第14話 部屋の中で

「……やっちまった」


 三人きりになった途端、誠は顔を手で覆った。


「すまん!」

「こんな言葉の地雷原、踏まないほうが奇跡よ」

「那毬がうまいフォロー入れてくれてくれたから問題ないでしょ」


 沈黙の後、三人はハインケル邸で無言の食事をし、同じ部屋に通された。

 それぞれの部屋を用意するだとか、せめて男女は別にすべきということをイネスが言っていたが、三人は互いの手を握り、無言で断固拒否をした。

 三人が引く気がないとわかると、ハインケル伯爵は特別に三人に部屋を貸し与えてくれた。さすがにベッドの移動はできないため、ふかふかの布団を人数分用意して。

 扉の前に護衛を名目に人を立たせて、ではあるが。


「さて。おなかもいっぱいで眠くはなるけど、今日はもう少しがんばりましょ」

「決めなきゃいけないことが沢山あるものね」


 扉の前の護衛を気にしながら小声で話す。


「で、どっちが箱で、どっちが鍵なの?」


 問うたのは留だ。


「ということは、留さんは…」

「ちょっと待って」


 誠の言葉を、那毬が遮る。


「誰も、見てないわよね」

「……見える限りでは」

「盗撮や盗聴の可能性か?ここの文明は中世ヨーロッパくらいだろう。なら」


 心配ないのでは?という誠に、甘い、と女性二人の視線が突き刺さる。


「魔法って未知のものがあるのよ」

「うん」

「そうでなくとも、昔からスパイはいたわけで…。この屋敷にからくりがあってもおかしくはない」

「隠れ潜んで会話を聞く可能性はある、か」

「……会話、聞かれていたらすでにやばい、か?」

「大分小声で話していたから大丈夫だとは思うけど……。那毬、対策でも?」


 留が、策がありそうな顔をする那毬に訊く。


「この際、見られてるのは諦める。その代り声は完全に遮断する」

「どうやって?」

「私の能力を使う。当然一人能力はばれるかもしれないけど」

「ふーん。それなら私のでもできそうだけど…ここ二階だっけ。…やめておいた方がいいかな」


 留が思案するような顔をする。


「いいんじゃない。誠さんは?」

「…あぁ。この際仕方がないだろう」


 誠もうなずく。


「じゃあ、行くよ」


 そうして、うすぼんやりと周囲は光に包まれた。



「神子様!」


 護衛から部屋の異変を知らされ、イネスが部屋を訪れると、そこには部屋の半分を占める大きな四角の箱があった。


「なんだこれは!?」

「…これが、箱か」


 ケイが興味深そうに周りを回る。

 どこにも扉はなく、中は覗けない。音も全く漏れてこない。


「神子様!」


 イネスの言葉に反応もない。


「ふん…」


 ケイが魔法を行使しようと、箱は何も通さず、びくともしなかった。


「盗み聞きもできないな、これじゃ」


 部屋に設置していた遠隔で部屋の様子がわかる魔石にも、急に箱が出てきたようにしか見えなかった。

 音を拾えないその魔石からでは、誰が発動したものかもわからなかった。


「相当不信感を抱かれたようだな」


 からかうようにイネスに言う。

 彼らは中身は大人なのだ。この状況に相当な危機感を持ち、対処しようとしているのだろう。


「……神子様」


 何も知らないイネスには、神子たちの意図がわからずにいた。


「今日は好きにさせてやったらどうだ。怖いというのは嘘じゃないさ。だからこその、この現状だろう」

「しかし…」

「とりあえず箱の神子がちゃんといるのがわかったじゃないか。それで良しとしておけよ」


 さぁ、神子たち。

 せいぜい頭を悩ませて、楽しい見世物を見せてくれよ? 

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