第46話 100%当たるんです

「お電話いただいた不破ふわですが」

「牛飼いって広い土地で暮らしてんのね~」

「牛飼いって…牧場やろが…牧場の経営をしてはりますんや」

「牧場か…そうね、で?ここにくだんがいるのね」

「そうや、牛やからの」

「牛なの?」

「牛や…身体は牛や、顔が人やねん」

「………キモいわね…」

「まぁ、ビジュアル的にはキツイ部類やね」

「最近、そのタイプ多くない?ビジュアルモンスター的な」

「アホ…ビジュアルだけちゃうやろが、中身も100%モンスターや」


「はい…お待ちしておりました」

(カールおじさんや)

(カールの人だ)

 と2人は思ったそうだ。

 カールおじさんの話では…。

「なるほど…第一声が私を呼べだったわけですか…」

「はい…くだんの話は,子供の頃から聞かされて知っていましたから、しかし…まさか本当に産まれるなんて思いませんでした」

「100年に1度あるか、ないかの話ですからね」

 不破さんとカールおじさんが話している間、邪魔になりそうなので牧場を見学する綺璃子キリコとイプシロン(仮)、柵の向こうで草を反芻している牛を眺めている。

「食っちゃ戻し…食っちゃ戻し、しとんねん」

「胃袋いっぱいあるんだよね」

「そうらしいの~腹壊さんのやろな」

「下痢とかしないのかしらね」

「しなそうやの~」

「のどかというか、平和よね~」

「せやの~たまに来るにはえぇトコやの~」

「都会とは違う空気があるわね」

「せやの~草の匂いというか…牛糞の匂いがの~」

「言わないで…軽く泣きそうなの」

 綺璃子キリコは先ほど牛糞を新品のパンプスで踏んづけたのである。


綺璃子キリコさ~ん、牛舎に行きますよ~」

 不破ふわさんが向こうで手を振っている。

「呼んどるで」

「うん…アタシ、牛嫌いになりそう」

「なんやねん!! クソ踏んだくらいで、情けない!! 焼肉も、昨日のピザのチーズも牛さんからの贈り物やで、クソ踏むまではテンション高く、牛に触りた~いとかはしゃいでたくせに…クソ踏んだ瞬間からテンション駄々滑りしよってからに!!」

「なによ!! 人間、うんこ踏んだらテンション下がるものなのよ、珍しいのよひと目惚れしたパンプス衝動買いして、履いたその日にうんこ踏むって…落ち込んだっていいじゃない」

「うんこ踏んだんですか?」

 不破ふわさんが綺璃子キリコに話しかける。

「いいんです…牧場ですもの…牛糞くらい、もとは草だもん」


「あそこに隔離したんだ」

 カールおじさんが小さな小屋を指さす。

「開けてもらえますか?あとは任せてください」

「俺は、いないほうがいいですか?」

「いてもらっても構いませんけど…くだんの予言に耐えられますか?何を言い出すか解らないですよ、聞きたければ構いませんけど」

 少し考えてカールおじさんは、不破ふわさんに鍵を渡して事務所へ戻った。

「賢明な判断やの」

「そうですね…第三次世界大戦だの天変地異など言いだしたら騒ぎになるでしょうからね」

「人面牛が産まれた時点で大騒ぎじゃないんですか?」

「一応、予備知識はあったようですから…余計なことはしないように釘は刺しましたよ一応」

「インスタとか載せられたら、めっちゃ「いいね」付きそうなネタやしの」

「TVや雑誌が押し寄せちゃうでしょうしね」


 話ながら鍵を開けて中に入る。

 奥のわらの上で横たわる小さな牛の赤ちゃん。

「待っていたぞ…悪魔使いと猫又…クソ踏み女よ」

「エグッ…クソ踏み女言われた…」

「泣いたらアカン…忘れかけてたのにの~、ちょっとアンタさん、いきなり失礼やで!! クソ踏んだんわ事実や、気にしとんねや、それでも前向きに乗り切ろうとしとるんやで…クソ・クソ言うたりなや」

 イプシロン(仮)がツカツカとくだんに歩み寄る。

 小さな窓が1つだけの、うす暗い小屋で、その姿はよく視えないのだが…近寄ったイプシロン(仮)が首を傾げながら回れ右して帰ってきた。

「思った以上にビジュアル、キツイで…」

 パチッと不破ふわさんが電気を付ける。

 裸電球のオレンジの光にくだんの姿が浮かび上がる。

「キモッ!!」

 クソ踏み女と言われた仕返しなのか、綺璃子キリコが目を背ける。

 子牛の身体に長いおっさんの顔が付いている。

 クチャクチャと草を食う姿は不気味以外の何者でもない。

「しかもクチャラー」

「言うたれ綺璃子キリコアハハハハ」


 表情を変えずに綺璃子キリコをじっと見据えるくだん

「私を呼んだそうですね、くだんさま」

 不破さんがくだんに方に歩き出した。

「様?が付くほど偉いん?コレ?」

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