一文無し

 前回の思いつきによりキューちゃん改めキュリアとなった(キュリアは知らない)キュリアは街の目の前まで着くと、パッと俺たちの方へ振り返った。


「にぃ、ついたよっ! きゅー、ちゃんと案内できてた?」


「あぁできてたできてた。サンキューキューちゃん」


「本当っ!? フフンっ、きゅー頑張った!」


 キュリアはそう言うと俺の近くまで急いで寄ってくる。そして、毛先まで赤く染まった髪を俺の目の前に差し出してきた。

 要するに撫でろとでも言いたいのかこいつは。


「あーわかったわかった! 撫でりゃあいいんだろったく……」


 因みに言っておくが、俺に幼女好きなどそんな趣味は断じてない。押しに弱いだけであって全くそんな趣味はない。

 それにキュリア以外の女の子になら全員俺の女性恐怖症は発動するからな。

 半分ドラゴン? なキュリアは例外、そう例外なのだ。


「そーいや、キューちゃん最初竜の姿だったよな? 何がどうなってそんなちっこい姿になったんだよ」


 するとキュリアは「うぅーん」と口に漏らしながら悩む仕草を見せた。そういやこの自分の姿を初めて見たときえらい驚いていたしな、キュリア自身もわからない部分の方が多いのかもしれない。


「きゅーの住んでたところ、竜の王様だったから?」


 キュリアは疑問形で首を傾けながらそう言うと、俺の方へ目線を向けてきた。

 俺の方をずっと見たところで俺は何も知らないからな。わからないことが余計に増えただけだからな。


 そのあともキュリアは必死に答えを出そうと悩み続けていたため、俺は「もう大丈夫だから、ありがとな」と声をかけながら頭にポンと手を置いた。

 とりあえず今は街に着いたことだし、中に入ってからあとで考えるとしよう。


 既に入り口のところにルナは移動しており、俺たちが来るのを座って待っている。

 あの様子だとだいぶ疲れているようだ。

 俺とキュリアはそんなルナのもとへ走って移動すると、そのまま3人で街の中へと入って行った。


 ……と、そこまではよかったんだけど。


「結局ここに帰ってきたところで寝る場所がない」


 俺は衝撃的な事実をそこで思い知らされ、反射的にポケットの中をあさくった。もちろんお金になりそうな物は入っていない。


「ここにいても結局飢え死にじゃねーか……」


「ならば私の自宅に……!」


「キューちゃんもいるんだ! あの家に3人も入るわけねーだろ!」


 またあの小さい家で一晩過ごすのは勘弁してほしい。

 それにルナの家に行ったところで飯が食えるわけでもない。それならまだ森の中で野宿する方が果物もあるし範囲も広いからマシなくらいだ。


「というわけで今日の宿代3人分払えるくらい今から稼がねーと……」


 いやでも流石に今からじゃ無理がある。

 朝起きてから歩き続けたおかげで時間的には大丈夫だが体力的には全然大丈夫ではない。それに俺は一睡もしてないのだ、今から一瞬で寝れるくらいの自信はある。


「にぃ」


 ふとキュリアに裾を引っ張られた俺は、焦っている頭の中をなんとか抑え込んで、冷静なフリをしながらキュリアの方へ振り返った。

 流石にキュリアまで不安な気持ちにさせるわけにはいかねーしな。


 が、ここでキュリアの手に持っている物を見て俺はさらに冷静さを失いそうになるのだった。

 キュリアはその手のひらに持っていたものを次から次へとキュリアが着ていた俺の服の中から取り出していく。

 そしてどうやってこれだけの量を詰め込んでいたのか、それを全て取り出し俺の腕に抱え込ませた。


「きゅーが持ってたの、にぃにあげるっ!」


 キュリアが持っていたのはどこからどう見ても竜の鱗のような物だった。おそらく竜から人になるまでにはがれ落ちた物だろうけど……。

 いつ俺の服の中にこれだけ入れたんだ……?

 まあ、深いことは追求する必要ないだろうけど、俺の知ってるドラゴンの素材ってのは大体が高価だったような気がする。俺はキュリアからキュリアの鱗……? を受け取りルナの方へ顔を向けた。


「これ全部売ったらどれくらい……?」


「りゅ、竜の……。だいたい家を一件買えるくらい……だとお、オモイマス」

 

「よし売りに行こう」


 流石は俺の相棒そして俺の決断力。

 俺は早速行動に移すことにし、ギルドに買い取ってもらうことにした。


 ルナが言っていたのだが基本魔物の素材などはギルドを通してお金に変えるのが冒険者の基本なのだそうだ。

 因みにルナは一度も魔物の素材を手にしたことはないらしい。


 することが決まってからの俺は行動が早い。

 何度も言っているが、大事な事なので何度も言う。

 風のような早さで素材を全て所持金に変えた俺は、あまりの金貨の量に驚きを隠せないでいた。

 まあどれくらいの価値があるのかは具体的には知らねーけど。

 とりあえず金貨50枚もあれば立派な家が建てられるらしい。竜の鱗でもキュリアの鱗の額はかなりの高額だったようで、その3倍程の金貨が俺の手に渡ったのだった。


「が、今日中に寝床を確保したい俺には家を建てる時間などない! つーわけで探しに行くぞ」


「それはいいですけど……そしたら私は……」


 本当ならここで「お前は自分の家があるだろ」と言うはずなんだろうが……、あの家のちっぽけさと不便さを体験している俺には、そんな残酷なことを告げることはできなかった。

 確かに俺は女が苦手だし、できれば顔を合わせたくないけどよ……、流石に困っている人を見捨てるってわけにも……なぁ。


「にぃ……離ればなれするの?」


「あーもうわかった! お前もこい!!」


 キュリアの不安がった表情、その顔で言われたらもうOKするしかねーだろ。

 相棒から冷たい目線で見られることがどれだけ辛いか……。てか俺キュリアにめちゃくちゃ弱いな。


 俺は勢いに任せてルナの同居を承諾すると、これから先の未来の事がさらに不安になり、軽く目に涙が滲んだ。


 神様……やっぱり間違ってますから。俺に授けた能力絶対間違ってますから……。

 もう一度やり直せるなら、この能力をなかったことにしてほしい、そう願う俺であった。

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