズ郎に気づく。


チュウ太

 どうした? 元気ねぇな。ん? 腹の具合でも悪くなったか? 途中で生水でも飲んで来たんだろ? 旅先で生水は飲まねほうがいいって、聞いたことねぇか? ん?


ネズ郎

 (ため息)チュウ太。


チュウ太

 そうだよ。へへ、羨ましくなったか? 俺がいつもこんなうまいもんばっか食ってるから。


ネズ郎

 逆だよ


チュウ太

 あ?


   食べるのをやめるチュウ太。


ネズ郎

 かわいそうになぁ…そうだチュウ太。僕と一緒に街へおいでよ。今度は僕が招待するから。街はいいぜ。


   と、食べかけのジャガイモを蹴り飛ばし、


ネズ郎

 メシはうまいしネエちゃんはキレイだ。


チュウ太

 ネエちゃん?


ネズ郎

 そっ、彼女達を誘って毎晩のようにパーティさ。とろけるチーズやパンにたっぷり塗られたクリーミーなマーガリン。なっ、チュウ太、イタメシ食いに行こうぜ。


チュウ太

 いためし? チャーハンのことか?


ネズ郎

 イタリア料理のことだよ


   自分の世界に入ってゆくネズ郎。


ネズ郎

 ピザにドリアにパスタ。この辺じゃまだスパゲティっていうのか?パスタはいいぞ。カルボナーラもいいけどお勧めはボンゴレかな。出来立てのパスタにかけるパルメザンチーズがまた絶品でな…。


   何が何だか全く理解できないチュウ太、ネズ郎のマシンガントークに目を回す。


ネズ郎

 そうだ、うん。行こう。な? チュウ太。


チュウ太

 ホエ?


   頷いているようないないような(目が回っている)。


ネズ郎

 よし! 決まりだね。


   と、チュウ太の腕を引っ張って出発するネズ郎。


チュウ太

 ホワウェヘレ〜…。


   目が回ったまま連れて行かれるチュウ太。

   暗転。


ナレーション

 そして二匹は仲も良く、やって来ましたネズ郎の街。街はとっても賑やかで、見るもの聞くもの驚くばかり。街のネズミの女の子、そりゃあとってもかわいくて、チュウ太はいっぺんにこの街が好きになりました。


   ナレーション通りの背景が写り、ナレーションが終わると、豪華な部屋のテーブルの上。

   見事な料理がおいしそうに並んでいる。

   そこにやって来るネズ郎とチュウ太。

   チュウ太はキョロキョロと落ち着かない。


ネズ郎

 どうだいチュウ太


チュウ太

 すげぇすげぇ、俺、こんな料理見たこともねぇよ。カァー…バナナだよバナナ! 俺ン家じゃガキの病気ン時ぐれぇしか食えないってのに。


ネズ郎

 マジかよ!? そんなところいまだにあンのかよ。


   何かを見つけるチュウ太。


チュウ太

 こりゃ何だ?


ネズ郎

 チョコレート。甘くておいしいけど、食べた後にちゃんと歯磨きしねぇと虫歯になるから、あんまりたくさん食べないほうがいいぜ。


チュウ太 へぇ…おい、こっちはこれなんだよ! ずいぶん洒落たコップに入ってるけど、ジュースか?


ネズ郎

 コップって…それはカクテルグラス。中に入ってるのはお酒。んーん…マルガリータかな。ジュースみたいだけど結構アルコールがきつくてね、女の子を酔わすには一番だよ。おっと、お子ちゃまにはカンケーないか。


   と、チュウ太の肩をたたく。


ネズ郎

 ハァ…本当は彼女達も誘おうと思ったんだけどなァ…。


   グラスによじ登ろうとしていたチュウ太を引き寄せて、


ネズ郎

 お前のこのダサイカッコでみんな逃げちまったんだぞ。もっとマシな服はなかったのかよ。


チュウ太

 紋付き袴の方がよかったか?


   呆れるネズ郎、チュウ太をはなす。


チュウ太

 気にすんなって、男を着ている服だけで判断する女なんかにロクなのはいねぇぞ。


   と、近くにあったチーズにかじりつく。


チュウ太

 くかーっ! こりゃうめぇ、こんなうめぇチーズは初めて食った。これにくらべりゃ俺ン家の自家製チーズはバターと区別がつかねぇかもなぁ。


   手当たり次第に食べるチュウ太。

   それを見てネズ郎ため息。


ネズ郎

 女の子連れてこなくて正解だったかもなァ。そんな汚ねぇ食べ方してるとモテねぇぞ。


   と、自分も食べ始める。

   チュウ太、食べながら、


チュウ太

 そんな心配はいらねぇって、俺はこれでも『田舎のプレスリー』っていわれてんだから。プレスリーってのがどんなかは知らねぇけどな。


ネズ郎

 お前は吉幾三か!?


チュウ太

 ん?


   何か物音がする。


チュウ太

 何だ?


ネズ郎

 しっ!


   人のやって来る音がする。


ネズ郎

 ヤベッ! 人が来る。隠れるんだ。


   物陰に隠れるチュウ太とネズ郎。

   そこに人間がやってくる。


人間

 わっ、何これ!? ネズミの仕業ァ!?


   怖くて身を震わすチュウ太。


人間

 も、チョーあったまきた。絶対捕まえっかんな。


   と、部屋を出てゆく。

   恐る恐る顔を出すチュウ太。

   ネズ郎も出てくる。


ネズ郎

 どうやら行ったようだね。


チュウ太

 なんだよあれ。


ネズ郎

 人間だよ。


チュウ太

 それは判るべさ俺だって。


ネズ郎

 気にすんなって。


   何事もなかったように食べ始めるネズ郎。


チュウ太

 気にすんなったって。


ネズ郎

 いつものことさ。ここは人間様の食卓だからね。ま、気をつけていればなんてこともないさ。


チュウ太

 いつもこんななのか!?


ネズ郎

 合コンなんかやるときはもっと大変だけどね。今度一緒に行かない? いいコ紹介してやるよ。


   チュウ太立ちくらみ。


チュウ太

 すったらもんいらん。


   と、ヘタリこんだのはカクテルグラス。

   グラスが倒れて大きな音が響く。


ネズ郎

 バッカ、だから気をつけろって…!


チュウ太

 あわわ…。


ネズ郎

 とにかく今日はもうおひらきだ。逃げろ!。


   と、二匹は退場。

   入れ替わりに人間が来る。


人間

 せっかくのパーティだったのにネズミのせいで全部パーじゃん。サイテー…。


   暗転。

   二匹が息を切らしてやってきたのは、路地裏のバケツのそば。


ネズ郎

 ハァハァ…ったく、今度からは気をつけろよな。


   間。


ネズ郎

 チュウ太、聞いてんのかよ。


チュウ太

 俺、帰るわ。


ネズ郎

 チュウ太…。


チュウ太

 俺には街はあわん。いっくらうまいモンが腹いっぱい食えても、こんなに怖くて忙しいのは嫌だ。


   と、歩きだす。


ネズ郎

 おい、チュウ太。


チュウ太

 そんじゃな。街に疲れたらいつでも遊びに来いや。いつでも歓迎しちゃっからよ。


   と、退場。

   それを見送るネズ郎。

   F・O


ナレーション

 それっきりチュウ太は二度と街には行きませんでしたとさ。おしまい。

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