第60話 天使と終始

「あぁ、お疲れ様でした」

「明日は、サマナーの方の仕事ですよね~」

「そうです」

「じゃあ、夕方から来ますね~」

「お願いします」


 店を閉めて、不破さんは考えた。

 綺璃子キリコは、なるべくしてココへ来たのだろうと…どんな可能性があったとしても、ココへやってくることだけは決定事項のような気がする。

 AcupだろうがCcupだろうが…。

 悪魔は契約で召喚できるが、天使はそうはいかない。

 彼らはヒトに仕えはしない。

 それは神を模したヒトへの嫉妬、エデンを追われてもなお、この惑星を蝕み続ける。

 産まれて罪を重ね生きながら、神の前で懺悔すれば、その罪を罰として請けることは無い…これほどの寵愛を受ける生命があるだろうか?

 天使がヒトに力を貸すなど、稀有な例のはず。

 それをスマホで呼び付けるとは…。

 まして4大天使のひとりを。

「末恐ろしい…」


 アルバイトの底知れぬポテンシャルに恐れおののく不破さん。

 眠れぬ夜であったという。


(-"-)

「おはようさん」

「18時ですけど~」

「準備して行きましょうかね…」

「はいはいっと…デッキOKで~す」

「ソフト何持って行くん?」

「手慣れてきましたね、フフフ」

「もうすぐ1年ですからね~」

「せやの…1年なんてあっという間に過ぎていくわ」

「そりゃ…何百年も生きてりゃね~1年なんてね~」

「ワシ…何年生きるんやろか?」

「死ぬの忘れてたくらいですからね…結構、長生きなんじゃないですか?」

「零はんや綺璃子キリコといる今がえぇの~、ずっとがえぇの~」

綺璃子キリコ…オマエ妖怪になってみんか?」

「はい?どうやってなるのよ?」

「ソコが解らんのや…ワシもなんで成れたんだか…さっぱり???」

「なるようになりますよ」

 不破さんが笑う。

「なれるのかな~」

「なれるんちゃうか、根拠はないけどね」


(*^_^*)

「行きますよー」

「はい~」

「その空家に…夜な夜な通ってくる花魁がいると」

「通うっちゅうか~出勤しとるんちゃうかな~、もと花街やったとか?」

「違うようですね…探してるんですよ…一緒に逃げようとした恋人を」

「なんで解るん?」

「小指が無いんだそうです…その…自分のね…小指を渡そうとするんだそうです」

「キショ…」

「バカね…それほど好きってことじゃない…バカ猫ね」

綺璃子キリコ…泣いてるんか?」

「恋じゃん…純愛じゃん」

「そうなんです。指切りげんまんってやつですね」

「そうなん?ワシあんまり小指とかの区別ないんもんでね…切っても生えるし」

「そっちのほうがキショイわよ」


((+_+))

「おるね…」

「いるわね…」

「絵にかいたような花魁がいますね」

「探しとるね…」

「必死にね…エグッ泣きそう…」

「泣いてますね」


「喜助さま…いずこへおられるのかや?」


「すでにあやかし…可哀想ですけどね」

「そうなんですか~喜助が悪いんじゃないですか?」

「いえ…違うようです…喜助さんは、此処へ来る前に殺されたようです」

「なんで解るんや?」

「すでに、ココに喜助さんの霊を用意してあります」

「そんな3分クッキングみたいなことを…」

「再生準備です、綺璃子キリコさん、2人の想いを浄化します」


「行くわよイプシロン(仮)」

「わかっとる」

 2人の後姿をニコッと笑って見守る不破さん。

「祟りか…もうアンクルは要らないんだけどな…妖気が混ざり合ってる、一蓮托生ってヤツなんですかね、祟りなんぞとっくに解けてるんですけど気づいてないのか…気づかないふりか…フフフ」

「笑てる場合ちゃうで零はん!! メッチャ興奮してますんやけど発情してるんやけどー!!」


(-"-)

「じゃあ…お疲れ様でした~」

 帰り道、いつものコンビニで買い物する2人。

「いやぁ…えげつないの~幽霊と妖の交尾は…」

「アレがなければいい話だったわね…なんか冷めたわ」

「一つの箱に封じたんやからええんとちゃう、そのうち勝手に浄化される言うてたで零はん」


 その不破さん、シャワーを浴びている。

 背中には生々しい傷跡…何かを引き千切られたような…。

「よろしいのですか?」

「なにが?」

「驚きましたよ…アナタがこんなところにおられるとは」

「ハハハ…驚いたのは僕も同じ、まさかラファエル、キミがヒトに召喚されるとはね」

「いえ…かすかに、あのヒトの子から懐かしい聖光気を感じたもので…」

「僕に敬語はいいですよ…堕天したのですから」

「そうはいきませんよ…ルシフェル様…」



綺璃子キリコ…」

「ん?」

「明日は何しようかの~」

「休みだし…どっか行く?」

「せやの~ネズミーランドに行ってみたいのー」

「猫だけに?」

「狩猟本能でちゃうかの~」

「アンタ…アソコで問題起こすと世界的なテロリストになるわよ…」


 明日も…明後日も…きっとこんな感じで…ずっと…。

 背中に何か生えそうな違和感を覚えつつも…吉備 綺璃子キビ キリコ元気にやってます。


                             『妖貸し』完





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妖貸し《あやかし》 桜雪 @sakurayuki

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