第18話 再会って感動だけじゃない

「ここですよ」

「普通の家やん…和風の店やん…」

「小さくはないですよ…古いけど…立派なお屋敷だと思います」

「今は…そう視えますね…」

「今は?どういう意味です?」

「とりあえず、入りましょう綺璃子キリコさん」

「そうですね、広くて困ることはないですから気にしませんよアタシ」

「大は小を兼ねるんや、胸と同じやの……なんで無視するん?」

「いつも構ってもらえると思わないことね」

 スタスタと店に入って行く綺璃子キリコ不破ふわさん。

「…泣きそうや…心が痛い…ボグッ!!のほうがマシや…スマンかった!!綺璃子キリコ!! 胸の話はタブーやったんやな!!」

 ボグッ!!

「デカい声で言うな!! バカ猫」

綺璃子キリコ~堪忍やで~…ワシ…ワシ…泣きそうや…」

 手を繋いで改めて店内へ入る綺璃子キリコとイプシロン(仮)であった。


「早よ頼も!! まずはホテイさんビールで乾杯や!! すんませーん、生3つ!!」

「2秒前の涙は?」

「なに?」

「アンタさっき…泣いてたじゃん?」

「うん…泣いたら切り替え早よなるんやで」

「にしても…」

「おっ、来たで、来たでー、生3つ、はよ持って、いくで~カンパーイ!!…クーッ…ジョッキはちゃうな綺璃子キリコ

「アンタ、自分の姿を自覚してくんない?猫がジョッキでビール飲んでクハーッって…個室だからいいものの、店員さんがみたら、速攻でネット拡散よ」

「ここは大丈夫ですよ」

「なっ、ここは大丈夫やて、不破ふわはんも言うてはる…ん…なんで?」

「言ったじゃないですか、会員制だって」

 ガラッと、ふすまが開いて、男性の店員が入ってきた。

「失礼しま~す、火を着けさせていただきます」

 そう言うと、テーブルの中央に置いてある七輪にニュッと口を突き出して、大きく深呼吸。

「えっ?」

 綺璃子キリコが驚くのも無理はない、突き出した口が異常に伸びていたのだ。

「なに?キモい…地味にメンタルを逆なでしてくる~」

 ボワッと口先から火が噴出して、七輪に火が入る。

「お~」

 パチパチとイプシロン(仮)が拍手する。

「いや~、いつみても面白いパフォーマンスですねー」

 不破ふわさんも楽しそうだ。

「では、ごゆっくり…」

「焼くでー! 焼いて焼いて、焼きまくるでー!!」

「あのー、さっきの…」

「店員のヒョットコさんですか?」

「あ~ヒョットコさん…ですか…」

「えぇ、ヒョットコって、ほら、火男って書くんですよ」

「それで口から火がね…あ~…そういう店ですか」

「こういう店です」

「今日は混んでるみたいですね~」

「なんで解るんですか?」

「店が大きかったから…ほらっ、立派なお屋敷になってたでしょ、アレ、妖気が充満してるから屋敷が大きくなってるんですよ、つまり妖怪が沢山いるってことです、ヒマな時は、あばら家ですよ」

「あ~そういう系ですか」

「そういう系です」


 そうよね…まともな店であるわけないじゃない…。


綺璃子キリコ! ボヤボヤしてる場合じゃないで、ソッチOKや、焦げる前にいくんやで!!」

「うん…アンタ楽しそうね…生き生きしてるわね」

「当たり前や、焼肉を仕切ることに掛けては、右に出るもんわおらんでー!!」

「うん…なんか吹っ切れたから、じゃんじゃん焼いてくれる?」

「任しとき!! お前はガンガン食いたいモノをオーダーしいや!!」

「うん…とりあえず…御飯食べたい」

「なんでやねん!! 肉食いに来てメシ食うな!! ボケ!!」

「なんでよ!! 焼肉ってねー、御飯を美味しく食べるために来るところよ!!」

「なんでやねん!! 焼肉やぞ!! 肉食えや!!」

「食べるわよ!! 御飯に乗せて食べるわよ!!」

「オマエ…大概にせぇよ…メシ入れるスペースがあるなら、肉を1枚でも多く入れろっちゅうとんねや!!」

「アンタ、バカなの!! 肉1に対してメシ2の分量で贅沢するのよ、普段は肉1にメシ5よ」

「御飯5ですか…ちょっと厳しいな…メシ3くらいでしょ」


「やかましい客がいると思えば…四郎左衛門しろうざえもんか…久しいな、相変わらずだな…」

「なんや?…オロッ…オマエ…馬鹿丸うましかまるやないけ」

「ん?なんかチリチリする…」

 綺璃子キリコが感じたチリチリの正体…イプシロン(仮)の妖気が、ふすまを開けた男に向けられた敵意であった。

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