僕の高揚


 僕の姿をみとめると、妻は手を振り、笑顔を見せた。少し疲れているように見える。だが、往来の人を避けて、妻の傍に駆け寄ると、彼女はまた、いつものように幼い、くだけた印象のはにかみを浮かべた。



「キミちゃん、お疲れ~」


妻の買い物袋を受け取りながら、僕も笑顔で返す。


「若菜も。病院は、どうだった?」



 二人で歩き出しながら、妻の右腕をすかさず確認する。そこには、真新しい白い包帯が巻かれており、僕はひとまず安心する。飲食店の並ぶ上階に行くため、頭上の案内を見ながら、エレベーターに向かう。



「うーん、まぁまぁかな。ちょっと話をしたりして。でも、惚気話になったかも。先生も呆れてた気がする」


「…のろけ?」



僕が訊き返すと、妻はこくんと小さく頷き、会話はそこでいったん途切れた。


 混雑するエレベーターでは若菜を庇いながら、各階で乗り降りするお客に耐えた。降りたら降りたで、今度は店の前に並んで、テーブルが空くのを待ち、ようやく食事になる。


それでも僕は、いつになく気分が高揚しているのを、自覚していた。もしかしたら妻に、無理をさせているのかもしれない。それでも今日は、何度でもいいから、『ありがとう』と言いたい。


 

 僕は努めて平静を装い、彼女の様子を観察する。今晩の天ぷらセットは、二人一緒だ。炊き込みご飯に舌鼓を打ち、妻がおいしそうに食べる様子に、僕は満足した。


食欲も戻って来ている。そんな気がした。



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