彼等はなぜ光るのか? ②ホタルは水辺の生き物じゃない!?

 発光する生物に迫る今回のシリーズ。

 前回はホタルイカに注目し、彼等が光る理由を徹底解剖しました。

 第2回目もまた海の生物に着目しつつ、陸上にも目を向けたいと思います。


 世間一般的に、光る生物にはレアなイメージがあります。


 実際、脊椎動物の中で光るのは、魚類だけです。

 2017年現在、発光する哺乳類や爬虫類は発見されていません。


 ところが脊椎動物以外を見てみると、ほとんどの種に光る生物が存在します。

 昆虫やクラゲが光るのは、常識と言ってもいいでしょう。しかしキノコやミミズが光ると言ったら、多くの方が驚くのではないでしょうか。


 八丈はちじょうじま小笠原おがさわら諸島しょとうに生えるヤコウダケは、緑色の光を放つキノコです。また日本各地に棲息するホタルミミズは、その名の通り、光る粘液を吐き出します。


 一般的なイメージに反して、自然界には発光する生物が少なくありません。

 一方で、光る理由に付いては、生物によって様々です。


 前回紹介しましたが、ホタルイカの発光器は身を守るのに役立っています。

 

 深海に棲息するギンオビイカも、光を防衛に使っているイカです。

 彼等はコウイカの仲間で、水深200㍍付近に棲息しています。

 体長は4㌢足らずで、お世辞にも大きいとは言えません。


 多くのイカは、身を守るために墨を吐き出します。

 ギンオビイカも同様ですが、吐くのは墨だけではありません。

 同時に青白い発光液を噴き出し、敵を攪乱かくらんします。


 暗い深海に突然現れた光は、捕食者の目をくらませます。

 また目立つ光は、囮としても有用です。

 ギンオビイカは相手の注意を光に集め、その隙に逃げてしまいます。


 美しいウミホタルも、身を守るために光を使っている生き物です。

 光ることは有名な彼等ですが、何者なのかは知られていないのではないでしょうか。


 意外なことに、彼等はカニやエビと同じ甲殻こうかくるいです。

 また雑食で、魚の死骸やゴカイをエサにしています。


 見た目はミジンコに似ていますが、身体は透き通った殻に覆われています。

 ちなみに、ミジンコも甲殻こうかくるいの一種です。


 体長は3㍉ほどで、日本全土の浅瀬に広く棲息しています。

 ただし夜行性の生物で、日中は砂の中に潜んでいます。

 また温暖な環境を好み、水温の冷たい場所では見付けることが出来ません。


 ヤコウチュウと混同されることも多いですが、あちらは動物プランクトンです。またヤコウチュウはたん細胞さいぼう生物せいぶつで、大きさも1㍉程度しかありません。


 ウミホタルは敵に襲われると、上唇じょうしんせんから発光液を分泌します。

 上唇じょうしんせんは細かな管が寄り集まった器官で、黄色く染まっています。色の正体は光の元になる液体で、肉眼でも確認することが可能です。


 発光液は青白く輝きながら、煙幕のように広がっていきます。ウミホタルは相手が光に気を取られている間に、安全な場所まで逃げてしまいます。


 更に彼等は発達した目を持ち、敏感に光を察知することが可能です。

 しかも光から逃げ出す性質があり、月のように弱い輝きにも反応します。


 このことから発光液には、仲間に警戒を促す意味もあると考えられています。

 また海外に棲息するウミホタルは、求愛のために光を使っています。


 求愛のために光る生物と言えば、何と言ってもホタルです。


  2017年現在、ホタルの仲間は2000種ほど確認されています。

 日本にも約50種のホタルが棲息していますが、本州、四国、九州で見られるのは10種類だけです。ほとんどの種が、本土から遠く離れた島々を住処すみかにしています。


 元来、ホタルは熱帯を好む生き物で、寒い場所にはあまり棲息しません。

 とは言え、海外には標高3000㍍以上の高地に棲むホタルも存在します。


 ホタルと言えば、幼虫時代を水中で過ごす昆虫です。

 現にゲンジボタルは、最低でも9ヶ月間程度、川の中で生活します。


 しかし実のところ、幼虫時代を水中で過ごす種は多くありません。

 日本産に限って言えば、ゲンジボタルとヘイケボタルの2種類だけです。


 他の8種類は、一生陸上から離れることがありません。種によって違いはありますが、幼虫時代は土の中を住処すみかにしています。例外的にスジグロボタルの幼虫は、エサをる時だけ水中に潜ります。


 幼虫時代を水中で過ごすホタルは、日本以外でも珍しい存在です。

 世界中を見回してみても、10種程度しか確認されていません。


 その上、彼等は棲息する地帯も限定されています。

 ホタル=水辺の生き物と言うイメージは、日本人しか持っていないかも。


 早くも驚愕の事実が明らかになったホタルたち。

 昆虫の中ではメジャーな存在ですが、まだまだ秘密がありそうです。


 意外と長くなりそうなので、今回はここまで。

 次回はもっともっと、ホタルの素顔に迫りたいと思います。


参考資料:発光生物のふしぎ

        光るしくみの解明から生命科学最前線まで

             近江谷克裕著 (株)ソフトバンククリエイティブ刊

     深海魚 摩訶ふしぎ図鑑

             北村雄一著 (株)保育社刊

     トンデモない生き物たち

             白石拓著 (株)宝島社刊

     ホタル学 里山が育むいのち

             古河義仁著 (株)丸善出版刊

    〝世界唯一の深海水族館〟館長が初めて明かす

       深海生物 捕った、育てた、判った!

             石垣幸二著 (株)小学館刊

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