えっ?お客って神じゃないの?

第21話 眠れない夜もある

「アンタ達…最低ね…」

「そういいなや…責めたらアカン…時効や、タマゴスープ飲んで聞かんかったことにしとき」

「なんでタマゴ?」

「で…なんでアンタ達、仲悪いの?」

「それはコイツが!!」

 オーナー馬鹿丸うましかまるがイプシロン(仮)をビシッと指さす。

「時効や…オマエの業務上失火より遥かに罪は軽いで」

「だから何したの?」

「売上金パクって飲み歩いてたんだよ、この泥棒猫が!!」

「日本全国の地酒を制覇してみたくての~、新酒の時期になると我慢がでけへんかったんや」

「チョイチョイ、チョイチョイと誤魔化して、あの夜は売上金全部持って行ったんだぞ」

「九州に行こうと思っての~、まとまった金が必要だったんや…スマンかったの~、しかし帰ってきてみれば、焼野原て…火事と喧嘩は江戸の華なんて冗談でも言われんかったで」

「オマエそれは…」

「ワシはの~、それでも封印されて反省しとったけどね~なんちゅうの、罪を償ってたってちゅうの~かの~、おのれは何してたんかな~、シレッとした顔で、肉焼いてたんかの~、江戸焼いて、肉焼いて~ええ身分やの~」

 イプシロン(仮)が尻尾で馬鹿丸うましかまるの頭をペシペシと叩く。

「オマエに関しては、俺は被害者だからな!! 加害者にペシペシされる覚えはないわ!!」

 イプシロン(仮)の2本尻尾をササッと硬結びする馬鹿丸うましかまる

「ワレ、なにしてくれとんのや!! 綺璃子キリコー、コレなんとかしてくれる~、なんか歩き難いねんけどー」

「しばらくそうしてればいい…ランプとイチボ焼いて」

「えぇけども…自力でほどける気ぃがせぇへんで…コレ」

「てことは、何?オーナーがイプシロン(仮)を封じるように依頼したの?」

「違いますよ…戻ってきたら煮てくれようと思ってましたからね、封じるなんて手間掛けませんよ」

「恐ろしいこと言いよる…猫を煮るんやて…ねこ鍋やん、不味そうやし…ランプ焼けたで」

「アンタ…ホント想像通りだけど、ロクなことしてないわね~」


 。―――。

「とりあえず、お腹いっぱい、御馳走様でした。不破ふわさん」

「いいえ、イプシロン(仮)の昔話も聞けましたし、楽しかったですよ」

「そうか、良かったで…楽しんでもらえてね…また来るで、馬鹿丸うましかまる

「来るのかよ…オマエ図々しいな…昔からだけど」

「死肉を盗む火車の天職っちゃあ天職や、頑張り!!」

「おう…なんで上から目線?オマエ」

「ほな!! 毎度!!」

 綺璃子キリコの鞄に結ばれたままの尻尾を引っかけられてストラップのようにプラプラ揺られながら、店を後にした。


綺璃子キリコ…なんやねぇ~昔なじみの顔を見るってのもえぇもんやね~」

「そうね~アンタ達の感覚だと100年単位だもんね」

「ねぇ…ちょっと疑問なんだけど?」

「なんや?」

「アンタ、封印されたのいつ?」

「さぁね…覚えとらんね~随分、昔の様な…気もするし、つい最近のような気もするね~」

「江戸より前よね…封印されたの?」

「せやね…」

「なんで、アンタ自由に動いてんのよ」

「言うたやん、ワシ、このサイズやったら妖気、大していらんからね、封印もなんやガバガバやったしの~」

「あ~、じゃあアンタ、ほぼ猫のまんまで妖怪の金、盗んだの?」

「そらそや」

「いい度胸よね…ホント…」

綺璃子キリコ…なんやワシ腹減ってんねんけど…」

「えっ?冗談でしょ?焼肉食べたでしょ」

「いや…ワシ食うたか?」

「食べたわよ、猫まんま焼肉のタレブレンド…」

「そうや…ソレは食うた」

「美味かったで…猫まんま…ワシ…肉食いましたか?」

「えっ?」

「いや…ワシ焼きましたやん…オタクら食べましたやん…ワシ焼きますやん…食べますやん…」

「うん…」

「ワシ…ワシ…なんでお腹空いてん?…もしかして…ワシ肉食うてない…」

「イプシロン(仮)!! 考えちゃダメ!!」

「えっ?」

「なんか作ってあげるから!!」

「「えっ…そうなん…」

「そうよ、だから考えちゃダメ!!」

「ワシ…頑張ってみる…前だけ向いて生きてみる」

 綺璃子キリコが冷蔵庫を開ける…。

(いか~ん…ビール…ビール…チューハイ…バター!…塩辛!…どうする?)


綺璃子キリコー、なんか手伝おうか?」

「うん…大丈夫…手伝われるほど食材が無い…」

「なんて?」

「なんでもない」


「お待たせー」

 イプシロン(仮)の前にコトッと皿が1枚置かれる。

綺璃子キリコ…何コレ?」

「ハムエッグよ…そしてトーストにバターと塩辛ね」

「肉…」

「イプシロン(仮)、焼肉よ!! 広い意味で…」

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