第48話 牧場メニュー

「件さま…そろそろお時間ですか…」

「そうだな…独りにしてくれるか」

「はい…では…失礼します」

「うむ…気負うなよ…思うままに生きよ」

「……私は…正しいのでしょうか?」

「答えぬよ…」

「はい…」


 牛小屋の戸を閉めた。

「ちょっと待って」

 綺璃子キリコが鍵を掛けようとした不破ふわさんを止めた。

「なんや綺璃子キリコ、もうええやん、金が入るんやそれだけ解れば充分やで、それ以上は知らんほうがえぇんや」

「そうですよ、綺璃子キリコさん、牧場主さんの判断は正しい…知らないほうがいいことがあるんですよ」

「違うんです、コレを最後にね」

 牛小屋の脇に積まれていた新鮮な草を一束手に持っていた綺璃子キリコ

「あぁ…そうですね、わかりました」

 不破ふわさんは戸を開けた。

「なんだ…女」

「知ってるくせに…」

「ふむ…そうじゃの…礼を言う」

「じゃあね…馬面うまづらの牛さん」

くだんじゃ」

 馬面うまづらのおっさんは草をクチャクチャ食べながら横たわる。

「ねぇ…死ぬってどんな感じ?」

「ん…気分のいいもんじゃないの…少し怖いような気もするわい」

「そんなもんなの妖怪でも?」

「余は妖怪ではないがの…まぁ安らかに逝けるだけ幸せなのかもの」

そばにいてあげようか?」

「よい…くだんおそれられて逝くものだ…独りでよい、戸を閉めて行くがよい…宝くじ忘るるなよ」

「うん、ありがと」


 綺璃子キリコは電気を消して戸を閉めた。

「行きましょうか…」


 不破ふわさんは事務所へ向かった。

 薄暗くなった牧場には、もう牛はいない。

「また、明るくてもクソ踏むのに、暗がりでフラフラ歩くとまた踏むで」

「いいのよ…車が汚れるってなら、買って返すわよ」

「オマエ…大きゅうでるの~、でも当たるんやもんな~」

「そうよ、神様の使いお墨付きよ」

「凄いことやの~100%なんやで」

「自信を持ってコンビニで買うわ」


 その頃事務所では不破ふわさんがカールおじさんと話していた。

「そうですか…なにも予言されなかったんですか…」

「えぇ…」

「それでいいのかもしれませんね」

「そうですね…まぁ、今回は依頼じゃありませんから…お代は結構です」

「いや…呼んだのは私です、お代はお支払します」

「いえ、今回は…」

「そうですか…では…夕食は食べて行ってくださいよ、バーベキューの用意しますから」

「えぇ…それならば、ありがとうございます、あっ…くだんの亡骸は」

「あぁ、それなら…祀っている神社がありますので、神主さんに頼んで内密に供養してもらおうかと思います」

「それがいいですね」


 。―――。

「美味いの~産地直送超えやもんな~」

「そうね、産地食いだもんね」

「野菜も、肉も美味しいの~ラムもえぇの~」

 バーベキューやらジンギスカンやら、チーズフォンデュやら牧場メニューが並ぶ。

 カールおじさんは、牧場の敷地でレストランも経営しているのだ。

 奥の個室を用意してくれて、カールおじさん自ら準備してくれた。


 カールおじさんが不破ふわさんと話していた。

「あの~、あの猫は?」

「あぁ、猫又です…わけあって彼女に憑いているんですけどね」

「祟られてるんですか?」

「う~ん、まぁ祟られてるんですけどね~」

「見えないですね」

「仲よくやってますね」

「そういう妖怪もいるんですね」

「あんなんばっかじゃないんですけどね…稀有けうな例ってやつです」


「さて…そろそろ帰ります」

「泊まっていかれたらどうです?バンガローもありますから」

「いえ…今日中に帰りたいので、御馳走様でした」

「そうですか…わかりました、お送りしますよ」

「いえいえ…」

「コレ…交通費も受け取ってもらえないので、せめてものお礼です」

「はい…ありがたくいただきます」

 車にいっぱい、とうもろこしやら冷凍肉やら詰め込まれて、カールおじさんの牧場を後にした。


不破ふわさん、コンビニ寄ってくださいね」

「そうでしたね、来週からは億万長者ですか~羨ましいな~綺璃子キリコさん」

不破ふわさんにも、お礼しますからね、アレなんかどうですか?ゴーストバスターズとかいう映画みたいな車、ねっ、いいでしょ」

「派手だな…どうも…」

「せやで、綺璃子キリコ不破ふわはん裏稼業なんやで」

「いや…ホームページ作るんだから裏稼業ではないでしょ…」

「法律的に改造車で走れないのではないかと…」


 大きな夢を乗せて、サッカーくじを握りしめる綺璃子キリコ、もうニヤニヤが止まらないのであった。



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