女性恐怖症男子、家を買う

「とりあえずこれくらいの家だったら不便なく暮らせるだろ」


 光の如く一瞬で買い終わった家を眺め俺はそう一言呟いた。

 見た感じ、周りの家と比べればそこまで大きいというわけでもないが、軽くルナの家の5倍近くの大きさはあるだろう。

 2階建てのレンガでできたこの家は、二階に同じくらいの広さの部屋が4つ、1階は居間に玄関と浴室、あと客間が1室といったところだ。

 3人暮らすとして部屋が1つ余計にあるが、まあ空き部屋が1つあるくらい別にいいだろう。


 ただ、1つ問題点があるとすればこの家ではなく男女比が1:2だということだが。

 今のところ俺の能力は絶賛発動中ってことか……、キュリアがもともと女の子だったってことから人間以外にも効果があるみたいだし、効果範囲広すぎかよ。

 

「で、このさっきから俺の足回りをウロついてる子犬ちゃんも……雌なんだろうな」


 俺が家の前まで歩いている途中、後ろからついてきた子犬に俺は目線を向けた。

 神様は女性に対する運が上がるって言ってたんだがな……、まあこれも運が上がってるって言ったら上がってるんだろうけど。

 動物や魔物だとすぐ懐くのかぁ……?曖昧すぎて判断するのに困る。


「まあ別に動物ならなんでもいいか」


 俺はしゃがんで子犬の頭を撫でてやると「また今度な」と言い残し家の中へと入っていった。

 中に入ると、俺より一足早く家の中を見て回っていたキュリアとルナが俺が入ってきたことに気づき、俺の方へ同じタイミングで顔を向けた。

 2人とも家にだいぶ興奮していたようだ、目が無駄に輝いて見える。


「別に新しい家にテンション上がってるのは何も言わねぇけど、そのテンションのまま近づいてくんじゃねぇぞ!」


 俺は2人が駆け寄ってくる前にそう発言すると、辺りを一通り見渡した。久しぶりに感じる懐かしきマイホーム的な感覚……どうしてもルナの家と比べて見てしまうせいか余計に感動してしまった。


「ねぇ! やっぱり凄いですよね広いですよねっ、ミズキさんもそう思いましたよねっ!」


「だから近づくんじゃねぇって言ってんだろが!」


 いつの間にこんかゼロ距離まで近づいてきたのか…、目の前でいつも以上に目をキラキラと輝かせているルナから俺は一瞬で距離をとった。そして数メートル離れたところでいつでも逃走できるように再び構える。


「お前……俺の話聞いてた? なに? 俺を殺す気?」


 若干怒り気味にルナに向かって問いかける。

 そういえば、今のは昔姉貴も俺をからかうときによく使ってきた技だ。

 朝起きた時に目の前で「ばぁ」て驚かせてきたりよぉ……。既に女性恐怖症を患っていた俺にとってはそれさえも苦痛だった……って思い出すな。思い出すんじゃねぇ。


 俺は昔の記憶を振り払いながら我にかえると、完全に忘れ去るためにもう一度家の内観を見回した。

 すると、キュリアがいないことに気がつく。

 一階にいないってことは多分二階にいるだろうけど……。そう思った俺は階段を登り、上の階へと上がった。


「キューちゃん? どこだぁー?」


「にぃ…」


「ん? どした」


「きゅー、みんなと仲良くしたい。でも、にぃはルナのこと嫌いなの……?」


 キュリアは階段を上がったすぐそばの窓際から外を眺めていた。その表情はなんだか寂しそうだ。いや、辛いのだろうか。

 キュリアからの言葉を聞いた俺は、説明しづらかったせいか、少し頭を悩ませた。


「別に心配しなくても嫌いってわけじゃねーよ。嫌いなら一緒に住むかなんて言わねーだろ?」


「でも……あれはきゅーがにぃに言ったからっ」


「何言ってんだ、決めたのは俺だ」


 もしかして……、俺がルナにギャーギャー言っているのは、ルナを家に歓迎する一押しをした自分のせいだと思っているのかこの子は。

 そうだとすると俺にも少し罪悪感が……。

 

「とにかく、キューちゃんはなにも悪くねーから深く考えこむんじゃねーよ」


「本当……?」


「あぁ、ほんとだほんと」


「じゃあにぃとルナも一緒にニッコリできるんだねっ!」


 キュリアのとても嬉しそうなその表情を見てしまうとどうしても否定することができない……。

 いや、俺はルナのこと嫌いじゃねーけど苦手なんだよ……女だから。

 でもそんなこと言ったら余計に考え込んじゃいそうだからなぁ。

 結局俺は「う、うん……」と苦笑いしながら答えてしまい、それを聞いたキュリアは満足そうに軽くスキップをしながら階段を降りていった。

 キュリアの願いを叶えるためには俺も頑張らないといけないのか。

 でもそうなるとどうしてもあのトラウマを克服しないといけないからな、難しい課題だ。

 それと……


「みんなと仲良く……ねぇ」


 それが最初出会ったときからキュリアが友好的だった理由か。俺は1人頷きながら一階へと降りて行ったキュリアの後を追った。

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