第3話 : お蝶

三日月の夜、柿の木長屋。小さく汚いオレの家だ。なぜか、お蝶はオレの家に着いてきて料理を振る舞ってくれた。

「こんな所よりも源内先生のトコの方が・・・」

「いえ、清様が嫌でなかったら、傷が治るまでいさせて下さい。」

「そりゃぁ、構わないけど・・・何しろ汚い長屋ですからね。」

「いえ、さ、召し上がって下さい。清様。」

お蝶が料理した食事がオレの前に並べられた。

「あの・・その清様って言うのは止して下さいよ・・・」

お蝶は笑って頷いた。

「それより怪我は大丈夫なンですかい。」

「ええ、源内先生に治療してもらいましたから・・・さ、」

「ど~も・・・」

「いかがでしょうか。」

「うっまいですよ。料理の腕も最高ですね。」

「それほどでも・・・さぁ、」酒を進めた。

「あ、ど~も・・・あんまり、飲めないンですがね。」

「そう・・・あの、ご家族は・・・」部屋を見回し、

「へい、母が2年前に亡くなってからは、ずっと独りです。」酒を飲みながら恥ずかしそうに応えた。

「そうですか・・・奥さまは・・」

「う、そんな・・・こんなトコに来てくれる物好きはいませんよ。」

「フフ・・・そんな事はないでしょう。」思わせ振りに笑った。


源内邸。まだ城戸明日真が羽子板を調べていた。

「何か、わかったか。」

「いや・・・それより、あのお蝶とか言う娘・・・」

「なンだ。お前の好みか。好き者が・・・」

「ま、好みはそうだが、土蜘蛛衆が本気で殺そうとしたなら・・・あの程度では・・・」

「ほ~、では、演技だと・・・」

「やっぱ・・・、ヤツらの本丸は平家の隠し財宝じゃね~のかな。」

「だとしたら、余計・・、清を殺(あや)める事はしね~ンじゃねえか。」

「だろうな・・・お宝を拝むまでは・・・・」不穏な空気が流れた。


柿の木長屋。オレの家。食事が終わりオレはお蝶に勧められるままに酒を飲んでいた。

「どうぞ。清さん。」

「ど~も・・・」グイッと杯を空けた。

「お強いンですね。」

「いえいえ、普段はあんまり飲まないンですが・・・」少し酔いが回ったようだ。

「お蝶さんもいかがです・・・」酌をしようと

「ありがとう・・あ、」だが、事の他酔っているようだ。

意識が朦朧とし、酌をしたつもりが溢れてしまった。

「大丈夫ですか。清さん。」

「あれ・・可笑しいな・・・」目の前のお蝶がぼんやり見えた。

「少しお休みになったら・・・」怪しげに微笑んで抱き抱えるようにした。


「あ・・いや、こんなはずじゃ・・・」徐々に意識が遠退き、お蝶の胸に倒れ込んでしまった。

「すぐ床を用意しましょう。」

「はぁ・・・」お蝶の言葉も遠い所から聴こえた。そのまま眠ってしまったようだ。お蝶は意味深に微笑んだ。


夜空に三日月が照っていた。柿の木長屋、清の家。清は布団に寝かされていた。どうやら薬を盛られたようだ。お蝶の目がランランと光り不適な笑みを浮かべた。闇夜に短刀がキラリと光った。

お蝶はフッと笑い、寝ている清の上に馬乗りになり、首に短刀を突きつけた。だが、清は深く眠っていた。

お蝶は、清の胸を肌蹴た。お蝶の目が一層光った。

夜空に三日月が照っていた。

清の胸に刻印の痕が薄っすらと浮かんでいた。

月の光に照らされ、徐々にその刻印は濃くなっていった。

「フフ・・」お蝶は含み笑いをし、

「やはり・・・間違いない❗❗」と呟き短刀を振りかぶった。



















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