第7話 帰還ですか?勇者さま。



二人の目の前には『美しい城』が有った。




・・・皆さんは知識として植え付けられたイメージしか


想像出来なくなってはいないだろうか?



そこには魔王城が有った。


希少な鉱石が使われており豪華だが、デザインは洗練されており、


最小限の機能が最大限に発揮出来る造りになっている。



『上空はいつも暗雲が覆い』 『色は黒くそびえ立ち』


『門を守護するモンスターが居り』 『玉座までは幾重もの罠』


『場内にも要所にボスモンスターが』・・・なんて事は無い。




人間族の城と違い、大きな種族も使うのでサイズ的に大きいのは確かだ。


高位種族なら自分の姿を擬似体へ変化させられるが、それが出来ない


種族への配慮も有っての大きさだ。


自分達のみしか認めない人間族の城とは根本的に違うのだ。





その魔王城、、、の跡地と化した「はず」の場所にジンとクロネはいた。


魔王がジン達、勇者パーティーに倒された後は主が居ない。


空き家なのだから当然と言えば荒れていて当然の筈であった・・・が、




「意外に荒れていない?」



クロネは首を捻る。




だがそんな事を考えている時間は無い。


義息子の猛毒の刃を受けたジンの体力は衰えていく一方なのだ。


本来なら義息子が言った事は事実となるはずだった。



『剣の猛毒も・・・動ける、いや、死なない訳が無いっ!!』



その通りだ。本来ならとっくに死んでいて当然だった。



だが、生きている。






クロネが回復や治癒魔法でも使えれば良かったのだが残念ながら使えない。



…何か方法が無いか考え、一つの方法に辿り着く。




「フォーチュンダイスを使います、ジン様」




フォーチュンダイス、偶然を必然に変えるアイテムだ。


人間は『ラッキーダイス』や『ディスティニーダイス』と呼んだりする。



凄いアイテムの様だが実際は違う。最後の手段として使う


『 諸刃の剣 』的なアイテムなのだ。


失敗すれば即『 死 』が待っているのだから。



クロネ達、獣人族、それも猫人族は『敏捷性』が突出して優れている。


そしてもう一つ『幸運度』の値が高いのが特徴だった。




フォーチュンダイスはその『願い』の大きさ、世界への影響度によって成否の確率が変わる。


幸運度が高ければ当然成功率も上がる。


だが、途方もない願いをすればダイスの全マス目が真っ赤に染まり、回す前から死が確定してしまう。


当然ながら発動後に取消したりは出来ないし、使った本人と対象者に影響が及ぶ。





「完治の願いは危険ですが、毒を弱める願いだけなら前にも使いましたが間違いなく成功出来るはずです」



「良い。やれ、クロネ」



「はい」




・・・発動。



ダイスの全面がぼんやりと緑色に光り始める。


この状態、何も願わずに振れば緑色の面が出て『成功』だ。


当然何も起こらない。ありふれた多面体のサイコロと一緒だ。




落ち着き冷静に願いを口にする。



「ジン樣の体に影響を及ぼしている毒を弱めたまえ」





・・・「うそっ!?」






みるみるクロネの顔が青ざめていく・・・。



ダイスが真っ赤…いや、成功の面が少な過ぎ真っ赤に見えたのだ。




それほどに今この世界における勇者ジンを助けるという行為は、


事の重大性、世界に与える影響度が『高い』という事を意味している。




想定外の事態に、わなわなと震え出すクロネ。



「そんな、、、こんな事って、、なぜ?」




ジンは言う。



「『やれ』と言ったのは私だ、お前なら大丈夫だ」


「そんな顔をするな。さあ、クロネ」





『・・・・』ジンを見つめながら、ふるふると首を横に振るばかりのクロネ。






ダイスを握ったまま動けないクロネに、そっと手を添え言う。




「大丈夫。いつも傍に居たじゃろ、これからもずっと一緒じゃ」



・・・「はい」



暖かな主人の手の感触、、、。



『いつまでも触れていて欲しい、、触れていたい』



『そのためにも・・・』








二人の手からダイスがこぼれ落ちた・・・。















「・・・勇者様、、勇者様、、、、」



誰か呼んでいる声が聞こえる、、ような気がする。



『・・・もう朝?、、、あれっ?何してたんだっけ?』



目を閉じたまま考えてみるが、なぜか頭がぼーっとしている。



「・・・勇者さま・・」



『勇者、、様・・・って呼ぶって事はシズかな?』



返事をしようと閉じた目を開けベッドから起き上がる、、、あれっ??



『見慣れた天井が・・・ない?』



見えるのは、、、家の天井よりも遥か高くに枝と葉っぱ、、、?



そして、すぐ脇にシズではなく栗色の髪、栗色の瞳をした女の娘。



「勇者さま?」



なぜこの女の娘は俺の事「勇者様」って呼ぶんだろう?



「君は、、、誰?」



「なに寝ぼけているんですか?、、ミヤですよ、勇者様」




『ミヤ?、、、あー、またあの耳とシッポをモフモフしないと・・・』



・・・・って!?



『あれっ!? 何だか凄く重要な事が有った様な気が・・・』



・・・・



・・・



!!!、、、爺ちゃん!!!




そうだ。重要どころでは無い事が有ったのだ。




「爺ちゃんは?」



辺りを見渡すが、、、居ない。



モンスターは、、、居ない。




周りを見渡せば、ここはガルンへの道中で休んだ大木の下だ。




『夢?・・・では・・・ない??』




・・・と、いう事は、この娘は『ミヤ』という事になる。



「ミヤ、なの?」



「そうですよ。勇者さま」



「爺ちゃんとクロネは?」



「分かれてしまって今は分かりません」



ミヤが申し訳なさそうに言う。



そうだ。爺ちゃんに言われてクロネが転移させたのだ。




「早くガルンに戻らなきゃ!」



「駄目です。勇者さま」



「ジン様に言われた事を良く思い出して下さい。」







『お前は今日、ここには居なかった』



『誰に聞かれても話してはならん』



そして、



『今日からお前が『勇者』じゃ』



・・・って何だよ「勇者」って!





「俺なんかが勇者? ありえない。」




「冒険し経験値を貯めて強くなり、みんなから


認められてこその勇者だろっっ!」




「それをポンポンと肩を叩き「今日からお前、勇者な。」


なんて継承方法なんて絶対におかしいだろっっ!」





一通り本音を吐き出したが、それを納得させてくれる説明を


してくれる人も居なければ、代わってくれる人も居ない。


それが出来るのは『爺ちゃん』だけだ。


・・・素直に怒ったら少し元気も出てきた。



「帰ろう、ミヤ。きっと爺ちゃん達も帰って来るよ。」



「はい。勇者さま」






きっと元通りの生活に戻れる、そう思いたかった。




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