先人達の闘器講習その2 ~闘器を識る~

「まぁ、多少話題が横に逸れちゃったけど、本題に話を戻そうか。本題は闘器とはどんなものがあるかだねドレッド君と銃架ちゃんにクラム君、士君に色々と教えてあげてくれ」


 多少どころか、ガッツリと横に逸れていた気がしないでもないが、代表がそう言うならば、そういうことにしておこう。


 代表の指示で、私の前に代表と入れ替わって出てきたドレッドさん達。まず先頭に立っていたドレッドさんが、咳払いをしてから口を開いた。


「……俺は口下手でな、説明し損ねた補足はクラムに任せる。まずは俺の闘器『槍』について説明でもしておこうか」


 そう言ったドレッドさんは、半分に折りたたまれている妙な物体を、背中から降ろして足で蹴り上げ、1つの長い筒状の先端に、鈍く光る刃の付いた武器らしき物体を組み立てた。少なくとも私が聞いた、どの武器種とも似ていないように見える。


「コイツはガンランスと言ってな。分類は槍にあたる闘器だ。名前は『ドレッドノート・アルゴ』という。全く身に馴染みのない武器に、少しでも親近感を持てるよう、自分の名前を付けている。この闘器の特徴は、攻撃のリーチが長いが、攻撃箇所は先端の部分しかない。……鈍器として扱うつもりなら砲身でも殴れるが」


 その説明をしている最中に、クラムさんがドレッドさんの背後に手を伸ばし、あるものを取り外す音が聞こえた。


 その手には銀色の球体が握られている。よく見ると細い線のようなものが、数えきれないほどいくつも刻まれているではないか。


「やっぱりこっちの説明を忘れてるね。これは彼の闘器ではないんだけど、マイクロワイヤーと言って結構重要なアイテムなんだ。今は毛糸玉のような見た目だけど……伸ばせば、ほら。目に見えるかどうかってぐらいに細いだろう? これをドレッドノートの柄にある引き金に巻き付ければ、遠隔操作で砲撃をしているように見せかけられるってわけだ」


 スクラッパー・オシリスを倒した後、何かを巻き取るような仕草をしていたのは、この細いワイヤーを回収するためだったのだろう。


 ハイテクで強い闘器なのかと思っていたのだが、思っていたのとは違って、原始的な方法だったのには驚きだ。


 初めて聞くことばかりで、私が関心してる時、隣にいた穂さんが私の顔を見てから、いきなり「あっ」と小さい声を出した。


「そっか。士君はまだ廃鉄ブレイカーズに入ったばかりで、あのワイヤーを持ってなかったんだったね。最初に会った時、渡しておくべきだったかな……」


 そんな事を呟きながら、穂さんは肩にかけていた少し大きめのポシェットの中を漁りはじめた。


 小型のピッケルに、インスタントカメラや折りたたみ傘など、ポロポロと様々な物が零れ落ちているが、本人はそんなことお構いなし。


 私の声も聞こえておらず、そのポシェットから出てきた銀色の球体を、返事の代わりに私へと渡してきた。この様子を見る限り、このワイヤーは1人に1個、配られているものなのだろうか。


「い、いえ……後でもらえる場所まで自分で行きますよ。もらえる場所があるのかどうかすら知りませんけど」


「大丈夫だって。私がこのワイヤーを作ってる責任者だから!」


「あ、そうなんですk……えっ!?」


 命の恩人に向かって、失礼なことであるのは百も承知だが、これだけは言わせてほしい。まさか責任者が貴女だとは思わなかった。要職についているとは思えないほど、威厳や責任感の類を感じられない……。


 言い方を変えれば、良くも悪くも要人にしては、かなり話しかけやすい雰囲気であることに間違いはない。


「アハハ……まぁ、黙ってたら分からないよね、人の心が見えるワケないだろうし。実は私の闘器は、このワイヤーを作る機械なんだ」


 そう言った穂さんは、自分が撒き散らかした道具をポシェットにしまいながら、ポシェットの中から一丁の銃を取り出して見せてくれた。その銃口の先に、楔のようなものがが付いている。


「大半の人達は、こうやって離れたところに、ワイヤーを通す移動用に使ってるの。ドレッドさんとかの使い方は、ちょっと特殊だけど……問題なく使えてるし、このワイヤーの強度は保証されてるよ!」


 確かにあんな使い方をしても、1本も切れていないところを見る限り、相当頑丈な素材でこのワイヤーができているということだろう。だがこのワイヤーを作る闘器というのも、少なくとも気になる所ではある。


「他にも私の義手はワイヤーを仕込める構造になってるんだ。ここを指先で摘まむと……」


 そう言った穂さんは、左手の指先を右手の中指の付け根辺りに押し付けると、思いっきり引き延ばすような仕草をした。


 すると、リールに糸を巻くようなような音が、右手の義手から確かに聞こえた。肝心のワイヤーはあまりに細くて肉眼では見えない。辛うじてキラッと金属のような、細い一条の光が見えるぐらいだ……。


「こういう機能を持った装備で、トラップや仕掛けを作ったりしてスクラッパーズを翻弄してるの。私は士君やドレッドさん達のように凄い力は出せないから」


「お前が自分の弱点と向き合ったが故の結果だ。誰もお前を責める者はいないさ」


「……ありがとうございますドレッドさん。あの時の一言がなかったら今の私はいませんから」


「いや、別に感謝されるようなことはしていない。どこかの誰かもお前によく似て、スクラッパーズの前に、闘器を構えず飛び出すような奴だからな」


 そう言いながらドレッドさんが、チラッと私の方を見たような気がしたが、多分気のせいだろう。ドレッドさんの話を聞いていた穂さんは、何かに気付いたのかクスクス笑っていたが。


「やっぱりそうだったんですね。妙に士君を気にかけてるなぁと思ってたんですよ」


「え? ということは穂さんも、ドレッドさんたちの手解きを受けたんですか?」


 「まぁ、士君がやってたのとはちょっと違うけどね」と言って、少しだけはにかみながらドレッドさんにチラッと視線を流した。


 その視線を見て、ハァと深いため息を吐いたドレッドさんが口を開いた。


「穂にやらせたのは俺との実戦試験だ。特にコイツの闘器に関して全く分からなかった為に、スクラッパーズとの戦いよりは、まだ手加減できる俺の方がマシだろうという判断だ」


「いやそれ……どっちもどっちのような気がするんですけど。っていうかよく生きてましたね穂さん」


「アハハ……まぁドレッドさんが手加減してくれてたんだろうとは思うけど」


「いや、流石にあの状況で、本気とまではいわずとも手加減はできなかった」


 ドレッドさんが手加減できない状況とは、一体どんな状況だったのだろうか。実は穂さんも相当な実力者だったりするのではないだろうか……。


 そんなことを話していた最中、私たちの目の前にあった武器庫の壁が二つに分かれ、その中から駆動音を発する機械が出てきた。


よく見ると、先程受け取った銀色の毛糸玉が、その機械の周辺に多数転がっている。


「あぁ……試運転のつもりだったのにこんなにいっぱい……。今度は誰にコレあげようか……ごめんなさい、みなさんも手伝ってもらえませんか!?」


 慌ててその機械に近寄った穂さんの声で、皆が銀色の毛糸玉を拾って、彼女のポシェットに入れていく。


 私も1つ拾って、彼女に渡しに行こうとしたとき。代表が私の前に立ち、「少しだけ構わないかい?」と聞いてきた。


 特に断る理由も無かったので、その様子を見ながら、代表が私に1つ質問をしてきた。


「ところで士君。君の闘器……ブラッドグリードだっけ? それってどうやって名前を付けたんだい?」


『それは私のデータに内蔵されていた名称です。マスターがつけた名ではありません』


「おっと、これは失礼した。では君に聞こう。君はなぜこれの名前を知っていたんだい?」


『メインデータサーバーを一括検索……該当する情報なし。ノーヒットです』


 それは私も聞こうと思っていた事だったのだが、分からないのなら仕方のない事だ。


「では物のついでだ。君はスクラッパーズに関する情報を多数知っているね。それはどこで知った情報なんだい?」


『メインデータサーバーを再検索……該当する情報は見当たりません。どうやって私がこのデータを入手したのかは不明です』


「なるほど、ならば用意していた質問に思いの外、早く答えられてしまったのでもう1つ聞こう。君の言うメインサーバーは、まだ複数の人物が利用している───違うかい?」


「……え? それはどういうことですか?」


 それはどういうことなのだろうか、私は現在生きている人間は、ほぼ存在しないものと思っていたのだが。


「まぁ、さっきのは結論からだったし、君には説明しないといけないよね」


 代表は論理的に、しかしなるべく分かりやすいよう、私に言って聞かせてくれた。


 この世界は一度死んだ。これは私や代表など、この世界に生きる者における常識だ。それから初めて、私達が息を吹き返した。


 つまり、人間は1人として残らず、一度皆殺しにされてから、私達が甦ったというわけだ。


 しかし、甦った人間が全てが、廃鉄ブレイカーズに所属していたり、存在を知っているわけではないだろう。


 そこで代表は、ある仮説を立てた。そう、スクラッパーズでもなく、廃鉄ブレイカーズでもない、第三勢力が存在するのではないかと。


「恐らく君達は、そのメインサーバーと呼ばれる電脳空間で、互いに連絡を取り合っている。そして僕達廃鉄ブレイカーズは、そんな連絡手段を持っていない……それはつまり、第三勢力が存在する証拠じゃないかな?」


「で、ですが……通信をしている動作など一つも見せていませんよ?」


「ひょっとするとメインサーバーを検索するだけで、現在位置が把握できるシステムなのかもしれない。詳しい事は全く分からないけどね」


 「まぁ、これはあくまでも僕の仮説だから」と言って、代表は軽く笑って見せたが、すぐに真顔に戻る。


「……ただ、もしも本当に第三勢力が存在するなら、僕達としてはその勢力と争う気は無い。それは君達も同じはずだ」


「同じはずって……一体何を根拠に?」


 この時の私は、また代表が根拠もないことを……と思っていた。しかし、代表はその表情を崩す事はなく、そのまま口を再び開く。


「……先程のオシリスの行動を見ていて分かったんだが、君はどうやら、人の2倍はスクラッパーズを引き寄せやすい体質なんだ。それは何故か分かるかな?」


「えっ?」


 自分では自覚していなかったが、そう指摘されると、どこか納得してしまいそうになる。最初のホルス達との戦闘、そしてオシリスの襲撃。


「そう。ここまでの短期間で、2回もスクラッパーズに襲われた新人はそう多くない。もちろん他にもいたし、今まで例がない訳じゃない。でもね、君は他の新人達とは、明らかに違う点があるんだ」


 「それだよ」と言って、代表は私の右腕を指差した。


「君だけ―――いや、君達だけなんだよ。AIが搭載された義手なんて物を付けた新人であり、この短期間で2回もスクラッパーズに襲われた人は」


「…………」


「君達は2人で1人となった存在だ。そうなれば、何かしらの反応が、2つ集まっているように、スクラッパーズには見えるのかもしれない」


 代表はそこで一度、言葉を切って私の反応を伺ったのかもしれないが、私は自分の右腕をただ、見つめることしかできなかった。


「ここから逆算できることは、大きく分けると2つある。1つは先程も言った通り、スクラッパーズに狙われやすい体質であること」


そしてもう1つは―――君達も僕達と同じくスクラッパーズと敵対していると言うことだ。

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廃鉄スクラッパーズ ACROS @acros_would

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