22.Titanium 【チタン】


 よう、俺様の名前を知ってるか?

 俺がどんな性質なのかはともかく、名前くらいは聞いたことがあるよな?


 俺の呼び名はギリシャ神話の巨人族、ティタンにちなんでいる。

 神話より前に世界を支配していた、巨大な身体をもつという古の神々の名だ。つまりニンゲンたちが俺に、それほどの価値を見出したということだろう。


 もちろん名前負けなどしない。俺はよくある26番の合金より強く、そして軽い。そりゃま、13番よりは重いけどな、あれよりもずっと丈夫だ。この性質が見込まれ、今じゃ俺はありとあらゆる分野で重宝されてる。名前が売れたおかげで粗悪なニセモノも出回ってるらしいが、ま、これも人気者の常だ。騙されないよう、せいぜい気を付けるこった。


 ニセモノが出回る理由は単純、俺は貴重だからだ。けど、別に量が少ないってわけじゃない。8番との化合物、二酸化チタンは超安定で大量に存在するし、化合物として白い絵の具や印刷なんかにもよく使われている。要は、俺だけ、単体で取り出そうとすると、精製が難しいんだ。


 けど、だけど、だ。苦労して精製するだけの価値が俺にはある。

 丈夫で軽いというだけじゃなく、錆びにくい。そう、便利で軽い13番と同じパターンだ。空気中の酸素と反応すると、すぐさま俺の表面に被膜ができあがる。この被膜ってのが、とにかく反応しにくい。俺を溶かすのは、濃塩酸くらいのもんだろう。そうは言っても、俺が形作っているもの……例えば航空機や自転車のフレームに濃塩酸をかけるバカはそうそういないはずだから、ま、気にしなくていいよな、濃塩酸のことは。


 とはいえ、軽くて丈夫で、反応しにくい金属は俺のほかにもいる。

 俺が重宝されている理由は、それだけじゃない。


 よく聞け、俺様の真価はニンゲンに密着して……というかそれ以上、つまり体内でこそ活かされる。体液に反応しないのはもちろんだが、どういうわけか、俺はニンゲンの骨組織にうまいこと馴染むことができ、アレルギーもほとんど起こさない。な、この意味がわかるか? つまり俺は、失われた歯や骨のかわりになって、ニンゲンの体内で、日常生活の手助けができるってわけだ。辛い思いをしてるやつがいて、それを助けることができるのは、なかなか良い気分だよな。

 ここだけの話、この名をくれたニンゲンにちょっとばかり感謝してるんだ。なぁに、これからも俺に任せておけば、悪いようにはしないぜ。


 じゃ、そろそろ23番に譲るとするか。

 あまり前に出るタイプじゃないが、やつが金属として自分の役割をきちっと果たしていることだけは、ホームセンターの工具売り場で確認してくれ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る