えっ?セレブだからってなにか?

第49話 旅立ちの前夜

 サッカーくじを保管するため、ちっさい手提げ金庫を購入した綺璃子キリコ

「オマエの家に金庫が必要になるとはの~」

「来週には、家探しよね~」

「広いマンションがえぇの~庭付きの」

「フィットネスとか屋上バーとか」

「夢膨らむのー」

「夢じゃないのよ、明日よ、明日の発表ですべてが変わるのよー」

「チェンジングライフだの~」

「うん、うん、」

「今日は前夜祭やでー!!」


 デリバリーで頼めるものは大概頼んだ。

 カツ丼からピザまで…ばくターンセブンも多種多様な酒を鼻から吸い込んでいる。

「酒は文化やな」

「色んな種類があるものね~」

「なぁ~、食前やら食後やら、肉・魚、人間っちゅうのは酒と共に歴史を紡いできたんやのー」

「そんな大袈裟なもんでもないでしょ、ただ飲むと気持ち良~くなって、楽しくなって…頭痛くなって、気持ち悪くなる…だけのものよ…」

綺璃子キリコー!! ここで吐いたらアカン!!」


 。―――。

「胃薬って、人類の英知の塊ね」

「オマエ見てて、よーわかったんや…人間は何年たっても同じ過ちを繰り返すもんなんやと…」

「スッキリしたわ」

「せやろ、全部リバースしよってからに…って!! なんでまたオマエは飲んどんねん!!」

「ん?、かんぱ~い」

 綺璃子キリコは貴腐ワインをグラスに注いで、ばくターンセブンの鼻にチョコンと当てた。

「甘~い、うま~い」

「そのグラス…さっきまでブランデー入ってたしの…」

「さ~て、明日は当選祝賀会よー!!」

「せやのー、せやのー、明日は…楽しみやのー」

「店借り切って騒ぐのよー」

「かんぱーい!!」


 。―――。

「うっ…頭痛い…気持ち悪い…」

「器用なやっちゃのー、一晩で何回、二日酔いになんねん」

「イプシロン(仮)…とりあえず整腸剤と水を…そしてスマホを…」

「ほい…ほいほい…と」

「そして…この天国への切符…綺璃子キリコヘブンへ逝きま~す」


「え~と…この番号で…確認…と…きたっ!!」

「お~綺璃子キリコ~高額当選しとるってよう、おい」

「やったよー……エグッ…もう働かなくてもいい…ヒック…プチセレブとして地味な思考でセレブるように心がけながら生きていくよ…」

「泣くなて…綺璃子キリコ、ワシまで、その地味な思考に泣けてくるで~、オマエ、どこまでも庶民やねんな…」

「うん…貧乏がね…もうね…貧乏ってね病なのよ、呪いなのよ、教会で祈っても解除されないの…フリーターというジョブに付与されるスキルみたいなものなのよ」

「わかるで…よーわかるで…」

「引き籠るだけのお金が無いから…ニートにもなれない…でも明日から、堂々と引き籠れる」

「ニートに憧れとったんかいオマエ」

「定職を持たない者にとって、引き籠りは最上位のジョブなの」

「賢者みたいなものか?」

「いつか、ああなりたいって願うものなのよ」

「オマエの中ではニートは賢者やねんな…」

「明日からクラスチェンジするのよー」

「で…いくらやねん、いくら貰えんねん」

「ちょっと待ってね…キャリーオーバー10億よ…夢の2桁よ!!」

「オマエすでに、億を1桁で考えとるがな、さすがプチセレブやで」

「さて…いつ換金に行くかね」

「せやな」

「べつに今日行ってもいいんだけど、がっついてるみたいなのもね~」

「せやな…逃げるわけでもあらんしの~」

「でも…無くしたりしたら嫌だしね」

「せやな…金庫盗まれたりしたらの~」

「一応、証拠写真撮っておいたほうがいいかな?」

「おぉ…それやがな、考えられることは全部しとこかの」


 スマホで撮ったり、当たりくじをかざして自撮りしたり、イプシロン(仮)がカメラマンになってみたり、部屋で忙しく動き回る。

「あっ!!」

 綺璃子キリコの手から当たりくじが窓からの風でスルッと飛ばされる。

 テーブルに溢したウィスキーの溜まりにペチャッと落ちる。

「ギャー!!」

 イプシロン(仮)がテーブルにダイブして確保しようとする。

 ズコッ…掃除機に紙が貼りついたような音がして、当たりくじがターンセブンの鼻に張り付く。

「あかん!!」

「早く取ってー」

「わかっとるちゅうねん…コラ獏!! 吸引やめぇや」

「ブホッ?」

 ヒラッと机に当たりくじが落ちる。

「危ないとこやったで…」

「油断できないわね…」

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