第5話 思惑ですか?勇者さま。


「えっっ、それはどういう、、、、」



フェンは意味が理解出来ず絶句してしまう。


助けた女の子の話す内容はとても信じることが出来ない、


いや、信じたくない内容だった。










「まだ居るのか!!」


ジンは恨めしそうにギガントオーガを睨む。



勇者として魔王を倒した当時なら何の苦にもならなかっただろう。


だが年月の経過による身体能力の低下、老化は人間ならば当然の事であり、


それは勇者と言えども例外ではなかった。



装備も違う。


冒険の末、手に入れた伝説の装備も今は手元には無い。



そして信頼し合ったパーティーメンバーも今は別々の生活を送っている。





何十匹倒しただろうか。数えるのを止め、倒し続けた。


これで最後と思われる獲物を倒し、やっと一息と思った所で


異様な気配に包まれる。



『まだ残りが?新手か?』



気配の方向に注意しつつ気合いを入れ直す。



そして姿を現したモンスターを見て冷静なジンでさえ思わず声を上げた。




「ばかな!!ギガント・ウォーロードだと?」




ギガントウォーロードはギガントオーガの亜種で、より大型で、


素早さも力も比較にならない程に強力なモンスターだ。


数も少なく戦った事のある者などほぼ居ないだろう。


ジンでさえ魔王の居城で一度戦った事が有るだけの相手だ。




フルメンバーなら問題ない。だが、今は一人なのだ。



この時ばかりは『せめてあの剣が有れば』…と愚痴を吐きたくなった。


だが状況を呪った所で何も変わらない。


現状、自身より剣の方が先に音を上げそうな状態なのである。




「どこまでやれる?」


自分に問い掛けながらギガントウォーロードを睨む。





「義父さん! 無事ですか?」



意外な声の登場に驚きながらも、深く考える余裕も、詳しく問う余裕も無かった。




「聞きたい事も有るが後だ。まずはウォーロードを片付けるぞ!」



「はい。義父さん」









勇者ジンを『義父さん』と呼ぶのは今は一人しか居ない。


フェンの父親、ロベルト公である。



ジンは魔王討伐後、権威を望まず結婚し田舎の町に移り住んでしまった。


他のメンバーも各々の故郷やそれが無い者は冒険中に気に入った土地へと向った。



パーティーメンバーや、その他の女性からもモテモテだった、との自慢話を


爺ちゃんから幾度となく聞かされたものだ。


そして選んだ相手はパーティーメンバーの女性だった。




幸せな日々が続いたが子供=娘のフェシリアが生まれて間もなく祖母は

亡くなってしまった。


当時世間では魔王討伐の冒険の疲労だとか、魔王の呪いだとか色々

憶測が起きたそうだ。


そのせいか娘のフェシリアは孤立し、浮いた話しなど皆無であった。



国王は、権力や報酬を望まないジンに対して提案をした。


生まれた娘と王家直系の者との婚姻を結ばないか?と。



ジンも自分の事ならいざ知らず、娘の事となると弱かった。


『娘が良いと言うならば・・・』



だが、王家の者ですら魔王の呪いの噂を真に受けて名乗り出る者は居なかった。



フェシリアも成長し、ジンが心配になって来た頃、一人の求婚者が現れる。


ロベルト公である。継承順位は一位では無いが王家上位の血筋だ。


ロベルトは優秀な男であった。そして野心家でもあった。


王家の血筋に勇者の血筋・・・このまま王家に使い殺されるなら、、、


彼が決断するには十二分な理由だった。



国として『勇者を縛る鎖が欲しい』との表には出さない思惑にも沿っていた。



その思惑にはジン、本人のフェシリアも気付いていたはずだった。



が、フェシリアは二つ返事で婚姻に賛成し同意してしまう。


父(爺ちゃん)を気遣ってなのか、会って気に入ったのかは誰にも分からなかった。



そしてフェシリアとロベルトは結婚し、そしてフェンが生まれた。















「違う」とは一体どうゆう事なのだろうか。



フェンに向けて、助けた女性は語りだす。



「昨日、隣国ラ・クジャールを名乗る軍勢が『助けを求めて』来たのです」



『助けを?』最初から何か話がおかしい。



『攻めて来た』の間違いでは? 言葉を飲み込み続きを聞く。










ラ・クジャールと聞き、最初は誰もが街に攻め込む為の作戦か?と警戒した。


当然だ。戦争の報は広く知られているのだから。



しかし、前触れに続き現れた本隊、と言うのも難しい様な有様の兵士達。


疲弊し負傷した姿は既に軍勢と呼べるものではなく、難民としか映らなかった。



人の情から受け入れを決めたのは正しい判断だったはずだ。



敵兵士から聞けば、戦争の為に出陣したのは本当だそうだ。


両国の取り決め、決戦の場までの行軍中にモンスターに襲われたのだ。


しかも戦った事も無いような大型のモンスターに敵う訳も無く、


軍勢は瓦解してしまったのだそう。



この状態では戦争どころでは無いし人の戦争は回避出来たのは確かだ。


だが『追われて助けを求めて来た』のなら、裏を返せばいつこの町にも


そのモンスターが押し寄せて来てもおかしくないだろう。



どうしようかと算段している内に他の軍勢が現れた。



「私は王国軍総指揮官ロベルトである。王命により来た、開門」



見れば王国の国旗、ロベルト公の顔を知っている武官も間違いないと言う。


モンスターの襲撃前に国軍が来てくれるとは何たる幸運だろう。


急いで開門し、出迎える。



・・・ガルンの指揮官が『幸運』を感じたのはここまでだった。





「この町の反逆者共を許すな!皆殺しにせよ!!」



ガルン領内に入ったロベルト公は正門を占拠し一変した。







「どういう事です! なぜこのような事を!!」


ガルンの指揮官は止むを得ず防戦しながら叫んでいる。



「何を今更。ラ・クジャールの兵を引き入れたであろう」



「確かに助けましたが、訳が有るのです」



「問答無用だ!殺せ!!」



聞く耳を持たないロベルトに指揮官も仕方なく兵達に攻撃を指示する。




元々、国境という重要地を守る兵達である。


平和な中央に居る兵より精強なのは当然で、勢いを盛り返すかと思われた瞬間、



「奴らを放て!!!」


ロベルトが言い放つと同時に攻めていたはずの国軍兵士が引いて行く。



何をするつもりかと警戒していると正門から異様な者が現れた。



「モ、モンスター?」



・・・その後は阿鼻叫喚だった。


助けたラ・クジャールの動ける兵も参戦し懸命に戦ったが、


ギガントオーガ、それも複数相手では分が悪いでは済まない


程の差が有った。



次々に斬られ、潰され、引き千切られ、、、そして食べられた。



それは何も知らない一般の住民にも及んだ。





話しながらも女性はぽろぽろと涙を流している。




「そんな事が・・・」


しかし聞いてもにわかには信じがたい話しだった。


・・・いや、信じたくなかったのである。



ガルンの兵士の皆殺し、のみならず住民までも、、、。


住民など戦ってではない。ただの蹂躙、虐殺だ。



ここまで聞けば誰もが気付くだろう。


行軍中のラ・クジャール軍をモンスターで襲いこの町へ故意に・・・


『追い込んだ』のが王国軍、味方である事に。



それを冷酷に遂行しているのが自分の父親だなどとは。



・・・実はこの女性が流言による混乱を画策した敵国のスパイだった、、、


などと都合の良い現実逃避をしたくもなるが、状況がそれを許さない。





落ち着いて女性を見てみれば、衣装は血や汚れで判りづらいが、


ファリス神殿の神官服のようだった。


しかも自分より若く見える。女の子と言った風体だ。



「もしかしてファリス神殿の神官の方ですか?」


今更ながら質問してみると、『コクリ』と小さく頷く。


・・・どうやら間違いないらしい。



ファリス神殿の神官となれば今までの話しの内容は事実である。


『ファリス神殿ならば白』と言われる程に信仰への信頼度が厚く、高い。


まだ広く知られてからの時間は短いが人々の心の拠り所となっていた。


神官には嘘や偽証、詐欺など教えに一度でも背くと信仰による力が


一生失われてしまうと言われる程に厳格な教えなのにだ。


その神官が言うのだ。間違いない。




「お願いします、、、一人にしないで、、、。」


急に何か悪い予感を感じたのか、女の子は袖を掴んで訴える。




フェンも今、正に嫌な予感がして『早く爺ちゃんに知らせないと』と


思い、必ず迎えにくるからと建物へ隠れているようにお願いしようと


考えていた所だったのだが・・・先手を打たれた。



「近くまでは連れて行きます。そこで隠れてもらいます」


「決して声を立てたり騒いだりしないで下さい」


簡潔に指示だけ伝える。冷たい様だが危険に近づく行為だ。




まだ震えが止まらず動けない様子に馬に跨りこちらから手を伸ばす。


「行こう。大丈夫だよ。」



・・・嘘だ。彼女の話が事実なら『大丈夫』なんて事の方がありえない。



『フェリス神に嫌われちゃうな、でもいいか。』



『こんな嘘も駄目だと言うならこっちから願い下げだ!』



心で呟き、自分を奮い立たせて馬を走らせた。





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