24.Chromium 【クロム】


 ハイ、ご紹介どーも。

 微妙に後ろ向きな23番には、クロムバナジウム合金でいつもお世話になっている。

 自己主張が激しいってのはご挨拶だけど、それは俺の責任じゃないと思うぜ?


 えー、あらためまして、俺は24番。ヒトの身近なとこでは、車のドアの取っ手とか、バンパーとか、そのバンパーの上についてる車の名前とか、ようは鏡みたいな銀色部分、純粋な俺はそこに存在している。ま、顕微鏡レベルのうすーいメッキだけどな。ほら、俺って腐食しにくいしピカピカの光沢だし、とにかく見栄えだけはいいからさ。


 見栄えがするのに、47番や78番みたいに装飾品に使われないのは、俺がお安い金属だからだと。やっぱ金属はある程度希少価値がないとありがたみがないらしい。無駄にピカピカしてるとこも、薄っぺらい、安っぽいと思われるのかも。でもな、安定感抜群だけど目玉が飛び出るほどお高い78番や、すぐに黒く酸化する気難しい47番に比べたら、俺は扱いやすいと思うぜ?


 金属としての俺はキレイなお姉さんの指輪やネックレスになれないけれど、宝石類の発色にひと役買うことが多い。例えばコランダムってやつ……、えーとあれだ、酸化アルミニウムの鉱物に適量含まれると、そいつを赤く発色させることができる。これが一番有名な赤い宝石、ルビーってやつだ。“適量”っていうのがかなり微妙で、俺が出しゃばると酸化アルミニウムはどんどん黒くなっていくし、価値も下がっちまう。具体的に言うと1%以下の含有量でないとNGらしい。自然の状態で俺の含有量が1%以下ってかなり難しい条件だから、天然ルビーがありがたがられるってわけ。ヒトってのはよくよく、珍しいものが好きだよな。

 けど、『珍しい』と『価値がある』は、イコールじゃないと思うぜ。


 例えばの話。

 26番を主体とした合金に俺の存在は欠かせない。俺も26番も、希少でもなんでもないありふれた金属だけど、硬貨によく使われる28番も仲間に加えて混ぜ合わせると、みんな大好きステンレス鋼ができる。さびにくくて、硬くて、安い。ステンレスがどれだけヒトに貢献してるか、そんなことわざわざ考える奴なんていないくらいに役に立ってるはずだ。

 な、たくさんあるってのはありがたいと思えてくるだろ?


 さて、次に控えてる奴も、希少ってわけじゃないがヒトの生活に必要な元素だ。いろんなとこに使われてるし、どこの家の引き出しの中にもストックされてるんじゃないか?


 よう、せいぜいアピールしろよ!




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