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 時計をみるともう午後五時になってた。平和な一日に突然現れたヒカルちゃん劇場も、ここまでかって、刑事課のみんなも、やっと仕事に戻っていた。

「ヒカルの話は、以上で終わりなのです。ふう。疲れたな」といいながら、ホシノヒカルが砂糖をたっぷり入れたコーヒーをごくごくと飲んでいる。取調室に漂うのはへんな一体感。

「ホシノヒカルちゃん。お疲れさんでしたー。ヤマザキとっても勉強になりました! 一応調べてみるけどさー。裏取りってやつね。もし仮に、万が一、いや、億が一? 実はヒカルちゃんが三人の死に関与してた確信っていうの? そういうのが固まったら、次は、ヒカルちゃんを連行しちゃうかもよ? 女子高生連続殺人事件? あ、それじゃ女子高生が次々殺されるみたいじゃん。じゃあ、なんだ? 美女連続殺人事件? ああなんか、ショーワだなぁ。まあ、オジサン素敵なの考えとくわ」

「ヒカルは、逃げちゃうかも、ですよ」

「はははは、ヒカルちゃんさ、日本の警察って、こんなだけど優秀なのよ。みすみす逃したりしないから大丈夫」

「そっか。ヤマザキ刑事がんばって!」

「おー。ありがとう。しっかしヒカルちゃん。長くならないっていってたじゃんか、話。めちゃくちゃ時間かかってるんですけど。ヤマザキ、ちょいオコです。疲れたわ。やっぱりオジサン集中力ないからな」

「じゃあね。これでヒカルは帰るのです。ヤマザキ刑事。今日は、ヒカルの話を聞いてくれてありがと。ツムラも頑張ってください。ヒカルは、まあまあ満足なのです」といいながら、ホシノヒカルは取調室を出て、刑事課のフロアをエレベータに向かって歩き出した。

 刑事課のみんなは、めちゃくちゃかわいい彼女が帰っていくのを、なんとなく眺めていた。


 取調室のなかは、ヤマザキとツムラ二人になった。

「疲れましたね」とツムラ。

「まあね、頭いい子ってのは、わっかんないね」と、煮詰まったコーヒーを飲みながらヤマザキがいう。

「あれ? なんだこれ」片付けしていたツムラは、ホシノヒカルが座っていた椅子の上から、一枚の写真を見つけた。

「あれ、この人って……」と、ツムラがヤマザキに写真をわたす。

 写真を見たヤマザキは、血相をかえてエレベータに向かって走った。

「ヒカルちゃん、ヒカルちゃん、ちょっと待って、これって」エレベータのなかで、ヒカルが振り向く。「開」のスイッチに手をかけながら。閉まりかけたドアが開く。

「あ、そうだヤマザキ刑事。ヒカルがどうしてヤマザキ刑事の顔をしっていたかわかりました? いつも見てたんですよ」

「えっ? どういうこと? またまた、ヒカルちゃん冗談だよね」

「ヤマザキサワコ 四十歳」と、ホシノヒカルがつぶやいた。

「えっ?」

「とってもかわいい奥さん。いま、どうしてます?」

「……」

 この瞬間、ヤマザキの脳裏に、今朝とても辛そうにしてた妻の表情がよぎった。

「ヒカルね、あと二枚、写真をわすれちゃったんですよ。せっかく準備してたのになー」

 ヤマザキは、全身の血がさっと引いていくのを感じた。

 同時に、エレベータのドアが閉まる。

「ちょっと、ヒカルちゃん」


 ヤマザキは、病院に電話しようとスマホを探すんだけど、焦りすぎてて、どのポケットに入れたのか分からなくなってしまってたんだ。 (了)

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それって自首ってことなの? 仲根 工機 @shigeru1965

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