間章 次元を超える前に

第28話 超越

「次元の扉、って知ってるかい?」


「目撃例は少ないんだけど、限定された地域じゃなくて、世界のどの地域でも発見されててね」


「つまり、それは風土に依存するものじゃなくて、人間に由来するって言われてんだ」


「アタシね、見たことあるんだ、それ」


「まぁ、随分と昔で、まだ子供だったから、夢だったんじゃないか、とか、見間違いじゃないの、って言われたら、正直自信無くなっちゃうんだけどね」


「でも、頭にははっきり残ってる。一言で言うとね、綺麗なんだよ」


「神秘的、って感じで」


「アタシも研究者の端くれだからさ、文献を漁ったり世界中を旅したり、まぁいろいろやってきたわけよ」


「それでね、分かったことがある」


「大昔の文章解読したら、確かに書いてあった」


「死人に再会しけり、って」


「あ、別にこの国の文書じゃないんだけど、一応古文書っぽく訳してみた」


「それはさておき、その死者との邂逅の供述が一つじゃなかった」


「だからね、次元の扉をくぐった先に何があるのかははっきりしていないけど」


「高い公算で、会えるはずなんだよ、もう一度」


「もし、次元の扉の発動条件を解明して、それを現世に固定させることができれば、きっと・・・」


「死者に会える。お父さんとお母さんに、会える・・・!」



・・・渚。


お前の話は、本当だったな。


扉、という形はしていない。


形どころか、色すら、何も見えない。


でも、ある。


蜃気楼、よりも、はるかに空気が歪んでいる。


周囲の大気が吸いこまれている。


あれが、『次元の扉』か。


禍々しさはない。


見ているだけで、心が洗われ安らぎを覚える。


僕はそこへ向かって、体を引きずる。


死んだ体に、あとほんの少しだけ、無理をさせて。


千尋。


琴音。


健二。


渚。


楓。


真紀。


お前たちにもう一度会えるのなら、仮にこれが世界の禁忌だったとしても─。


僕はその、見えずとも、確かに『ある』ものに触れる。


その瞬間、僕の体、肉体は、『この世界』から姿を消した─。

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