第15話 箱の中で

 三人は白い部屋の中にいた。

 とはいえ、出入り口も窓もない。ただの四角い箱の中の様だった。


「なるほど、これが箱の力」


 周囲を眺めて、留が言った。


「防音ばっちり。何も通さないから、外からの介入は私が許さない限りないと考えていいよ」

「外からはどう見えてるの?」

「部屋に箱がどーん、って感じ。私たちの姿も、声も聞こえない状態でしょうね」


 那毬が答える。


「なるほどねえ……あんまり救世主の能力っぽくはないけど」

「それは俺の力が作用して、ってことじゃないのか」

「合わせ技なのか」

「たぶんな」


 留はその場に腰掛けた。

 二人もそれに倣う。


「誠さんが鍵、ね」


 確認するように留が訊く。


「あぁ。鍵…何かを制限したり、逆に開放したり。日常レベルでは鍵を開けたり閉めたりできるようだ。封印系だな」

「ふむふむ」

「あと、制限って意味でなんだろうな。こういうのを具現化できたぞ」


 一呼吸後、誠の手には鎖が握られていた。


「拘束具、か」

「そういうことかな。物理攻撃はこっちになるかな」


 そう言いながら、鎖をもてあそぶ。

 

「私の箱の能力は、どちらかと言えば防御かなぁ。外と内側を遮断するモノ。あとは、何かを仕舞い込んだり、積み上げたり?あとは……棺桶なんかも箱よね。死者の寝床……まぁ、そういうこともできるみたい?」

「棺桶に入れた人間はどうなるの?死ぬ?」

「たぶん」

「どうも、箱や鍵の概念を能力にしたような感じね」


 那毬も小さな箱をいくつも作り出し、積み上げたり中を開けたりする。

 

「解釈次第でどうとでも能力を広げられる」

「そういう留さんは?」

「私?あぁ、これよ」


 留が手をかざすと、そこに小さな鳥居が現れた。


「鳥居?」

「別に、鳥居の形じゃなくてもいいんだけど、何となく」

「?」


 何の能力かわからず、誠と那毬は首を傾げた。


「『門』の力よ」

「門?」

「そ、鳥居はさ、俗世から、ここからが神聖な神社ですよーって示す、一種の門じゃん?」

「これは、どこにつながってるの?」

「この門の向こうはまだ何の設定もしてないから、何もないわよ」


 そういうと、指で門をつつく。なぜか、指は鳥居を抜けることなく何かの力で押し戻されたようだった。


「設定?」

「主な能力は、門を隔てたあっち側とこっち側の世界の断絶。逆に壁なんかに門を作ることにより、行き来ができるようにする。あとは、まぁどこでもドアみたいなものかなぁ。とはいえ、一回は行ったことあるとこじゃないとダメみたい」

「便利!」

「結構なあたりを引いたかしらね」


 これで三人が何の能力を持っているかが分かった。

 さぁ、これからのことについて話そうか。



「これからのこと、かぁ」

「何から決めるか」


 布団の上に座り込み、三人は顔を突き合わせる。


「能力の紹介は済んだから…これをイネスさんたちに話すか話さないか、からかな」

「二人の能力については話していいんじゃない?」


 留が言う。


「なぜ?」

「話を聞く限り、すぐに魔王と戦闘させられるわけでもないみたいだし、能力がはっきりすれば今日みたいな乱暴なことはしない…はず。しばらくは」

「頼りない言いようだな」


 誠が苦笑する。


「この世界のスタンスがわからんからね。でも『箱』と『鍵』がはっきりすれば、そこからまた情報を得られるかもしれない。逆に下手に隠していると、最悪殺される可能性はあるわ」

「そこまでするか?」

「昼のことを忘れたとは言わせない」


 すでに一度、彼らは猛獣に殺されかけている。

 確かになー、と誠は相槌を打った。


「どうも『箱』と『鍵』の神子は任意で呼び出せそうな感じだったし」

「なんか従わなければ死んでも致し方なし、とか思ってそうだもんね」

「代わりがきくと考えていたほうがいいかな」


 三人は溜息をついた。

 どうもこの世界は、三人には優しくなさそうだ。


「でもそうなると留さんはどうなる?」


 『箱』と『鍵』ならば安全かもしれない。だが、留は『門』の神子だ。


「そこなんだけどさー」

「うん?」

「まぁ、危険な能力でもないし、たぶん大丈夫だとは思うんだけどさー」


 留は布団に寝転がる。


「その前に……神子に関する情報が欲しいんだよね…」

「それは欲しいが…やけに慎重だな」

「……カン、っていって、納得する?」

「しない」

「だよねぇ」


 門の能力に目覚めたとき。留には一つ、引っかかることがあった。

 だが、まだ二人には言えない。

 不確定な話だ。

 話してしまえば期待を持たせてしまうことになるだろう。その状態が、果たして幸福なのかもわからない。

 そしてその考えが正しければ、留の能力はこの世界の意思に背いてしまう。

 それを、この国の人間が、許すだろうか。


「……神子についてもうちょっと調べてから私の能力はお披露目しようかな」

「だが、いつまでも能力を隠すことはできないだろう」

「能力を偽る」

「どうやって?」


 那毬と誠は同時に首を傾げた。会ったばかりだというのに息が合っている。


「ん―…こういうのはどうだろう」


 留が門を作り出した。また鳥居の門だ。

 指を通すと、向こう側へとすり抜ける。


「何の変哲もない鳥居だな」


 どういうつもりか、と留を見る。


「たぶんだけど、この世界に鳥居はないでしょ」

「まぁ…文化が違いそうだしなぁ」

「この鳥居を、別の用途に使う」

「どうやって」

「ホッチキス」

「は?」

「え?」


那毬と誠が豆鉄砲を食らったような顔をした。








 

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彼女が魔女になった理由 夜鳥つぐみ @tugutugu

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