23.Vanadium 【バナジウム】


 22番に褒められた!

 ようし、やる気が出てきたぞ。


 僕は23番。ありふれた遷移金属だ。少しだけ話をきいてくれると嬉しいかな……あっ、でもあんまり期待はしないでね。微妙な知名度、単体では使いづらい性質、偏った産出地、うん、特に長所が見当たらない。うんうん……ああ、ちょっと落ち込んだぞぅ!


 まあ、僕は基本脇役だからね。

 26番に添加され、合金になるのが最善最大の用途だし。主役の金属の強度を上げることが僕の役目だ。そう、僕を添加した工具鋼や高速度鋼は、屈強な巨人族の名を冠した22番よりもずっと硬い。そのぶん重くはなるけど、コスト面ではこちらが勝る。

 もっとも金属業界は安価で硬く、軽い合金を求めて日々研究開発がされているから、僕の価値がいつ暴落してもおかしくはない。うう、暴落は嫌だな、頑張ってアピールしなきゃ。


 えー、僕の名が刻印された工具は、金物屋やホームセンターにいけばずらりと並んでいるので、見つけるのは簡単だと思う。日曜大工に使うモンキーレンチ、高速で回転してあちこちに穴を開けるドリルビットなどは、定番中の定番だよね。

 でも、勘違いしないでほしい。誇らし気に名前が刻まれてはいるけど、僕はほんの少量添加されているだけにすぎないんだ。多くの工具、金属部品に主原料として使われているのは26番。その圧倒的な存在に比べれば……いや、比べることすらおこがましい。ああ、自分語りなんてしてること自体、恥ずかしくて消えたくなってきた。


 重ねて言っておくけど、僕を買いかぶっちゃダメだ。

 たとえば、僕の名を使ったミネラルウォーターを知っているだろうか。確かに僕を含んだ地下水は存在する。だけど、それがニンゲンの身体にどう作用するかは、未だ研究段階、すなわち未知数、胡散臭いことこの上ない。摂取するのを止めはしないけれど、『健康に良い』という謳い文句を鵜呑みにしないほうが良いって、忠告させてもらうよ。


 よーし、このくらい喋れば充分だろう。ようやく次は24番。

 番号も隣、合金としてもよく一緒になる。僕よりずっと役に立つ奴なのは間違いないけれど、ちょっぴり自己主張が激しいとこがある、かな?


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