幼馴染みとすれ違いと その三

 新学期がはじまり数日が経った。新学期初日に、綾楓の様子がおかしかった事を除けば、とくに問題はない。いつも通りの普通の生活を過ごしている。

 

 キーンコーン、カーンコーン

 

 放課後のチャイムが聞こえる。それに従い、クラスメイトたちのガヤガヤ騒ぎ声が聞こえる。

 その中で一つ悠大に話しかける声がする。

 

「悠、一緒に帰ろ」

 

 幼馴染みの綾楓が話しかけてきた。

 

「ん、じゃ行くか」

 

 悠大は席を離れ二人は教室から出る。あれ以降、綾楓は学校でも積極的に話しかけてきた。新学期初日の様子がおかしかったが、心の変化が現れたのだろうか

 

 二人は校舎を出て帰路に行く。隣り合わせで、同じペースで二人は歩く

 

「今日はおばさんたち帰ってくるんだっけ」

「そうだな」


 悠大の両親は今日で出張から帰ってくる。となると、綾楓のお節介が減るがそれはそれで寂しいと悠大は思う。

 

「じゃ、今日は寄っていけないね……」

「そんなの別に関係ないだろ。家も近いんだし」

「いいの……?」

 

 なにを今さら……と悠大は心の中で思う。幼い頃はしょっちゅう家に来ていたし今さら遠慮することもないはずだ

 

「そっか……行ってもいいんだ」

 

 綾楓はなぜか嬉しそうな表情を浮かべる。

 そして彼女は足の動きを止める。それに気づいた悠大は綾楓の方を振り向く。

 

「あのさ悠、ちょっと大事な話があるんだ」 


 綾楓は少し顔を赤らめもじもじしている。トイレにでも行きたいのかと言いたいが、さすがにそれはデリカシーのない言葉なので控える。 

 そんな事を考えてる悠大を気にせず、綾楓はすーっと息を整え準備が出来たようで話す。

 

「私ね、こないだまでずっと悠とは幼馴染みで姉弟みたいなもんだと思ってた。でもさ、違うって分かったの。本当は幼馴染みって形から変わりたくなくて逃げてたって。だから私のほんとの気持ちを言うね……」 

 

 その言葉の後に綾楓は言葉を濁らせる。その言葉を言うことが辛いような怖いような感じで。

 

「わ、私、涼風綾楓はあなたの事が、す……好き、です。大好きです。もっとあなたと一緒にいたい。近くにいたい。幼馴染みなんかの関係で終わらせたくない。それくらいあなたのことが大好きです」

 

 その言葉を聞き、悠大は目をぎょっとさせる。幼馴染みであった彼女、一番見慣れた女の子である彼女、自分の全てを見られている彼女。そんな彼女からその言葉を聞けるとは思っていなかった。

 だがしかし彼はもやもやしていた。突然髪を掻き乱した。

 

「あーもう!こんなはずじゃなかったのに!」

「え?」

 

 いきなりの事に綾楓はきょとんとする。そんな彼女を前に悠大は思いを伝える。

 

「俺もずっと好きだったよ。何度も何度も告白しようか迷ってた。でもお前は全然そんな気無かったし、そんなお前に伝えたらどうなるか怖かったってのに。お前から言うなんて」

 

 そう、彼はずっと綾楓の事を想っていた。幼い頃からずっと。いつも一緒に遊び笑って、泣いて、共に多くの時間を過ごした。そんな彼女だからこそ悠大はいつの間にか好きになっていた。告白を先越されるのは予想外だったが。

 

「だから俺も一緒にいたい。幼馴染みじゃないその先を行った、恋人になりたい」

「悠……」

 

 すると綾楓は悠大に抱きついて来る。悠大の胸に顔を埋めて。少し泣いているような声で

 

「もう一緒だから……絶対離さないから」

 

 涙を悠大の制服に擦り付けるように拭いたあとこちらを向き彼女ははにかむ

 

「だって、悠には私がいないとだめだから」

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