第21話〜第25話 な行

第21話 なきむし なかよし


 今 デジタル時間は停止している 公園の噴水も 空の鳥も 住民たちも 

ピタリと止まっている 動いているのは ぼくとエナの2人だけ



町中探しても トキオはどこにもいない 

ぼくたちが 動いているのだから アナログ時間は  動いている

つまり  トキオは 生きている


「そうだ 何かに夢中になっていれば トキオが現れるのだよね

デジタル時間が  止まっているから トキオは見えるはずだ

ぼくたちが 夢中になれるもの・・・ そう 歌を歌おう」


ぐるぐる公園のステージで ぼくはギターを弾きエナが 歌をうたった 

とびきり楽しいオンガクを


「ジャーン ララリー ルルルー ララー」


「ルルルー ララ リリリー アー アー」




木の陰に 誰かいる


「トキオ!」


エナが叫んで 走っていった先には 小さな男の子が 立っていた


エナは 我が子のように ギュッとトキオを  抱きしめた


エナも トキオも泣いていた


「エナは トキオのママなんだね そっか トキオは さびしかったんだ」


ぼくは  トキオの頭をなで エナの体ごと ギュッと抱きしめた


その瞬間 止まっていた 公園の噴水が 

ザーっと音をたて  空の鳥が羽ばたき 

町の人たちが  何事も無かったように歩き

デジタル時間が動き出した


「あれ? おかしいぞ! トキオは まだ ここにいるよ」


そう デジタル時間と アナログ時間が 融合したのです


「奇跡が 起こったんだよ!」

 

「これで いっしょに 暮らすことが  できるよ」


「エナ よかったね!」


夕暮れの公園   帰り道 エナはトキオは手をひいて 


その光景を 2人の後ろで 微笑ましく  見ていたぼくに 


エナは言った


「トキオのアナログ時間プログラムは あなたの体内時計ファイルを

コピーしたものよ」



「ってことは えーーっと!」



「えーーーーーーーーーー!」


「トキオはぼくの 息子ってことーー!?」



おしまい




第22話 にくめない  にゅうきょしゃ



123581321345589


 腕につけられたタグに書かれた数字。これが今の僕の名前。


 僕がここにいる理由は、こころの病気にかかったからだそうだ。自分では普通だと思っているが、周りの人間たちが


「お前は、変人だ。」


といい、無理やりここに入れられた。


  ここは、そんな変人収容所。住人たちは変人ばかり。


 一番奥のベッドの老人は、自称物理学者。「ハカセ」と呼ばれているが、本物の博士ではないだろう。向かいのベッドには、小柄で出っ歯の男。月に行ったことがあるらしい。その隣には、やたらと顏が大きな男。やせっぽちで小柄なので、顔が歩いているようにしか見えない。そして、おかしな老夫婦が1つのベッドで横になっている。それに、あたまに大きな亀をのせたおじさんが、部屋の掃除をしている。そんな変人ばかりだが、外の世界よりはまぁマシではあるのですが。


 僕はここへ来る以前、数学の教師だった。ある日のこと、問題のある生徒をかばったばかりに、同僚の教師たちからいじめをうけた。こんなことは小学生のころから慣れっこで、さほど気にしてはいなかったのだが、生徒も他の先生も校長もぼくを変人扱いし、とうとう病院に入れられてしまったのだ。もともと友だちなんていないし、ひとりになれるのなら 。という思いで、ここに来たのではあるが、どうやらひとりではないらしい。


  気が付くと、屋上に来ていた。柵を越えて、屋上の隅っこに立っている。あと3歩ふみ出せば、自由な世界に行ける。一瞬、それが幸せに思えた。


1歩。


2歩。


声をかけたのは、ハカセだった。1枚のディスクを差し出し、


「君は、エンタルゲームを知っているのかね?」


とだけ言い放ち、行ってしまった。


「ゲームならお手の物だ。これをクリアしてからでも、・・・遅くはないだろう。」



  早速、病室に置いてあるノート型コンピュータにディスクを入れた。


「なんだ? アバター型ソシアルネットなのか?」


ディスクはIDを要求した。


「ぼくのIDは・・・そうか。」


123581321345589


腕のタグの数字を打ち込んでみた。




次の瞬間僕は公園にいた。いや、僕ではなく、アバターのぼくの姿で。



おしまい




第23話 ぬくもりのある  ぬしのあと」



うちに帰ると 部屋が荒らされている


「もー まったく!」


トキオが来てからというもの 毎日このありさまだ

テーブルがひっくり返っているし お皿やコップが割れ

壁には穴が開いている この前なんて 天井にイスが  ささってたんだから


「エナッ! あなたはママなんだから トキオといっしょに 

部屋を壊すんじゃありません!」


エナはしかられて シュンとなった


「じゃー 部屋はぼくが  かたづけるから

エナはトキオに 算数を教えてあげて」


なんたって エナは エンタルでも 最強のプログラム   世界一の

スーパーコンピュータなのだ算数なんて チョチョイのチョイなのですよ


散らかったリビングで エナが トキオに算数を 教えはじめた


「ねぇ トキオ 1+1は・・・?」


とエナが トキオにたずねた


「えーと、えーと」


と指折り数えたが わからないといったご様子


「おいおい きみは 数学の先生である

ぼくの遺伝子から 生まれたんだぞ! わからないのかい?」


とぼくがトキオに言うと エナは疑いの目で  ぼくを見た


「なんだよ エナ  じゃ 答えを教えてあげて」


するとエナは トキオに答えを教えた


「10よ」


「1+1=10だって? エナ? どうしたの?  1+1=2だよ」


と訂正しても エナは一向にひかず


「1+1=10だ」


と言い張った


「ん? まてよ・・・」



エナはコンピュータプログラムなのだ コンピュータの世界の数は 

2進数で数えられる  つまりエナの脳には 0と1しかないわけだ


「なるほどね!」


と2人をみると いつのまにやら おにごっこが  はじまっていた

せっかくかたづけた テーブルもイスも もうひっくりかえっている

エナ1人でも 散らかって 仕方がなかったのに

トキオが1人増えただけで 10倍も散らかっちゃうんだから


「あ そういうことか!」


「1+1=10って このことだね!」



おしまい




第24話 ねむりひめの ねむるばしょ


  ある日のこと、収容所の廊下を、することもなくただブラブラとさまよっていると、一番奥の部屋の白いドアが開いた。


部屋の中からハカセが出てきた。ハカセはあわててドアを閉めたが、ぼくは一瞬、部屋の中のベッドに女の子が寝ているを見た。


「ハカセ、彼女は誰ですか?」


とたずねたが、ハカセは答えなかった。


「どこかで見たような気がするんだけど。」




 部屋の住人にたずねてみることにした。


「ねぇ君、白いドア部屋の女の子は誰?」


とデッパに聞いてみた。


「あれは、眠り姫だよ。」


もうずいぶん眠り続けているらしいが、ハカセとの関係は一切教えてくれなかった。


 ぼくは、彼女に会ってみたくなった。


 ある夜遅く、白いドアへ行ってみたのだが、カギがかけられている。そこで、中庭の窓にまわってみると、窓の1つにカギがかかっていなかった。ぼくはドアから侵入し、彼女の顔をのぞきこんだ。


「やっぱり気のせいか、見たこともない女の子だ。」


眠っているだけの、眠り姫はただ無表情に、目を閉じているだけだった。


 次の日の夜中も、また窓のカギが開いていた。その次の日も。そうして、毎晩、眠り姫の部屋を訪れることが日課になった。ただ、今日一日の出来事を彼女に報告した。返事もなく、うなずくこともない人形みたいな彼女に、ぼくは何故か・・・。



おしまい




第25話 のすたるじっく  のくたーん

  


 ハカセにもらったエンタルゲームをはじめて、数週間が過ぎた。この世界にいると、時折リアル世界のことをいろいろと思い出す。そのほとんどが、彼のことなのだが。


 彼の名前は、加藤れおん。


 出会いは、入学式の時だった。初登校の日、彼は校舎の屋上で歌を歌った。社会や大人、学校、受験に対する不満やあれこれを曲にして、爆音のギターを手に叫ぶように歌った。詩の内容は、破壊的で破滅的ではあったが、この世界にある矛盾を疑い、正そうという内容の詩である。少なくとも僕は、彼の言いたいことを理解した。しかし、他の大人やここの生徒は違った。


 あの日からしばらく登校していなかった加藤が、初めて僕の数学の授業に出席した。遅刻してきた彼は、席に着くといきなり僕に質問をした。


「先生! 1+1はどうして2なんですか?」


 彼のふざけた質問に、他の生徒は冷たい視線を浴びせた。ぼくは彼の質問に、答えられなかった。1足す1がどうして2になるかなんて、大人になった今、誰も疑いなんてしない。


「加藤、すまない。僕にもわからない。少し時間をくれないか。」


というと、彼は言った。


「簡単なことさ。そう決まっているんだ。」


と言い捨てた。


 その日の放課後、視聴覚教室でギターの音が鳴っていた。ドアの隙間から覗くと加藤がいた。そして、歌を歌いはじめた。とても優しい、愛に満ちあふれた詩だった。


「加藤、いい曲だね。」


と声をかけた。


「ねえ先生。この学校には軽音楽部がない。俺が作るからさ。先生、顧問になってよ。」


 その日から、この視聴覚教室が、僕と加藤の居場所となった。



 この学校は、ここいらあたりでも有名な進学校。ロックなんてやる生徒も、聴く生徒もいない。僕と加藤は、放課後決まってここに来て、音楽の話をしたり、曲を作ったりして過した。ここは僕にとってもオアシスとなった。







  だがいまだに何故、加藤みたいなイレギュラーな奴が、あんな進学校にやって来たのだろうか 。理由がわからない。



おしまい

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