第4話:折り鶴

明くる朝、柿の木長屋、オレの家。トントンと調子良く台所で包丁で野菜を刻む音で目醒めた。少し呻き、上体を起こすと、

「あ、清雅様、起きられましたか。」

え・・清雅だって・・・く、頭が・・・オレは頭を押さえお蝶を見た。

「申し訳ありません。清雅様・・・」と言って恭(うやうや)しくかしずいた。

「ちょっと待ってくれ。なンの事だか・・・・」

「ご無礼を深くお詫びいたします。」両手をついて土下座した。

「あ、お蝶さん、そんな事しね~で・・・手を上げてちゃんと話をしてください。」

「私は・・・お酒の中に眠り薬を仕込んだのです。」

え・・ああ、そうか。だから、あんなに急に酔ったのか・・・

「はい・・確認のためとは申せ、ご容赦を・・・」

いや・・・まぁ、そう恐縮されると・・・

「それより、オレは清雅なんて大層な名前じゃね~って。」

「いえ、あなた様は、御前、清国様の落し胤(だね)、清雅様に間違いありません。」

清国って・・・誰ですか・・・

「話は長くなりますが・・・よろしいでしょうか・・・・」

「え、まぁ、少しなら。」

「平家の落ち人の谷に揚羽の里という集落がございます。」

「揚げ羽・・・」

「はい、そこの本家の当主、清国様とお女中お雅様との間に出来た子があなた様でございます。」

そんな・・・信じられない話だった。


源内邸。オレたちはまた源内先生の元へ相談に駆けつけた。昼間だ。今日も蒸し暑い。セミの声が響いた。

「う~む・・・やはり平家の末裔か。」源内が唸った。

はい・・お蝶。「数々のご無礼、深くお詫びします。」

「いいって・・」明日真。「それより硬いこと抜きにしようぜ。」

「そうだよ。」とオレ。「肩が凝っちまう。」

はいとお蝶は応えたが、それでもまだ全然、硬かった。

「平家の落ち人が各地に流れ着いたという話は残ってはいるが・・・」

「本当なの・・・」お篠。

ええ、清雅様が平家の末裔だという事は疑いのないこと。」

「ふーン、何を証拠に・・・」明日真。

「胸にある刻印です。」

刻印・・・そんなモノが・・・だが今は見ても何も見えない。

「月光彫りという特殊な彫り師によって幼少のみぎり、付けられた刻印です。」

「なるほど・・・月光彫りか・。噂には聴いた事があるが、実物は・・・」源内が応えた。

「そのため、昨夜はお酒の中に薬を仕込み、眠っている間に確認しました。

「なるほどね~。やっぱ怖いね。美人は・・・」明日真。

「フフ確かにな。」と源内。お蝶は恐縮。

「平(ひら)に、ご勘弁を・」両手をついて頭を下げた。

何もそこまでと思ったが、

「まぁ、もういいでしょう。手を上げて・・・」源内が高笑い。

「そうだぜ。遠慮すンなって・・」と明日真。あんたが言い出したンだろ。

「それと・・」とオレ、「やはりおっ母から譲り受けた羽子板が隠し財宝のカギを握ってるそうで・・・」

「はい・・・」

「でも、そういう財宝とかって、大抵、価値のないものだったりするんでしょ。」お篠が痛いトコを突いた。

「まぁね・・・」と明日真。「その当時、価値があるモンだったり、思いでの品だったりね。」その時は、その時さ。

だが、オレは夢で見たンだ。あの目映いばかりの財宝を・・・・

「私は、」お蝶。「全国各地を巡って、清雅様を探していたのです。そして、流浪の果て、江戸へ流れてきました。」

「フン、そいつぁ、ご苦労さんだな。」明日真が茶化した。

「いえ、そして清雅様の噂を耳にしました。」

「そりゃぁ、出来過ぎじゃね~のか。」と明日真。え・・

「その夢の話を源内先生にしたのは、昨日・・・その噂を聞き付けてって言うのは・・・」明日真は笑顔で追い込んだ。

「それは・・・」

「まぁ、良いではないか。」源内。

平家の落ち人伝説は現在も各地に残っている。

有名なのは四国徳島や愛媛、九州、福岡や大分などの各地だ。

徳島の祖谷(いや)村、大分の玖珠盆地一帯、栃木の日光栗山郷などがよく知られている。


オレは一旦、自分の家へ帰る事にした。頭が混乱していた。オレが平家の末裔・・そんな夢のような話があるだろうか。オレの後をお蝶が着いてくる。

そんなに畏(かしこ)まるなと言ってるのに、まだ遠慮がちだ。

長屋では子供たちが遊んでいた。陽気に声をかけてくる。

その中でも少し年長の子が

「清兄ちゃん、折り紙折ってくれよ。」とせがんだ。

「悪いな・・・今はちょっと・・・」それどころじゃね~ンだよ・・・

「なンだよ。じゃ、こっちのお姉ちゃん。」え、あたし・・・と言う顔。

「折り鶴折ってよ。」おいおい、お前は少しは遠慮しろって・・・

「ゴメンね・・・」謝った。いいんだ。クセになる。こいつらはズウズウしいったらありゃしない。

「な~ンだ・・・」そういって引き下がった。お蝶は

「可哀想に・・・折り鶴くらい折ってあげれば良かったかしら・・・」

「いいんですよ。あいつらは・・・折り鶴なんか・・・」その時、パッとひらめいた。

折り鶴・・・❗

そうだ。おっ母が、折っていた千羽鶴があった。

あれに何か遺してあるかもしれない。

オレは急いで、家に戻り、押し入れを確かめた。奥の方から木箱に入った千羽鶴が出てきた。もちろん、千羽もあるわけではない。

二百羽くらいか。それにしてもよく折ったモノだ。

心配気にお蝶も見ていた。

「折り鶴ですか・・・」

「ああ・・・」

オレたちは木箱に折り鶴を入れ、また源内邸へ向かった。

途中、何者かが着けてきた。おそらく土蜘蛛衆の連中だろう。

今までは自分の事を一介の町人だと思っていたが、忍者が何人も追いかけるほど重要な者なのか。

源内邸で、折り鶴の話をした。その話を聞き、明日真も手にした。

「なるほど・・・では、解(ほど)いてみるか。」

「え、だって・・」お篠は乗り気ではないようだ。「おっ母さんが大切に折ったモンなんでしょ。」

「ええ・・まぁ・・・」だが、このまま取っておいても仕方がない。

手懸かりがあるなら、

「うむ・・」源内が「何か隠してあるとすれば、解(ほど)かないとわからん。」

「はい、オレもそう思います。どうぞ、解(ほど)いてください。」

皆に促した。手分けして折り鶴をほどく。かなり古い紙だ。

注意しないと破けてしまいそうだ。

だが、そのほとんどが、無地の紙だった。期待が失望へ変わっていった。

やはりそんな虫の良い話はないのかも・・・と思った矢先、

「あったわ。」お篠が明るい声で言った。

源内も、ん、と覗き込んだ。見ると、確かにウネウネとした抽象画のような絵が記されていた。

「う~む、地図だな・・・・」源内。そうか、何かを著す地図なんだ。

「他にもないか、探そう。」明日真の言葉に一気に熱が帯びた。

何しろ、今までは半信半疑だったのだ。何か、目的が見つかればやる気も違う。次々と折り鶴が解(ほど)かれていった。

小一時間ほどかかった。何しろ、二百羽以上あったのだから、それも破らないよう注意して解(ほど)かなきゃならない。

全部で四枚ほど地図らしき物があった。

「ふ~、四枚か・・・・」明日真は息をついた。

「この四枚にお宝が隠されてンの。」篠が目を輝かせた。

「よ、お篠、俄然、興味が沸いてきたか。」明日真。

「そりゃぁ・・・あたしだって、隠し財宝があるなら、見てみたいわよ。」







































































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