偽りの太陽の下、死の匂いを知らない子供たちとその監視人は懊悩する

世界が滅びて60年後の、全てを政府に管理された新たな世界。主人公である雪白ホムラは、「講義」に間に合うようにと朝の身支度を急いでいる。まだ若干二十一歳の彼女は、実は講義を受ける側ではなく行う側の人間で……。
多くの人は、ここでこう安堵するでしょう。色々あったけど平和になった世界の、平和なお話なんだと。ですがそれは、主人公ホムラの教え子が、人々に臓器を提供するために造られた生命体<ヒュム>であると知った途端、脆くも崩壊してしまいます。

ユートピアを装ったディストピアは、いつか私たちの世界も辿り得る世界です。時にすれ違い、またある時は交わっていく登場人物たちの思考は、常に私たち読者の倫理観を揺さぶり続けます。でも、この矛盾だらけのディストピアは、作者さまの軽妙にして巧妙な言葉遊びとルビと交錯することによって、美しいハーモニーを奏でる。

自身も亡き母への葛藤を抱えながら、大切な教え子を救うために立ち上がったホムラがやがて辿りついた真実と、彼女が選び取った道。苛酷であるけれども、そこには確かに希望の光が射していました。

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