第26話〜第30話 は行

第26話 はかせと  はのでたおとこ



ハカセとデッパが何か話している。


「ハカセ、彼で大丈夫なのですか。」


「ことは順調に進んでおる。」


「あちらへの影響がでたようですが。」


「不正因子が現れたようだな。あとは彼の意識内でアレの認識が起これば成功なのだが。」


「不正因子を強制排除するという手もありますが。」


「いや、それは不要だ。あくまでも彼の意識内での作用が起こらなければ、融合プログラムが生まれない。」


「彼の精神への影響が心配ですが。そうなれば、このプロジェクトそのものが崩壊してしまうのでは。」


「すべて想定通りにことが進んでいる。私の計算ではこのまま治癒に向かうはずだ。偶然にもあの子がうまく役にたっている。あちらの世界では、彼女の存在も彼にとって良い精神状態を保つ要素なのだ。不正因子の出現も彼の中の葛藤が生み出したものだ。抜け出そうとしているのだよ。どれもこれも奇跡というしかない。ほんとうの奇跡が起こればいいのだが。」


「そうですね。」


ぼくは、隣のベッドで寝たふりをして聞いていた。


「何の話ですか?」


と聞いてみた。また、おかしな空想をしているようだ。


2人は一瞬気まずい顔をして、何でもないという風な態度をした。


「奇跡なんて、起こるはずないですよ。」


ぼくは、2人に現実の世界の事実を言い捨てた。


おしまい




第27話 ひとすじの ひかり」


エンタルゲームをやりはじめて 半年ほどがすぎたころのこと

相変わらずぼくは 部屋に閉じこもっていた

現実世界と同じ 何も変わりはしない


ふと窓の外をみれば 庭に白い花が  咲いていた

ぼくは庭に出て その1つを摘んでみた

ここはゲームの中の世界だが この花は本物のようだ


となりの家のおばあさんが 塀の向こうから こちらを見ている

おばあさんは 泣いているようだ

ぼくは 手に持っていた白い花を おばあさんにあげた

するとおばあさんは エプロンのポケットから

黄色のガラス玉をだして ぼくにくれた


ぼくは 黄色のガラス玉を持って

庭の外に出た 公園にでも散歩に行こう


公園への道の途中で ウサギに出会った

ウサギは 黄色のガラス玉を見て 物欲しそうな顔でついてきた

ぼくは 黄色いガラス玉を ウサギにあげた

ウサギは それを 太陽に透かしてながめ 月みたいだといった 

そして ポシェットに手をつっこみ 緑色のお団子を出して  ぼくにくれた


ぼくが公園に入ると 亀の甲羅を背負ったおじさんが うずくまっていた 

おじさんは旅の途中で お腹がすいているようだったので 

ウサギにもらった 緑のお団子をあげた

おじさんは お礼にとポケットから 青いトカゲのシッポを

取り出して ぼくにくれた


ぼくは トカゲのシッポを持って 家に帰った

となりの家の おじいさんが 庭にいたので ぼくは トカゲのシッポを

おじいさんに見せた すると おじいさんは 

その青いトカゲのシッポを 欲しがったので  あげた


おじいさんは いそいで家にもどり 赤いリンゴを持ってきて 

ぼくに差し出した ぼくはありがとうと言って 家の門を開けた


すると となりの家の エナが家から出てきた 

ぼくは何も言わずに 赤いリンゴを エナにあげた


エナはリンゴを見るのが はじめてらしく 上から下から  ながめたあと 

ひとくちガブッと  リンゴをかじった


出会ったばかりのエナは 無表情だったが

その無表情のエナの顔から ひとつぶの笑顔がこぼれた



ぼくもなんだか うれしくなった

ここでなら やって行けそうな気がした




おしまい




第28話 ふぃぼなっち ふぃふてぃーん



123581321345589


 僕の腕につけられた15桁の番号。単なる認識番号だと思っていたのだが、これは・・・


「1、2、3、5、8、13、21、34、55、89」


フィボナッチ数列ではないか。


  この数列には、加藤との思い出がある。


 加藤は頭がいいのだが、学校での数学の授業というと、まったく興味を示さない。時折、視聴覚教室で特別講義をしてやると、とてつもない頭脳を発揮させることもあった。


「1、2、3、5、8、13、21、34、55、89・・・・」


加藤に質問した。


「この数列は、どんな規則で並んでいるかわかるかい?」


加藤はすぐにその規則性を見破った。


「前後2つの数字を足すと、次の数字になるのさ。」


本当に頭のいいやつだ。


「この数列は、不思議な数列でね・・・・」


とフィボナッチ数列の解説を始めるた。


 この数列は不思議な数列で、各項の間の比が1.618に近づいていく。この数字は黄金比1:1.618に由来し、人が見てもっとも美しいと感じる。ダ・ヴィンチのモナリザ、ミロのヴィーナス、パルテノン神殿の構図にも使われている。日常でも、名刺やカード類の縦と横の比に採用している。自然の中にもこのフィボナッチ数列や黄金比が見られ、植物の花や実に現れる模様や、葉や花のつき方、オウムガイの螺旋構造などにも。自然の中に存在している動的な力を持つ数列なのだ。


 加藤もこのフィボナッチ数列を気に入ったようで、熱心にメモをとっていた。



数日後、視聴覚教室で加藤は


「先生、完成したよ。」


と言って、ギターを取り出した。


「何が完成したのだ?」


「フィボナッチだよ。」


と言って、ギターを弾いてメロディーを口ずさみ始めた。彼は、フィボナッチ数列を使って作曲したのである。音階を1度、2度、3度、5度、8度の5音階のみを使い、小節数もフィボナッチ数列で構成してあった。


「加藤、お前すごいやつだな!」


僕は加藤の天才っぷりに驚いた。



  そんな思い出がよみがえった。加藤は今頃どうしているんだろうか。



「しかしなぜ、僕の腕にこの数字が書かれているだろう。」 



おしまい




第29話 へいわなまちの へんなやつら


ここへ来たときのエナは エンタルゲームの案内人 

ということで 認識しているだけだった

無表情で  人間らしさなどなく 笑顔を見たのは 

あの時のたった1度だけだった


となりの老夫婦とは 何度か夕食のテーブルを 共にした

ぼくを息子のように 世話を焼いてくれるようになった

発明家のジジイは ぼくと同じく 変人で

 他人という気が しなかったのだろう


宇宙ウサギも 何度となく 我が家に来た

人懐っこい性格で やたらと ベタベタとすり寄ってきた


しかし となりのエナはというと


希望者に 毎日夕食を届けてくれる というので 

ぼくは頼んでおいたのだが 無表情でやってきて  

夕食をおいて さっさと帰ってしまう  そんな毎日だった



ぼくは 無表情なエナを もう1度笑わせようと

毎晩の夕食を届けにやってくるとき イタズラを仕掛けた


ドアにカエルをはさんで 開けると落ちてくるようにしたり

顔にケチャップをぬりたくって 死んでいるフリをしたり

ありとあらゆるイタズラを エナに仕掛けたのだが

何ごとも無かったように 夕食だけを置いていった


その後もずっと  それが日課となり 毎日のぼくの楽しみになった

 

それでも エナは笑わない もう限界 

ぼくのイタズラの アイデアがつきてしまった


困り果てて  頭を抱え なんだか 涙が出てきた


そのとき エナが夕食を持って やってきて  


ゲラゲラと笑いはじめた


「え?」



「そんなに ぼくの泣き顔が おかしいかい???」


なんだか ぼくも うれしくなって笑いが  止まらなくなった




エナがイタズラッ子になったのは きっとぼくのせいだろう


でも それが 今となっては ぼくにとって 

何よりも 幸せになった



おしまい




第30話 ほんものの  ほんしつ



唯一、後悔しているのはあのこと。


 学園祭が近いある日。加藤はひとりでライブをやると言い出し、曲を作っていた。入学式でやったような野蛮な歌詞だと誰も聞いてくれない。メッセージを伝えたいなら、正しいやり方でやるようにと、僕は加藤に忠告した。


 出来上がった加藤の歌は、ストレートなメッセージソングだった。


「加藤、これならイケるぞ。」


と彼にエールを送った。


 学園祭の当日、僕も加藤のライブの準備を手伝った。アンプとギターをセットし、いつでも歌える準備が整った。だが、会場の体育館には誰も来ていない。


 僕は、体育館の窓を開け、加藤にあの曲を歌うように支持した。あの日、視聴覚教室で歌っていた、あの優しく美しい曲を。


 加藤は、ナチュラルなギターの音で、優しくメロディーを奏でた。


 すると、それを聞きつけて、体育館にゾロゾロと人が集まってきた。聞いている者は、うっとりと加藤の歌に聞き入っていた。


 曲が終わると、加藤はアンプのつまみを回した。アンプはギターの轟音を発し、スピーカーからは加藤の切り裂くような声が放たれた。


 加藤はいいたいことの全てを歌っている。


 そのとき、教頭と他の教師たちが乱入し、アンプの電源を抜いて加藤を取り押さえにかかった。加藤はアコースティックギターに持ち替えて歌い続けた。ギターを取り上げられても、歌うことをやめなかった。


 彼のいいたいことにも耳を傾けず、うるさいというだけで奴らは加藤の歌をやめさせた。


 僕は、その光景を見てるだけしかできなかった。



「いっしょに うたってやるべきだった。」



 僕は、退学寸前の加藤をかばい、なんとか停学処分だけで済んだのだが、それ以来、加藤は学校に来なかった。



 その日から、他の教師は  僕へのいじめをはじめた。



おしまい

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