6.Carbon 【炭素】


 はぁい、真打ち登場ってね。あたしは6番。


 生命の設計図、DNAのらせん構造の骨組みは私が作っているの。つまり、この世界の生き物の構造を造り上げているのはこのあたしというわけ。それだけでもあたしの価値は充分ナンバーワンだけど、もちろんそれだけでは終わらない。呼吸や光合成みたいな生命活動を支える役目もこなしてるし、生活に欠かせないエネルギー、燃料なんかを構成する元素でもあるんだから。つまり、ニンゲンなんて生き物は、あたしがいなかったら存在すらできないのよ。そこのところをよーく覚えておくように。


 そんな生命の神秘を一手に引き受けながら、違う方面ではすっごく親しみやすかったり、逆に高価過ぎて手が出なかったりするのもさすがって感じでしょ? ギャップ萌えさえ自由自在なこの万能感!

 身近なところでは鉛筆とかシャーペンの芯とか、バーベキューで美味しくお肉を焼いちゃう真っ黒な炭も、このあたし。それからとびきり高価なのは、言わずと知れたダイヤモンド。もちろん、宝飾用のダイヤモンドがあんなにキラキラ美しいのは、半分くらいカットするニンゲンの手柄であることは認めているわ。だけどそれだって、硬くて屈折率の高い構造の、あたしあってのことだけどね。

 他にも活性炭は冷蔵庫の消臭に使われるし、炭素繊維の軽くて弾力性のある構造は、釣り竿から飛行機にまで使われてる。この汎用性の高さ、あたし以外に真似できないんじゃない?


 そう、あたしはあたし単体で複雑に繋がり、いろんなモノになることができる。

 あたしの原子を蜂の巣みたいにつなげると、シート状になる。これを積み重ねれば黒鉛。つまり、さっき言ってた鉛筆の芯ね。で、そのシートを筒状に丸めると、科学的にみてものすごく、史上最強に丈夫な素材、カーボンナノチューブになるの。まだまだ研究段階ってところはあるけど、将来的には色んなコトに利用できる新素材として期待を背負っているのは間違いないわ。丈夫で軽いことを活かした構造素材としての利用の研究、電導性の高さからの燃料電池としての研究、それから今は14番の独壇場、半導体としての研究、とか、ね。ふふっ、見てらっしゃい、14番。すぐに半導体としてもあたしの勝ちだってこと、思い知らせてあげるんだから!


 とまあ、なんか難しい話はここまでにして、とにかくあたしはあたしだけの同素体で、色んな形に変化して、いろんなところで役立ってるってこと。よーく覚えておいてよね。ええ、遠慮せずにほめたたえてもいいのよ?


 よく一緒になるのは8番のあいつだけど、あいつとくっつくと即死属性がついたり、排出量を規制されたり、ロクなことがないのよね。ま、悪いやつではないし、あたしと同じく生きものになくてはならない元素だから、多少のことは目を瞑ってあげてもいいと思ってる。

 それからやっぱり、1番は特別。すべてのはじまりは1番なわけだし、あたしと反応してできたさまざまな化合物もニンゲンの生活に欠かせないモノばかりだもの、頭があがらない。


 あ、そういえば5番のやつがあたしのことをどうこう言っていたけど、可笑しいったらないわ。あたしはあたし、5番は5番、それぞれの特徴ってものがあるでしょ。あたしには害虫の駆除はできないし、原子炉の中性子を吸収するのもゴメンよ。そんなことも理解できず、7番を巻き込んでダイヤモンドより硬くなろうだなんて、5番の手柄にはならないわ。前々から思ってたけど、一度びしっと言ってやったほうがいいかもね。


『あんたなんか最初からあたしの眼中にないんだから、背伸びしたって無駄なのよ』

 ……あら、これじゃ喧嘩を売ってるみたいかしら。

『どんなに努力しても、あたしにかないっこないんだから、害虫駆除を頑張りなさい』

 ……うん、これなら5番も納得するんじゃない? え、駄目?


 ほら、あたしって唯一無二の存在だから、あんまりこういうの、向いてないの。だから5番を励ます役目は、やっぱり7番に任せることにするわ。




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