第2話ぼくの副業

ぼくの副業はヒーロー。このことは、誰にも話していない秘密なのだ。



 ぼくは今、外にいる。初夏、まだ風が冷たい真夜中だ。

 天ノ鳥通信を片手に、高い木の枝の上に立っている。

「ここから南のショッピングモール付近か」

 ペンダントに触れる。

「(ぼくに、力を貸してくれ、カイナ)」

とたん、ばさっと漆黒のマントがはためく。

 「さて……任務開始だ」

ペンダントの力を借りて、ぼくはヒーローに変わる。

 マントを翻して、木から飛び降りる。

 タン、と小さい音を立てて着地する。

 ここから現場まで、ペンダントの力を借りていればそんなにかからない。普段のぼくだったら……どうだろうな。

 リズミカルに、町を駆け抜ける。

 少し走ると、前方に2匹の風狼が見えてきた。

 ……暴れているわけでは、ないのか……?どちらかというとぐったりしているような……。

「すみません……」

どうやら2匹は家族らしく、大きいほうの風狼が、野次馬で集まっていた猫たちに話しかけた。すると、猫たちは悲鳴を上げてその場から逃げ出す。

 ぼくは、見てしまった。これで、やっとこの事件の真相が

 すばやく逃げ出した猫たちの進行方向に降り立つ。

「みなさま。お待ちください」

「なんなのよアンタ! アンタも天ノ鳥通信読んだでしょ!?」

先頭を走っていた猫が叫ぶ。

「ええ、もちろん。読みましたよ」

「じゃあわかってるじゃない、あいつらが犯人だって!」

やれやれ。ここまで勘違いされてるとなかなか面倒だ。

「ていうかアンタ何なの? 仮面にマントって、コスプレしてるつもり?」

では、自己紹介。

「俺はファルカイル。平和主義者の、正義の味方だ」

「正義の味方ぁ?」

「俺はこの事件の真相を知っている。……先に風狼さんたちの手当てをしてあげてくれないか?」

「嫌よ、治癒したら襲ってくるかもしれないじゃない」

そこまでいうなら、俺がやるしかないな。

「ごめんな風狼さん。もうちょっと早く来られればよかった」

治癒魔法を発動。今できるのは応急処置程度だが、しないよりはましだろう。

「あとでちゃんと治療しに戻ってくるから、おとなしくここに向かってくれ」

簡素な地図を渡し、そっと耳打ちをする。

「熊はちゃんと退治しとくから」

それを聞いた風狼は、こくりとうなずいた。

 俺は、その場から離れ、さっき目に入った東の集落へ向かう。

 待ち伏せしていると、予想通り、大きな熊が鼻をひくつかせて入ってきた。

 「おい」

「ん? 何だ、ちび猫」

「あなたはなぜ風狼を襲う?」

「食物確保のためだ。結構豊かだからな、ここの集落は」

 猫の国にも、ほかの種族が住む町や集落は存在する。ここは、主に風狼が住む集落だった。今回の事件は、熊が風狼の集落を襲い、逃げた風狼が助けを求め、それを追いかけた熊が行く先々を荒らしたせいで誤解が起こっているようだった。風狼は、何も悪くない。

 「……そうなんですね。どうやら、あなたとの平和的解決はできないみたいだ」

……戦闘開始っ!

 いつもどおりスピードで圧倒する。右、左、右、左と相手を振り回す。

 最後は、背後にまわって首筋に爪を立てる。

「これでも、あなたの里に帰ってくれませんか」

「……いや、参った。完敗だ。……里に帰るよ」

「そんなに食物に困っているのなら、毎週日曜、国境に来てくれ」

いくらさっきまで敵だったとしても、困っている者がいたら助けるのが俺のモットーだ。

「わかった、ありがとう。おれは隠れ熊の里の長、ファングルだ」

「俺はファルカイル。よろしく」

俺はファングルと握手をした。

 その後、急いで風狼さんとの約束の場に向かった。

 そこはツリーハウスで、森の奥にあるので、見つかりにくい。

 「申し訳ありません」

風狼さんが、ぺこりと頭を下げる。

「いいえ。勘違いしたのは猫のほうですから」

手当てを終えて、二晩くらいは安静にしてくださいと告げ、家に帰る。

 ここまでで約一時間弱。まあ、悪くないんじゃないか。

 家に入る前に、自分の部屋の窓の横に生えている木の枝にのぼる。

「カイナ。ありがとう」

変身を解く。

 そしてよろけながら、何とか自分の部屋に戻る。

 さっとベッドにもぐりこむ。

 「任務……完了」


(つづく)

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