台詞オンリー小ネタ集

※ 補足が必要かと思ったけどももう一本書くのは気力が持たなかったので、台詞オンリーで失礼いたします。




①あずかり知らない

「船長が海に連れて行ってくれるのよ」

「ジャン様が?」

「あなたも行くでしょう」

「いえ、私めは」

「どうして。あなた、私が行くところには大抵ついてくるのに」

「お2人の楽しい時間を、私めがお邪魔立てするのは心苦しいというか」

「あら、珍しいのね。いいわ、じゃあ、2人で行ってくるから」

「いってらっしゃいませ。お早いお帰りを」

「……」

「うーん、いつからジャン様と仲良くなられたのか……」




②弱点

「おう、お嬢ちゃん」

「ごきげんよう、船長。海に連れて行ってくださる?」

「待ってたよ。……うん? 今日は従順なるマルクス=ヴェイカーは来てないのか」

「来ないのよ。不思議なこともあるものね」

「俺のことを信頼して……いる、のか?」

「マルクだって、いつまでも私の面倒を見ていたいわけじゃないのよ」

「いやそれはお嬢ちゃん、そんなことを言ってやるな。……あっ」

「?」

「あいつ、猫か……そういやそうだったか」

「……えっ」




③オブラートのない時代で死んだ海賊も「オブラートに包め」と諭すレベル

「この前船長が言っていたから『もしかして泳げないの?』ってマルクに聞いてみたのよ。見たこともないような顔でうろたえていたわ」

「お嬢ちゃんのほうが悪魔に近いよな」




④悪魔と小悪魔

「あなたの夢を見たわ」

「俺のか? ヴェイカーのじゃなくて」

「あなた、映画とかになってるのかしら」

「へへへ……おかげさまで」

「映画で演じてる俳優より、本物のほうがかっこいいなんて珍しいと思って」

「……」

「? どうかしたの」

「いやぁ、ヴェイカーの苦労もわかるわなぁ……」

「どういうこと?」




⑤悪魔がそろうと適当な話しかしない

「お嬢様が構ってくださらない」

「キリッと言うな。あんたいくつだよ」

「ざっと……1万3千……」

「あ、そういうキャラ設定で行くんだ」

「嘘です、時間概念のない世界で過ごしたこともあるので1万プラスx歳ぐらいでございます」

「悪魔ジョークわかんねえな……」




⑥不名誉

「船長はとっても有名な海賊なのよ」

「ほう……存じ上げず失礼いたしました」

「でも、船長はマルクのことを知っていたわよね」

「知ってるぜ。マルクス=ヴェイカーは『いつまで悪魔やってんだランキング』の上位に入ってるからな。悪魔の界隈じゃ500年程度の俺なんかより、ずっと有名だ」

「そうなの……」

「そんなランキングはございません、ふざけるな」





⑦理由があるとすれば

「船長はどうして悪魔になったの?」

「死にたくなかったからだ」

「……死んでるわ」

「次の人生を選んだら、海賊ジャン=バディルドンが完全に終わると思ったんだ。俺は俺の人生を、もう一度生き直してやろうと思った。まあ、今もそうだけどな」

「そう……マルクもそうかしら」

「いや、あの男は違うだろう。どちらかといえば、悪魔になったんじゃねえか」

「生きたくなくて?」

「本人に聞け。……まあ、それはそうとしても」

「?」

「『生きたい』と『死にたい』のハイブリッドみたいな嬢ちゃんは、確かにもう死んだ俺たちの至れるところではねえやな」




⑧理由なんてものはそれだけでいい

「あなたはどうして悪魔になったの?」

「お嬢様が、私のことなどお気になさるとは。このマルクス、幸甚の極み」

「茶化さないでもらえるかしら」

「気づいたらこのような身になっていたもので」

「ふうん……」

「何か」

「船長がね、あなたは悪魔になったんだろうって」

「面白いことをおっしゃる」

「それからね、私のことを『生きたいと死にたいのハイブリッド』って言っていたのだけど」

「……」

「ハイブリッドって何かしら」

「ふふ」

「笑ったの? ばかにしているのね」

「いえいえ、お嬢様。ジャン様のおっしゃることも一理あります。私は転生を拒んだのですよ、生きるのが馬鹿らしかったので。そのうち、悪魔になどなってしまいました」

「ふうん」

「“生きたい”と“死にたくない”が違うように、“死にたい”と“生きたくない”もまったく意味が違うものでございます。だから私たちは、貴女のことが好きだ。生きたいと叫ぶことのできる貴女が、時折は死にたいと泣く貴女のことが。生きるということそのもののようで、たまらなく愛しい」

「そんなもの、きっとみんなそうよ」

「それでも私と出会ってくださったのは貴女だ」




⑨この大人たちは

「アイスクリームは……」

「バニラが一番、」

「やっぱチョコだろ」

「たまにはストロベリーにしてみては?」

「……」

「……」

「バニラにいたしましょう」

「そうだな」

「何よ、その顔! いいわよ、全部頼むから!」

「どうだ、チョコレートが美味いだろ」

「ストロベリーもなかなかでしょう?」

(食べないくせに嬉しそうだわ……)




⑩魂と苦痛の話

「船長は夢を見せるだけなの?」

「だけ、とは何かなお嬢ちゃん。なめてると痛い目みせるぞ」

「でも目が覚めたら元通りだわ」

「……いいか、お嬢ちゃん。痛い思いをしたり苦しい思いをするとな、その思いの分だけ魂に傷がつくんだよ」

「魂に?」

「何度生まれ変わっても消えない傷だ。消えないから、増えていく。そうやって耐え切れなくなった魂から消えていくようにできてんだ」

「魂に終わりがあるの?」

「そうだよ。全てはいつか終わるもんだ。それで、な。大事なのが、魂の傷ってのは実際の体の傷と必ずしも同じじゃない。あんたが痛いと思っただけ、苦しいと思っただけ、その通りに魂が傷つくんだ。夢の中で痛い思いをしたり、苦しく思えば、そのように魂が傷つく。まあ、逆に言えばどんなに凄惨な死に方をしたって苦痛を感じなければ魂にはほとんど傷がつかない。死ぬときは楽に死にな」

「……こわい話ね」

「そうだよ、覚えとけ。苦痛は魂に刻まれる」




⑪魂に刻まれるストーリー

「船長が」

「またジャン様のお話ですか? お嬢様は相当、あの海賊長様がお好きでいらっしゃる」

「言っていたのよ。“苦痛は魂に刻まれる”って。死んでも生きなおしても、けして消えないんですって」

「ほう……」

「それで、魂の傷が限界になると、消えちゃうんですって。なくなっちゃうの。こわいわ」

「なるほど。まあ、実際にそうでございますが」

「魂が消えるところ、見たことある?」

「ございますよ、何度か」

「伊達に『いつまで悪魔やってんだランキング』に載ってないわね」

「そもそも載っておりません、お嬢様。……いちどだけ、傷の積み重ねというよりは、一生だけで耐えられないほどの傷を負って消えた魂を見たことがありますが」

「一生分で?」

「なかなか、やり切ったお顔をされていましたよ。もしかしたら、人が全力で自分の一生と向き合うには、本当はあれだけの傷を負わなければならないのかもしれませんね」

「……そんなこと、できないわ。だってだれも、傷つきたくなんてないもの」

「ええ、そうでしょうとも。私も、あの時の彼の表情には納得がいっていないのですよ。でも、」

「でも?」

「無数にある世界の中で、これまた数えることも困難なひとりひとりの、ひとつとして同じものはないストーリー。私には、否定することなどできませんので」

「嫌な感じね、何でも知ってるみたいで」




⑫たわむれに生きている/死んでいる

「私を海に連れて行ってくださいませんか」

「……女に言われてえ台詞だなぁ。どういう風の吹き回しだ?」

「お嬢様に私が泳げないなどと誤解されているのは心外でございますので」

「誤解じゃないのでは」

「これから泳げるようになります」

「生きてるときに克服できなかったもんを……」

「プロの方に教えていただくのですから、大丈夫でしょう」

「海賊は水泳のプロじゃねえんだよな……なんか準備体操始めてっけど」

「……」

「……」

「何か?」

「あんた、本当にあの娘を愛してるってのか」

「今更なんです」

「はぁ……女を抱いても感じねえ体で、愛なんてねえ」

「欲情だけが愛ではないでしょうに」

「転生という形の生すら拒んだ悪魔が、生そのもののような子どもになぜ今さら執着する? 不毛だぜ、ヴェイカー」

「……貴方こそ」

「あ?」

「どれだけ生き続けようと足掻いても、死んでいる貴方には望むものを手に入れることなどできないのですよ。あなたも薄々気づいてらっしゃるでしょう、“魂を食べれば生き返れる”なんて、そんなルールは誰も作っていないのですよ」

「……」

「……」

「余計なお世話だわな」

「まったくでございます。早く泳ぎを教えていただけませんか」

「おうおう、それが人にものを頼む態度かよ。悪魔にも老害はいるんだな、マルクス=ヴェイカー」

「海賊長だか何だか存じませんが、目上の者に対してその傲慢さ。まったく今どきの悪魔というものはどうなっているのです、ジャン=バディルドン」

「……ハッ」

「ふふ」

「「今さら人間の真似事なんて!」」

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キャロルと悪魔の夢 hibana @hibana

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