第3話ヒーローの休日

何を、どう頑張ろうと、学生のぼくには何もできない。



 「くああああ。あー、眠い……」

ぼくの副業はヒーロー。そんなぼくの休日の過ごし方。

「ファミ。そろそろ起きな。夏休みっていっても、規則正しくしないと」

ぼくの兄弟が起こしに来る。そういや今日から夏休みか。

 昨夜、号外で知った事件を約1時間で解決したぼくは、夜の1時ごろ、眠りについた。

 そのせいで、朝7時になった今も、かなり眠い。

 でも、副業を秘密にし続けるためには、言い訳ができない。

「仕方ない。起きるか」

むくりと起き上がり、リビングへと向かう。

 「ファミ、おはよう。今日もちゃんと天ノ鳥通信届いてるわよ」

毎日通信をチェックしていることを知っている母が声をかけてくる。

「あー、うん。わかった」

 テーブルの上に置かれている天ノ鳥通信を広げる。

「あっ、あー」

 しくじった。いつもは写真を撮られないようにずっと動き続けてたりしているのに。しかも今回は名乗ってしまった。夏休みに入って浮かれたのか。

 ぼくのことが天ノ鳥通信に大きく載せられてしまっていた。

『ついにあのの写真と名前をGET!近頃市民を騒がせたあの風狼事件も解決!我らのヒーロー、その名はファルカイル!(写真つき)』

とある。メインタイトルでかすぎ。もう写真つきとか恥ずかしい。やってしまった…。

 「はあ……」

ため息をつきながら天ノ鳥通信をテーブルの上に置く。

「どうしたの?ため息なんかついて」

「え、あ、いや……、今年の夏休みは宿題が多いなーって」

「がんばれ」

がんばれって……まあ、頑張るしかないんだけど。

「うん。だから、今日は図書館行ってくるね」

「わかった。お弁当は?」

「いる。ありがとう」

そして朝ごはんを食べる。

 1時間後、支度を済ませたぼくは、家を出た。

 向かうのは、とりあえずはあのツリーハウスだ。もちろん、風狼さんを見に行くためだ。いろんな果物も持ってきた。

 あのペンダントも、忘れずに首から下げている。

 ツリーハウスまでは、家から5分くらいかかる。ぼくは歩くのが遅いから、もうちょっとかかってるかもだけど。

 ツリーハウスに着いた。木の下に荷物を置いて、果物だけを持つ。そして縄ばしごをのぼる。

 はしごを上りきろうとしたとき、真上から低いうなり声が聞こえてきた。

「…!?」

はしごにかけていた手を思い切り踏まれる。全く動かせない。

「おれに何の用だ!?」

風狼さんは言った。ぼくをにらむ視線が痛い。もちろん、手も。

 やっぱり、カイナにいちゃんの力を借りていないと、彼のように強くなれないんだ……。

「ご、ごめんなさい……。すぐに帰るんでっ」

ぼくは必死だった。

 でも、風狼さんは見逃してくれなかった。

「誰にも言えないようにしてやらなくちゃか?」

そういって、ぼくの左前足に噛み付く。

「……っあ、ああああ、あっ、うあっ……」

踏まれたまま、噛まれたまま、10秒以上が経過した。左前足からは血のしずくが滴り落ちている。

 痛みに耐え切れず、ぼくははしごから手を離してしまった。血がかなり出てしまっているようで、思考回路がうまく回らない。

 すると、ふっと体から力が抜けた。遠ざかる意識の中で、自分が落下しているんだとわかった。

 やっぱ、素のぼくには何もできないんだな。

 ぼくは、地面にたたきつけられた。


(つづく)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る