第5話



彼は目をキラキラさせながら、先程の美術館の作品について語っていた。

わたしはうんうんとしか頷く事もままならなかった。


そんな調子で五分くらい歩いたところにある、タルト屋さんに着いた。


彼は得意げな顔をしてから口を開いた。「前にタルト好きって言っていたから、連れてきたんだ!!」と自信満々に言っている。わたしが前に言った事を覚えてくれてるのは嬉しかったし、照れた。思わず、照れ隠しで「へぇ、覚えてたんだ。」と普通のテンションで返してしまった。どうしようと思った。「ごめん、」と思わず口走ってしまった。「?」と彼は小首を傾げるので、「さっき、冷たかった、覚えててくれて嬉しい」と訂正をした。「そっか、よかった」と安心した顔に変わった。ちゃんと自分の気持ち言えてよかった。


30分くらい待ってから、店内に入るように案内をされた。店内に入ると人はたくさんで、みんな楽しそうに可愛くて美味しそうなタルトを口にしていた。わたしも早く食べたいなぁと思って見ていた、ら、彼が「もうすぐだからね」と声をかけてきた。なんでわたしが食べたいなぁと思っているのがわかったのか不思議で仕方なかった。食べたそうな顔してるよと彼にくすくす笑われた。なんでわかるのと聞くと見てたらわかるよとの答えにならない答えが返ってきた。答えになってないよ。と返したら列記とした答えなんだけどなと返された。何処がどう答えなのかさっぱりだ。そんなこんなでこんなやりとりを続けていたら席に案内された。店員は私達にメニューと水とお絞りを置くとさっさといなくなってしまった。


私はメニューにさっと目を通して即決で桃と夏の果実のタルトに決めた。だが、ここですぐに決めた事を彼に伝えて良いのかわからなかった。だから、私はメニューと睨めっこするふりをした。彼は相変わらず鈍くて、私の睨めっこしている「振り」に気付かない。その上、もう一つ食べたいのあったのと聞いてくるのだ。とりあえず、その質問に対して、ないよ、でもね、まだ決まらないのと困り顔をまたもや作る。彼はそっか、僕ももう少し迷いたいからいいよと。今まで付き合ったりデートしてきた男性の中で、1番スマートで優しい返答だった。

時間を見計らってから、彼にようやく決まった事を伝え、二人のオーダーを通した。


私は桃と夏の果実のタルトとアールグレイのアイスティーで彼はクラシックショコラとコーヒーを頼んだ。

私たちは注文したものが来るまで会話という名のキャッチボールを存分に楽しんだ。彼の口から出る言葉はなんだか心ここに在らずといった感じがして私を不安にさせるだけだった。早くケーキがくればいいのにと心の中で思った。


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