第22話 本業ってこっち

「おはようございま~す」

「おはよーさん、不破ふわはん」

「おはようございます、今日は本業の店番をお願いします」

「はい…レンタルDVDですよね…確か」

「そうですよ、マニアックな作品が多いのでコアな客層で成り立ってます」

「月額固定制ですから、会員証で履歴確認だけしていただくだけですから…1回のレンタルは2枚までですから」

「えっ?不破さん出かけるんですか?」

「はい、19:00には戻れますから、店番お願いしますね」

「はい」

「任しとき!! レイはんところでドコに行くん?」

「横浜まで…仕入れにね」

「おっみやげ!! おっみやげ!! よろしゅう頼んますわ、焼売がえぇな~」

「はいはい、買ってきますよ、じゃあ、そろそろ出ますので…」

「はい、お気をつけてー」


 。―――。

綺璃子キリコ…ヒマやの~」

「そうね…誰も来ないわね…」

「品揃えっちゅうもんがね~、無声映画とか…白黒とか…ドイツ…フランス…マニアック過ぎなんちゃうやろか」

「隙間産業よね~TATHUYAタツヤじゃ無さそうな作品ばっかよね」

「ハリウッドとか無いもんな~」

「なんか映画観よう~」

綺璃子キリコ、面白そうなんにしてな、時をかける少女とかセーラー服と機関銃とかあったらよろしゅうな」

「んな、メジャータイトル無さそうだけどね…」


 。―――。

「しかし…無声映画っちゅうのはアレやね…セリフは聴こえんけど、なんか何を言ってるか解るもんやね、不思議やで~」

「アンタ…本気で言ってる?字幕出てるの解ってる?」

「ん、あっ! ホンマや…無意識に読んでたんやな…どうりで…ワシ、変な力に目覚めたんかと思ったわ、ハハハハ」

「変な力って…アンタ妖怪じゃない…変な力があっても不思議でもなんでもないわよ、むしろないの?」

「なにが?」

「アンタの能力というか…ほらっ悪魔なんか職能とか言って、不破フワさんがよく悪魔に使わせてるじゃない、アレ、ああいうの」

「なるほど…まず、猫又になると、大きくなるな、うん…」

「そうね…やたらデカかったわよね」

「せやろ…喋るな…よう喋りよるわ」

「うん…人の言葉を話せるのは、まぁ大体みんな喋ってたしね、よく喋るかどうかは、個体差があるんじゃないかしら…みんな猫又がアンタみたいだと信じたくないわ」

「そうか?なんや無口より、えぇと思うけどな~」

「で?」

「ん?」

「いや、他に?なんか必殺技的なヤツわ?」

「必殺技?…なにを言うてんのや…大概の人外なんぞ、一撃でバチコーンやぞ!!」

「うん…バチコーンじゃなくて…アンタ何も出来ないんじゃないの?」

「オマエ…ワシ、虎の3倍くらいデカなんねんぞ!! それで充分ちゃうんかい!!」

「えぇーっ…なんかショック…なんの芸も持ち合わせないとは…」

「芸って…オマエなぁ!! 猫が喋って、デカなんねんぞ!! TVに出たらメッチャ儲かるっちゅうねん!! 尻尾が2本っていう時点で、YOUTUBEでアクセス数稼げるっちゅうねん!!」

「今時…それだけで稼げると思ったら大間違いよ、なんかのアプリで出来そうだもん」

「アプリちゃうちゅうねん!! ナチュラルスキルや!!」


 。―――。

「退屈な映画やの~、お月さんの顔に大砲の弾刺さってどうやっちゅうねん…」

「昔は、ホントにこうやって月に行こうとしてたんだよ、きっと…」

「えっ?人間アホちゃう?月になんか行けるわけないやんか」

「いや…行けると思っちゃうんじゃないの?なんか近くに視えるときあるしさ」

「アソコはな~ 綺璃子キリコ…ウサギの統治する街があるんや、人間が行っていいとこちゃうぞ」

「……アンタの相当ね…月にウサギって…今時、幼稚園児でも信じないわよ」

「カエルもおるんやで…んでモチ突きよんねん」

「ウサギにカエルって、鳥獣戯画みたいね、ねぇ…ウサギの妖怪っているの?」

「ウサギ…知らんなぁ~、食うたら美味いんやけどね~」

「アンタ…何でも食べるのね…もしかして人も食べるの?」

「食うのもおるんちゃうか…ワシは食わんけどね」

「なぁ綺璃子キリコ、ジェスチャーして遊ぼか?無声映画みたく、身振り手振りで、なっ」

「ん~ヒマだしいいわよ、じゃあアンタからやりなさいよ」

「よっしゃ、いくで!!」


「あの~、DVD返しにきたんですけど…」

「えっ?」


 客が目にしたものは…猫の前で奇怪に踊る、背の高い三十路女の姿であった。

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