第6話 決意ですか?勇者さま。




「気の抜ける相手ではないぞ!!」



「はい。義父さん」



『恐れず平然としているとは義息子むすこも中々やるな』



ギガントウォーロードと言う初見では誰でも恐れそうなモンスターを前に、


予想より落ち着いた返事を返すロベルトに関心する。



双方にらみ合ったまま少し間延びした時間が過ぎる。



ウォーロードはロードの名を冠するモンスターだけあって知能も


オーガやトロールよりも高い。



とは言え直線的、直感的な攻撃が主体のモンスターだったはずだが・・・



『こちらの出方を伺っているのか? 何かのタイミングを計っているのか?』


ジンが違和感を感じていると声が掛かる。



「義父上。待っていても仕方ありません。こちらから攻撃しましょう」


「生半端な攻撃では再生してしまいます。二人で同時に全力で!」



まるでこの敵の特徴を『良く知っている』かのように的確な作戦だ。



「異論はない、倒すぞ」 ジンも同意する。



「義父上は力を溜めて集中して下さい、私が一撃目を加えて気を引きます」



「良し」



何とも心強い。・・・フェシリアと結婚した当時は血筋や顔が良いだけで、


悪く言えば『狡猾』で他人は皆、自分より下なのが当然の風だったのだが。



義息子も成長したのか・・・これなら正式に勇者を譲っても良いかなどと、


戦闘中に不謹慎に先の事を考えてしまう。



『いかん、いかん』 今は不味い。




以前、勇者パーティーの誰かが言うには、、、


『ふと将来の話を始める奴は近々死ぬ前触れ』なんだそうだ。


『縁起でもない』




ジンが叱咤する。


「躊躇すれば死ぬ、一撃で倒すつもりでかかれ」



「はい、一撃で終わらせます」



お互い両手に力を込める。防御を省みない全力攻撃だ。



「行きます」













フェンは後ろに少女を乗せ馬を走らせジンを探していた。


悪い予感に全身が強張りそうになるが背中からの少女の震えを前に


そんな素振りは見せられない。



『いた!!!』



遠目にジンの姿を目にすると近くの建物の影で一旦馬を留め、少女を降ろす。



「君はここに隠れていて。」


「それとファリス教の神官さんへとしてのお願いがあります。」







再度馬に乗り接近していく。


先のギガントオーガよりも更に大きいモンスターと対峙している。


モンスターと向き合う爺ちゃん、その後ろに、、、父さん。


ゾワリとした感覚が全身を覆う。父親の顔に邪悪な笑みが浮かんでいた様に見えた。




「爺ちゃん!!!」


その声が届いたからであろうか?





ほんの一瞬、ジンの意識が孫のフェンに向く。



『『ギシュ』』 嫌な音が響く。



「何っっ・・・」ジンの口から驚きの声が漏れ、次の瞬間、吹き飛んだ。



ギガントウォーロードが攻撃したのだ。


近くの建物の壁に打ち付けられた爺ちゃんはピクリとも動かない。



・・・父が剣を刺し、計ったようにウォーロードが薙ぎ払ったのだ。



「「何でこんな事を、父さん!!」」



「フェンか。何でお前がここに?」



「答えてよ、父さん」











父は答えてくれた、、、『殺す予定の息子の最後の頼みだ』として。



父の根底に在るのは怒り、嫉妬だ。







野心家であるロベルトは勇者の血を望んだ。王位継承争いの為に。


そして母さん、フェシリアと結婚した。・・・それだけの筈だった。



しかし、母フェシリアは聡明だった。


明るく、優しく、父が政務で行き詰れば的確な助言をして助けた。


祖母の若い頃に似て姿も美しく、世が世なら王妃にもなれる人だった。


いつしか父も本当に愛する様になったのは必然だった。



だが、、、その日が来た。


フェンが生まれて数年後、フェシリアは何も言わず居なくなったのだ。


父(爺ちゃん)に聞いても理由は言わず、フェンは泣くだけだった。



それが始まりとなり歯車は狂っていく、、、。



『妻に逃げられた・・・』、『魔王の呪いなんじゃ・・・』



憶測は容赦無かった。



元々優秀だったロベルトを妬む者も少なからず居たのだ。



どんなに成果を上げても『勇者のご加護の賜物だ』と言われ、


稀に失敗すれば『勇者の顔に泥を塗るのか』と罵られた。



断じて違う、成果を上げたのは私で『勇者』ではない。



そして隣国との戦争への参戦要請にも息子であるにも関わらず


連続して説得に失敗していた。



『勇者の息子が情けない』 『もう勇者の家系では無いのでは?』



愛する妻も失い、実績による信頼も、勇者の血筋という効果も失った。



優秀と自負する男には耐えられない屈辱だった。





何もかも失い、自暴自棄になった所で真実を知る事となった。



妻が生きている・・・それもジンの口から語られた。



フェシリアは生きている。それも遠くはない山脈の中で。


ただ、、、遠くはないが『入れば二度と戻れない』という魔の山に。




その理由も原因も 『『 勇者 』』 であった。




大陸中央に連なる山脈で大陸は二分されていたのだ。


地図で言うなら下半分は人間の国、上半分は人以外、


人がモンスターや魔物と呼ぶ者達の世界だった。



脆弱な種族の人間がどうやって生き残れるか・・・『遮断』である。


大昔の人間が結界を張り、通常の方法では行き来出来なくしたのだ。


それを秘密裏に受け継いで来たのだ。『勇者』が。



少数の人間という種族が大陸半域を治め、その他の種族全てで半域。


当然、他の種族から不平、不満が出るのは当然であった。



その為、その他の種族をまとめ上げ侵攻して来た指導者を指して


人はこう呼んだ。 『 魔王 』と。



侵攻の無い平穏な時代を生きる為にも『生贄』として勇者が必要なのだ。



必死の思いで魔王を倒した後も詐取され続ける勇者、その上で成り立つ世界。



その生贄が『最愛の妻』などと、、、。





あの日、フェシリアが出て行った日に異変は起こった。


結界の力が消えたのだ。



「私も勇者の娘なんだから。」笑顔で出て行く娘。



そもそも現在の結界を張ったのはフェシリアの母だった。


我が子には『そんな役割はさせたくはない』と結界に全魔力、生命力を


吸わせたのだ。その結果、祖母は亡くなったのだ。


本当はこのフェシリアの時代には結界は壊れる事は無かった、はずだった。




結界の効力は『進入や突破をしようとする者』が多いと減少していく。


魔王軍無き今、山脈を越えようとする者など僅かなものだった。



が、違ったのだ。



国王が変わった後、こともあろうに自分の土地だけでは飽き足らず、


山脈を越え、魔物の領域まで侵攻しようとしたのだ・・・人間が。



繰り返す遠征で結界が壊れる、、、なんて滑稽な話か、、、。



自分達を守る結界を自分達で破壊したのだから。



それも先代の勇者の巫女が命を賭けてまで張った物を、だ。



『愚かだ』・・・そして知らずに侵攻に賛成していた自分も。



そしてフェシリアは今現在でも命をすり減らしているだろう。



『時間が無い』 ロベルトは考える、そして・・・





人間と人間の戦争が始まれば魔界への侵攻は無くなる。


勇者の血筋としての名声を手に入れ国王になる。


そして防護を固めフェシリアを開放する。


魔物が侵攻するなら撃退し、いっそ魔界も占領出来れば万全だろう。




全てそう、この『勇者システム』とも思える仕組みが悪いのだ。



・・・もう妻を傷つける事はさせない。












「その為に必要なんだよ、フェン」


冷めた目でこちらを見る父。



「そもそも義父さんも悪いのだよ。」


「幾度と無く参戦依頼をしたにも関わらず拒否していたのに今更・・・」




「攻め込んだラ・クジャール軍を全滅させ勇者ジンですら負けたモンスターを倒して帰還する」


「正に新しい勇者の誕生に相応しい功績じゃないか!」




・・・その為には・・・



「「今この町に居る人間は全て死んでもらう!!!」」



とても父親が発している言葉とは思えず聞き返す。



「全部仕組んだ事だったの?ラ・クジャールの事も、、、」


「この町の人達をモンスターに殺させたのも、、、」




「ラ・クジャールの事も気が付いていたか。やはり勇者の血、か。」


「そうだ。全て予定通りだ、お前を除いてな。」




王国は『勇者』を失い、ラ・クジャールも王家の中の厄介者を消せる。




「これが国としての『 折り合い 』、さ」




ラ・クジャールは双方にとって邪魔な勇者を葬ると餌をちらつかせたら


即座に食いついて来たのだ。




「やはり死んで貰わねばな」



ギラリと父の刃が反射する。・・・やらなきゃ殺される。



フェンも剣を抜く。



「そんな震える手で父を殺せるのか?」


・・・『殺す』・・・ドクンと血が跳ねる。



・・・人を、誰かを殺せるか?



・・・・誰かを守る為に誰かを殺せるか?




『殺す?・・・父さんを?』



「終わりだ、フェン」



父が剣を振り上げた瞬間、父から剣がえた。




「止めんか、馬鹿者が」



「爺ちゃん!!」



「ばっ馬鹿な!私の一撃、しかもウォーロードにも・・・」



「剣の猛毒も・・・動ける、いや、死なない訳が無いっ!!」




「そう興奮するな。わしは勇者だぞ」


「孫の一人も助けられなくては何が勇者と笑われるわ」


強がってはいても顔面蒼白だ。




「この死に損ないが!!!」


・・・『もう一撃で倒せるはず』と父さんはジンに斬りかかる。



やけに落ち着いた爺ちゃんがつぶやく。



「フェン、すまんかったの・・・」



「ロベルト、お前は『勇者』にはなれん」



悲しい目をした爺ちゃんの一撃で父さんは死んだ。









駄目だ、手立てがない。


目の前で薄くなって行く命の気配に何も出来ずにいた。



「フェン、お前には・・・ぐっっ」



「爺ちゃん!!」



「ミャー」・・・クロネ?



ミヤもいた。



「クロネ、どこじゃ?目が良く見えんのじゃ」


クロネが顔を摺り寄せる。




「すまなかったの、時間が掛かって、、、『盟約を果たす』 開放!!」



爺ちゃんに寄り添う様に黒髪の、、、耳?シッポ?モンスター??



剣を構えようとしたが猫人の表情にはいたわりしか無かった。



「驚くな、フェン。クロネじゃ」


クロネに抱き起こされながら言う。



「そっちはミヤじゃ」


見ればジッと見つめる栗色の髪、瞳が有った。



「どういう・・・」意味が解からず問いかけようとするも、、、



「クロネ、時間が無い。盟約を果たす。フェンとミヤを安全な所まで飛ばせ」


「はい、ジン様」






「いいな、フェン。お前は今日ここには『居なかった』」



「誰に聞かれても話してはならん」



「フェン、お前なら正しい選択が出来ると信じているよ」



「あ、それと、、忘れる所じゃったが今日からお前が『勇者』じゃ」



体が光を帯び始める。



「ちょっ、爺ちゃん、話しが・・ま・・だ・」



「・・・ミヤ、フェンを宜しくね」



二人の姿が掻き消える。




「行ったか?」 


「はい」




二人残されたジンとクロネ。




「長かったな」 


「はい」




あと少しと気合いを入れ伝える。



「ガルンの民よ。勇者ジンだ。これより魔法を使う」


「邪悪な者以外には効かない魔法だ。安心して祈りを」


直接的な声ではなく心に直接響いているように誰の心にも沁みこんだ。


誰ともなく祈りを捧げていた。





「行くか」 



「はい、ジンさま」








『『『 セイント・フォール 』』』









眩い光が去った後に、町を襲ったモンスターや兵士の姿は全て掻き消えていた。


勇者ジンが倒したモンスターも、その血の跡さえも無くなっていた。






・・・そしてジンとクロネの姿も。

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