第59話 割り箸と天使

 デビルサマナー不破さんの目の前に4大天使のひとり『ラファエル』がいる。

 自分の家の庭で、『ラファエル』を召喚して軽く上から目線でフレンドリーな自分が雇ったアルバイトとそれに祟る猫又がSNSに投稿するムービーを撮らせようとしている。

 スマホの操作に四苦八苦している天使がいる。


 手に持った、うどんも伸びます。


「ラファさんは時間を戻せたりしないんですか~?」

「せやな…偉いんやし、そんくらいカップ麺作る感覚でパパッと出来んのかいの?」

「時間は簡単には戻せません」

「出来ないことはないと解釈するわよ」

「出来なくはないのです…が…宇宙的に問題があるというか…大きいというか」

「あのな…ワシの割りばしがブラジャーに弾き飛ばされて、直立に立ったんや」

「スゴイでしょ、アタシがこう、バシッとやったのよ」

 嬉しそうにブラジャーを回す綺璃子キリコ

「その瞬間をな、撮ってほしいねん」

「なるほど…」

「簡単なようで難しいねんで!!」

「そうよ、その奇跡の瞬間を自然なアングルで撮らないとダメなんだから」

「せや、やれヤラセや言われたらかなわんで」

「なんか、こう、偶然撮れました的なセンスが求められるのよ」

「ホンマにできるんかい!! 生半可な気持ちで参加してもろうても困りますよラファさん!!」

「あそこで、うどん食べてる人が不破さんね、あの人を撮っている風で~イプシロン(仮)を斜め後ろに収めつつ~アタシが叩いたら~ソッチにカメラを合わせて~近づいてからの不破さんの指さす方へカメラを向けると~」

「割りばしバーンや」

(もう…なにが自然なのやら不自然なのやら…)

「その奇跡を、時間を戻して撮影したいの」

「小金を稼ぐんや」

(猫が2本足で立って蕎麦にコショウかけて食ってる姿の方がウケるのでは?)

「なるほど…主旨は理解しました…しかし時を戻すことはできません」

(だろうな~)

「なんで?」×2


 ラファエルの説明によると…

 時は無限の可能性から成る選択肢で進んでいく、枝分かれした時が交わったり離れたりしながら無限の階層を形成しながら同時に進み、また淘汰されていくのだそうだ。

 つまり時を戻しても割り箸が再び真っ直ぐに立つとは限らない。

「並行世界ってヤツかしら?」

「せやな…難しいもんなんやね」

「そうです、あなた達も、同時に少しづつの違いを経て同時に存在している可能性の欠片なのです」

「アレ?もしかしたら、イプシロン(仮)と出会わないアタシもいるかもってこと?」

「在り得るでしょう」

「そうなんかい?ほなアレ?胸の大きい綺璃子キリコがいるかもしれんちゅうこと?」

「いかにも」

「そうなんかい、よかったの~綺璃子キリコ、もしかしたらBcupのブラのオマエがいるんやて」

「せめてCは…欲しい…」


「ですが…心配はいりません、ヒトの子よ、私の力を持ってすれば割り箸を垂直へ立たせることなど造作もありません、奇跡をご覧いれましょう、神の名のもとに」

「おぉ~」×2


 100発100中で割り箸は天に向かっておっ立った。

「なんや…当たり前に思えてきたの~」

「すごいことだと理解していても…もはや脳内で変換できなくなってるわ」

「逆に倒れたら感動しそうやで」

「まったくね」


「満足していただけましたか、ヒトの子よ」

「うん…SNSには別のなんかを考えるわ」

「せやな…帰る時間やしの、今日はココまでや、またなんかあったら呼ぶさかい、ほな」

「では…」

 夕焼けに染まる空に金色の光を辿るようにラファエルは天へ昇って行った。

(この光景を撮るという発想はないんだな…)


 うどんは、もはや白いワームのように伸びきっていた。


「さ~て、今日は帰ります」

「せやな…なんもない退屈な日だったの~」

「そうね、平和よね~毎日、刺激的なことが起きないかな~」

「ドラマチックな日々に憧れるの~」

「そうよね~、その場合…受け身が良いな~やっぱり」

「黙っていても訪れるドラマチックか、ええの~」


(慣れとは怖いモノだ…)

 不破さんは思った。

 今日ほどドラマチックな日はそうないであろうと…。

 自分の家の庭で天使が舞い降りて、ブラジャーぶん回して、割り箸を立てて遊んでいる光景など、2度と見ることはあるまい。





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