第22話 緊急事態発生

「それじゃぁ7時になったらinを目標でー、またねー」


 ミーナとラックと分かれてリアル世界へと戻ってくる。

 時刻は12時30分。気がつけばお腹が空いている。

 不思議なことにリフクエは結構お腹がすく。

 体験時間が長いせいで思ったよりも頭が稼働しているのかな?


 そんなことを考えながら外に出る。

 昼頃だとちょっと暑いな……

 歩き始めると上の階の扉が開く音がして、コツコツと人が歩く音が聞こえる。

 位置的に……


「え? あれ? 常連さん?」


「ど、どうも……」


 バイトのおねーさん、ミズナさんととうとう出会ってしまう。


「も、もしかしてここに住んでるんですか?」


「ええ、103号室に……」


「真下じゃないですか! 全然知らなかったです!」


「はは、自分もこの間知りました……」


「すごい偶然ですね! お出かけですか?」


「あ、その、お昼を買いに……」


「あ! うちに行くんですか! なら一緒に行きましょう!

 私も思いつかなくて買いに行くつもりなんですよ」


「え、あ、はい」


 なんとなく勢いに押されて一緒にお店まで行くことになってしまった。

 少しましになったとはいえ、女性と二人で歩くなんて急にハードルが高い……


「最近、凄く元気になりましたよね!」


「そ、そうですかね……」


 表情がコロコロと変わりながら、何故か嬉しそうに話しかけてくるので、気がつくと俺もなんとか普通に話せるようになってきた。


「前は……何ていうか不安になる、感じで……いや、今が元気ならいいんですけどね! そういう時間もありますよ!」


「あ、ありがとうございます」


「あ、あと、私のほうが年下なんですから敬語は止めてくださいよー。

 そう言えば名前も言わずにすみません。織崎おりさき 瑞菜みずなです」


 おりさき……どこかで聞いたような気もするが……


「け、敬語はな、慣れるまで、が、頑張ります。

 な、名前は中瀬 琉夜です」


「え!? リュウヤさんって言うんですか!?」


「め、珍しいですかね?」


「いえいえ! ちょっと知り合いと同じ名前でびっくりしました」


 そのあとニヤニヤしながらそっかーりゅうやかーとか自分の世界に入ってしまった。そして気がついたらいつもの惣菜屋さんの前につく。


「こんにちはー」


「あれ? 瑞菜ちゃんまた来たの? 琉夜君も一緒なの?」


「たまたま一緒になって……」


「家に帰ったんですが、作りたい物ビビッと来なかったので来ちゃいました。

 聞いてくださいよ店長! なんと琉夜さん私の下に住んでたんですよ!」


 店長と盛り上がる瑞菜さん。とりあえず俺は今日のオススメを確認する。

 

「か、唐揚げ弁当……! 決まった」


 迷いなく日替わり弁当を手に取る。

 唐揚げ。それは男の夢。


「あ、琉夜さんもう決めたんですか? 

 唐揚げ弁当……たしかに、すぐ決まりますね」


 そう言いながら瑞菜さんも唐揚げ弁当を手に取る。

 今日のお味噌汁はなめこの味噌汁。迷うこと無くそれも手に取る。


「毎度あり。琉夜君瑞菜ちゃんと仲良くしてあげてね、この子さみしがりやだからおすすめだよ」


「な、何を言ってるんですか店長!?」


「はは、店長からかわないでくださいよ、こんな綺麗な人に相手になんてしてもらえないですよ」


「き、綺麗って……もー! みんなしてからかって……」


 からかったつもりは無いんだが……瑞菜さんは黒髪ロングでスタイル抜群、日本人女性的な薄目の美人。誰が見ても綺麗な女性だと思うだろう。

 大和撫子! って感じだ。

 明るくて優しくて、誰だって好きになるだろう。社交的そうだし……


「店長、もう急にシフト変更とかしませんからね!」


「ああ、ごめんごめん」


 べーっと舌を出して店を後にする。

 帰り道も一緒になる。当然だけど……


「あ、そう言えばナシ食べました? もう食べられるぐらい甘かったから置いておかなくて平気ですよー!」


「あ! そうだ……いやー、実は家に包丁とか無いからどうしようかと……

 かじりついて平気なものですかねナシって?」


「いやいや! 駄目でしょ!

 琉夜さんって面白いですね!

 後で切りに行きますよーいつでも食べたかったら言ってください。

 あそこでバイトしてる以外は家に……あ…………してる間ってどうなるんだろ……」


 なんか急に瑞菜さんは考え込んでしまった。


「そ、そんなに迷惑なんてかけられないですよ。

 100円ショップかなんかで包丁ぐらい買えますから」


「琉夜さん、包丁持ってないってことは、ナシとか剥けるんですか?」


「うっ……」


 全く自信はない……


「ほらー、よし! 帰ったら琉夜さんの部屋行きます。

 それで全部むいちゃいましょ。塩水に通してタッパで保存すれば2・3日は持ちますから!」


「……タッパも無いです……」


「持って行きます! そうだ、お昼も一緒に食べましょ!」


「え、あ、はい。なんかすみません……」


「もー、謝らなくてもいいですよ。好きでやってるんですから!

 琉夜さんはなんか危なっかしくてほっとけない感じでずっと気になってたんですから! ……あっ!」


 確かに昔の俺は死んだような感じだったし、見てて怖いよな……不安がらせてたみたいで申し訳ない気持ちでいっぱいだ……


「ち、違いますよ。そのストーカーとかじゃなくて、なんか、その一般論としての気になったというか、その、あの……」


 なんか赤くなりながらワタワタと弁明している。

 俺が怒っていると勘違いさせちゃったかな?


「大丈夫です。気にしないですから」


「あ、そ、そうですか……気にならないんですか……ふーん……そっかー」


 今度は妙に冷静になったぞ。何がどうなってるんだ?



 ……ん? 瑞菜さんがウチで一緒に弁当を食べる……?



 緊急事態だ!

 




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