ファミネコヒーロー

紅音

第1話ヒーロー……?

本業、学生。副業――ヒーロー。それが、ぼくの正体である。



 「いってきまーす!」

ぼくは、家の扉を勢いよく開けて、外にとびだした。

 ぼくの名前はファミ。普通の、何の変哲もない小学5年生の、オス猫である。

 ん? 何で猫なのに小学生かって? ……仕方ないなあ、このぼくが教えてあげよう。

 ここは、ニンゲンで言う「どうぶつ」たちが自由に暮らす世界。みんな普通にしゃべったり、二足歩行(たまにはちゃんと四足歩行)だし、ニンゲンと同じように、いろんなことをする。

 とりあえず説明はこれくらいにしておいて、とりあえずは急いで学校に向かう。

 今日は、終業式なんだ。だから、明日から夏休み。すっごい楽しみなんだ。

 「うに゛ゃっ」

急に首根っこをつかまれて、変な声が出てしまった。

「朝からはしゃぎすぎ。急いでも終業式が終わる時間は変わらないから」

「ナタリ……」

同じクラスで委員長で幼なじみのメス猫の、ナタリだった。

 仕方なく、ナタリと並んで歩く。

 おかげで、あのあと学校に着くのに予定より5分も遅くなってしまった。

 終業式中、何度もナタリに小突かれた。以前、何でいちいち小突いてくるのか聞いてみたけど、

「あんたがうとうとしてるからでしょ」

と言われた。ナタリには悪いけど、全然自覚無い。

 学級活動で成績表が配られた。ぼくは体育がB、あとはAだった。体育は、昔から苦手で、今までAをとったことがない。

 「ファミ~。お前Aいくつ?」

クラスメイトで友達のカルハが聞いてくる。

「いつもどおりだよ。体育だけB」

苦笑いしながら答える。

「えぇ、まじか~。さすがだな。うらやまし~」

「そういうカルハはどうなのさ」

「おれ? おれは、前のCがなくなって、あとは全部変わらなかった!」

「おぉ、よかったじゃん!」

カルハは、算数が苦手で、前回Cを取ってしまっていた。でも、今回はCを抜け出したらしい。ほかは別に悪くない成績でBよりAのほうが多いので(もちろん体育はA)、ぼくとしてはすごくうらやましい。

 下校は、いつもどおりナタリと一緒に帰る。

「ナタリは、やっぱオールAだよね」

「うん。まあいつもどおりかな。ファミは……いつもどおり体育がBなんだっけ?」

「まあ……」

ナタリは、勉強も運動もできて、完璧だ。それに比べて、ぼくのできなさといったら……。体育なんてこれまでに数回Cをとってしまったことがあるくらいだ。たぶん今回もぎりぎりBなんだと思う。

 「じゃあ、また今度。うちに宿題やりにきてね」

「うん。また今度」

軽いあいさつをして、ぼくたちはわかれた。

 「ただいまー」

「おかえり。お昼ごはんまでもうちょっとかかるから、待ってて」

台所から、母のナーミャが声をかけてくる。

「はーい」

ぼくは短く返事をして、2階にある自分の部屋にこもった。

 そしてすぐ、きらめく鉱石がちりばめられた水晶のペンダントを、首から下げる。

 宿題のプリントを机に広げ、とりかかる。

 しばらくして、母がぼくを呼んだ。その声ではっと顔を上げると、棚の上に一通の手紙が置いてあるのに気がついた。

 「天ノ鳥通信あまのとりつうしんか。……号外だ」

天ノ鳥通信というのは、日々のニュースや天気が書いてある、市民通信だ。号外のときは、災害注意報や事件のような緊急なことが多い。

 内容を見ると、2つ先の地区に住んでいるはずの風狼ふうろうが、ここ「猫の国」に侵入し、暴れているのだという。被害を受けた場所の写真が、大きく載せられていた。

 ぼくには、家族にすら話していない特別な秘密がある。

 そっとペンダントに触れる。


 本業、学生。副業、ヒーロー。

 今夜、事件解決のために出動する。


(つづく)

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