第18話

 そう言っているうちに次第にその黒い点の姿が明らかになってきた。

 人の形のようでいて、しかしそれは絶対に人ではなかった。いってみれば黒いスライムのぶよぶよした塊が頭と手足を持っているような感じだった。その透けた黒い体の中には金色のキラキラとした無数の粒が舞っていて、そいつの動きの応じてその粒はそいつの体全体を行ったり来たりしているようだった。

 しかしその姿を確認できたのはほんの一瞬だった。

 「オトタチ!危ない危ないあぶなーい!」

 おれがそう叫んだ次の瞬間、ハイエースはその黒い物体を跳ね飛ばした。

 グシャアッ!

 衝撃とともにそいつは一瞬にして木っ端微塵となり、フロントガラスにベトベトのゼリー状の膜を貼り付けて果てた。

 得体のしれないものを跳ね飛ばしてすぐにエアバッグがぽんと膨らんだ。そしてゆっくりと車は止まった。

 だれも一言も発しなかった。

 オトタチも黒いフロントガラスを見つめたまま凍りついたように動かない。

 「オトタチ・・・」

 おれのその声で彼女ははっとして、こちらに向いた。なんだか今にも泣きそうな表情だった。

 「みんな・・・大丈夫・・・怪我はない・・・」

 そう彼女は力なく言って運転席にへたりこんだ。

 「今のは・・・?ひょっとして」

 理子が震える声で訪ねる。

 「そう。荒ぶる神のひとつ。あれがこの高天の原に時々出てくるのよ。でも今みたいに衝撃を与えれば土に帰るし、そんなに害はあるわけじゃないんだけど・・・」

 そう言いながらオトタチは車を下りた。おれたちも同時に降りてみた。外の空気はかなり清々しかった。今まで吸ったことのないような空気だ。

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