ハーメルンの笛吹き

30分Ver.

   笛吹き、登場。


笛吹き

 おなかすいたなぁ…(子供達に向かって)あ、私は、旅の笛吹きです。今、旅の途中なんですけどね、お金が無くなっちゃって、昨日から何にも食べていないんですよ。で、この先にハーメルンという裕福な町があるので、何かもらえるかなぁって、期待している訳。ただで? まさか。私の仕事は笛吹き。町角で笛を吹くと人々が集まってくるんですよ。演奏が気に入てくれたら、お金や食べ物を分けてくれるんです。ヨーロッパっていい所でしょう。


   笛を吹いて見せる。


笛吹き

 どう? 結構上手でしょう?


   おなかが鳴る。


笛吹き

 おなかすいたなぁ…。


   笛吹き、退場。

   暗転。

   真夜中の町長の家。

   暗闇の中で何かが動く音が聞こえる。


町長

 ん? 何の音だ? まさか…。

 ごそごそとランプをつける町長、ネズミとご対面。


   間。


ネズミ

 チュウ。


町長

 何だ、ネズミか。…ん? ネズミだぁ!!


   町長とネズミの追いかけっこが始まる。

   女の子、登場。


町長

 このやろう、こいつっ! このこのっ!


   ちっとも捕まらないネズミ。


町長

 はあはぁ、ええい、なんてすばしっこいんだ。


   ネズミにからかわれる町長。


町長

 人間様をおちょくるんじやない!


   逆にかじられてしまう町長。


町長

 いてぇぇぇぇ!


   その隙にいなくなってしまうネズミ。


女の子

 お父さん。また逃げられたの?


町長

 む。


女の子

 下手ねぇ。


町長

 むむ。


女の子

 私なんか昨日、三匹も捕まえたよ。


町長

 むむむ。


女の子

 あしたは頑張ってね。お休み。


町長

 むむむむ。


   女の子、退場。

   立ち尽くす町長。

   暗転。

   広場。

   噴水の側で笛を吹いている笛吹き。

   ちっとも人が集まらない。


笛吹き

 変だなぁ、ハーメルンの町は裕福だって聞いたんだけどなぁ…。


   おなかが鳴る。


笛吹き

 おなかすいたなぁ…。


   そこに通りかかる女の子。

   笛吹きの前をパンを持って通り過ぎようとしたとき、

   笛吹きのおなかが鳴る。


女の子

 ?


   二、三歩さがってもう一度。

   また鳴る。

   もう一度。

   やっぱり鳴る。

   女の子、笑い出す。


女の子

 変なお兄さん。おなかすいたの?


笛吹き

 え? はは。


   恥ずかしそうにする笛吹き。


女の子

 このパン、お兄さんにあげようか?


笛吹き

 いいの?


女の子

 うん…じやなくて、はい。


笛吹き

 ありがとう。


   もらったパンを一気に食べてしまう笛吹き。


笛吹き

 ごちそうさま。


女の子

 本当はね、食べ物を人にあげちゃだめだって、お父さんに言われてるんだ。


笛吹き

 ええ!! …どうしよう? 食べちゃったよ。お父さんに怒られない?


女の子

 怒られると思うよ。でも気にしないで。


笛吹き

 気にしないでって言っても…でも、どうして人にあげちゃいけないの?


女の子

 あんまりないから。


笛吹き

 だって、ハーメルンの町はとっても裕福な町だって聞いてたよ。


女の子

 裕福だったよ。でもね、この頃ネズミがいっぱい現れて何でも食べちゃうから、裕福じやなくなったの。


笛吹き

 なるほどそうか、それでいくら笛を吹いても誰も集まって来ないんだ。


女の子

 それだけじやないと思うけどね。


笛吹き

 どういうこと?


女の子

 ハーメルンの人はよそから来た人に冷たいって、いつも言われてるもの。


笛吹き

 ふううん、そうなんだ。


   町長、登場。


町長

 ううむ、困った困った。ネズミ事件をどうにかしないと、次の選挙で当選出来ないかもしれないぞ、困った困った…ん?


   女の子に近づく。


町長

 おい、そんなところで何をやっているんだ?


女の子

 あ、お父さん。あのね、笛吹きのお兄さんとお話ししてたの。


町長

 そんな、得体の知れない奴と話すことはない。さぁ、お家に帰りなさい。


笛吹き

 ほんとに冷たいね。


   笛吹きと女の子、笑う。


町長

 おい、笛吹き。おとなしくこの町から出て行け。


笛吹き

 いや、そんなこと言われても…旅をするお金が…。


町長

 たたき出されないうちに町を出て行くんだ。いいな。


   女の子を連れて退場。


女の子

 笛吹きのお兄さん、バイバイ。


笛吹き

 バイバイ…はぁ。


   笛を吹く。

   ネズミが笛吹きによってくる。


笛吹き

 やれやれ。


   町長たちとは反対方向に退場。

   おじさんと町一長、登場。


町長

 しかし、ネズミどもには、参ったよ。


おじさん

 そうだよなぁ、俺なんか昨日一日だけで十四匹も捕まえたんだが、今日も十匹以上のネズミが家の中走り回ってたよ。


町長

 ……。


おじさん

 どうかしたのかい? 町長さん。


町長

 あ、いや。ネズミが出てから、まだ一匹も取っていないなんて事はないぞ。


おじさん

 まだ一匹も捕まえたことないのか。


町長

 ………。


おじさん

 心配するな、人には言わないよ。町長さんが、まだ一匹も捕まえてないなんて事。


町長

 ネ、ネズミ捕りなんて、ネコに任せればいいんだ。うん、そうだ。


おじさん

 しかしなぁ、うちでもネコを飼っているが、初めのうちだけだったぞ。今じやすっかりなめられてる。


町長

 ならば山から捕まえて来ればいいんだ。


おじさん

 ネズミ一匹捕まえられない町長さんが、山猫なんて捕まえられるのか?


町長

 ………。


   暗転。

   山の中。

   山猫を探して歩く町長。


町長

 ネコネコ山猫強そなネコはおらんかなぁ。


   山猫、登場。


町長

 いたいた。トォートォートォー…は、鶏か。ハイッシドウドウハイドウドウ。


   山猫、馬のいななき。


町長

 また間違えたか、ええと…ええい、掛け声何かどうでもいい、12の3っ。


   スルリと逃げられてしまう。


町長

 むっ。


   追いかけっこが始まる。

   やっとのことで山猫を捕まえた町長。


山猫

 ふぎゃあ。


   それでも暴れる山猫。


町長

 いてててて。こら、おとなしくしてろ。


   やっとおとなしくなる。


町長

 そうだそうだ。うーん、強そうなネコだ。


   帰りかけて独り言。


町長

 しかし、わしに捕まえられるようなネコで大丈夫だろうか?


   退場。

   暗転。

   町長の家。

   猫を放してやる町長。

   様子を伺っているネズミと女の子。


町長

 ようし、いいか山猫、ネズミを一杯とるんだぞ。


山猫

 にゃおん。


   あっさり一匹目を捕まえる山猫。


町長

 よし、その調子だ。


   2匹目との格闘。


山猫

 ふにゃあん。


   町長の元に逃げ帰ってくる。


町長

 こら、戻ってくる奴があるか、お前も猫なら闘え。


   ブツブツ言いながらまた‥追いかける。

   けちょんけちょんになって帰ってくる山猫。


山猫

 ふにゃあ。


町長

 またやられたのか? だらしない。


山猫

 フギャー!


   町長を引っ掻いて逃げて行く。


町長

 いてててて…。


女の子

 あーあ、逃げられちゃつた。


町長

 むむむむむ…。


   暗転。

   広場。

   噴水の前に笛吹きと女の子。

   町長とおじさんたち登場。


おじさん

 やっぱりダメだったろう?


町長

 ああ、ネズミを捕って見せたのは、初めのうちだけだった。


おばさん

 どうしたもんかね?


おじさん

 猫いらずは、どうだろう?


町長

 猫いらず? なんだいそりゃ。


おばさん

 毒を練り込んだ団子のことですよ。


町長

 そりやいい。ネズミどもは、食べ物なら何でも食っちまうからな。


おばさん

 作れませんけどね。


おじさん

 どうしてだ?


おばさん

 だって、団子にする材料がありませんもの。


町長

 どうすりやいいものかなぁ。


笛吹き

 あのぉ…。


   笛吹きを無視して討論が続く。


おじさん

 いっそ誰かに頼むってのはどうだ?


笛吹き

 ですから私が…。


おばさん

 そりゃ、そうしてくれれば大助かりだけど、そんなことが出来る人間がいるかね。


笛吹き

 (既に独り言)や、ここにいるんですけどね。


おじさん

 町にいなくても、よその町にはいるかも知れんじやないか。


笛吹き

 聞こえていないのかなぁ。


町長

 聞こえてるよ。


   笛吹き驚く。


おばさん

 (うさん臭そうな顔をしている)本トに出来るんですの?


笛吹き

 ええ、ただ…。


町長

 ただ、なんだ。


笛吹き

 いえ、実は、たびのお金が無くなっちゃったもんですからね、退治出来たら賞金として1000ギルダーいただきたいんですけど。


おじさん

 それくらいわけないよ。な、町長さん。


町長

 え? ああ、そうだなぁ…もし、一匹残らず退治出来たらいいだろう。


女の子

 笛吹きのお兄さん、そんなこと出来るの?


笛吹き

 簡単さ。見てなよ。


   笛吹きが、軽快でテンポのよい曲を奏で始めると、

   どこからともなくネズミが集まってくる。


女の子

 お兄さんすごい。


   笛の音に合わせて行進するネズミの群れは、やがて一匹残らず町からいなくなる。


笛吹き

 さ、どうです?


おばさん

 こりゃすごい。


笛吹き

 それでは約束どおり、賞金をいただきますよ。


   間。


笛吹き

 あのぅ…。


町長

 何のことだね、賞金というのは?


女の子

 お父さん?


笛吹き

 いや、ですからネズミを退治した賞金ですよ。


町長

 そんな約束した覚えがない。


女の子

 お父さん!


町長

 賞金を出すためには、町のお金を使うことになる。町のお金を使うときは、きちんとした証明書が必要なんだが、あるかね?


笛吹き

 そんな。


おじさん

 そうそう、それにもし約束していたとしても、あんたが退治した訳じやないだろう?


笛吹き

 私は確かに…。


おじさん

 あんたはただ、笛を吹いていただけじやないか。ネズミどもは、勝手に町から出て行ったんだ。なぁ、町長さん。


町長

 そうだそうだ。


   町長とおじさん、顔を見合わせてにんまりと笑う。


笛吹き

 いい加減にしないと、今度は違う曲を吹くことになりますよ。


町長

 何なりと吹くがいい。死ぬまでな。


おばさん

 そうよ、笛をいっペん吹いただけで1000ギルダーもとろうだなんて、虫がよすぎるって言うのよ。


笛吹き

 あなたたちには、覚悟してもらいますよ。


   と、退場。

   大人立ちは笑いながら反対方向へ退場して行く。


女の子

 お兄さん…。


   暗転。

   暗闇の中に笛吹きの影が浮かび上がる。


笛吹き

 さぁ、子供達よ、私についておいで。素晴らしい不思議の国へ連れて行ってあげよう。いつまでも幸せに暮らせる国へ。


   笛吹きは笛を吹き始める。

   笛吹きの姿が消える。

   場面は再び広場。

   笛吹きと女の子を先頭に子供たちが列をなして行進している。


町長

 これは一体どうしたというんだ。


おじさん

 先頭にいるのは、笛吹きと町長の娘じやないか。


町長

 待ってくれぇ〜、わしが悪かった。金なら好きなだけくれてやるか ら娘を、子供達を連れて行かないでくれええぇぇぇ…。


   町長たち大人の悲鳴を残して、笛吹きたちは、去って行く。

   暗転。

   笛吹き、笛を吹きながら登場。


笛吹き

 これでこの物語りはおしまい。約束は、きちんと守ろうね。


   笛を吹きながら退場して行く。

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