幼馴染みとすれ違いと その2

 涼風綾楓は走り出した。無我夢中でなにも考えず、なにかから逃げるかのように走る。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 しばらく走ったところで、呼吸が苦しくなり、走るのをやめ近くにあった電柱に左手を置き体を支える。そして右手を胸の辺りにおく。 

 胸の鼓動が早い、苦しい、なぜなのか。先程悠大に会ってからおかしい。突然話しかけられたとき、頭が真っ白になった。その後避けるかのように彼の元を去ってしまった。

 こうなったのもあの出来事が原因だろうか

 



 遡ること数時間前、ちょうどお昼休みの頃だった。午前の授業が終わり作っておいたお弁当を机の上に出す。

 

「あーやか♪」

 

 そのとき、一人の女の子が話しかけてきた。黄緑色の髪を後ろで結びポニーテールにした少女が

 

「あぁ、若葉」

「また今年も一緒だね、よろしく!」

 

 若葉と呼ばれた女の子は元気に喋る。彼女とは一年生のときもクラスが一緒で、席が近いのもあってよく話す仲のいい友達だった。


「そだね、よろしく」


 また一緒、悠大だけでなく若葉とも同じクラスになれて綾楓は嬉しかった

 

「お、今日のお弁当も美味しそうだねー」

  

 綾楓がお弁当の箱を開くと、若葉は反応を見せる。今日のは少し手を込んで作ったのもあるだろう。

 

「今日は二人分作ったからね」

「もしかして例の幼馴染みの山下君?確か同じクラスになったんだよね」

「そう、今日から一週間両親が居ないみたいだから私が面倒見てるの」

「大変だねー、あたし幼馴染みとか居ないから全然分かんないや」

「慣れてるから。あいつには私がいないと駄目だし」

 

 悠大にはお節介と言われることがあったが綾楓には関係なかった。いつからかはもう覚えてはいないが小さい頃から悠大の面倒を見ていた。姉のような立場で接していた。

 悠大の話をしていたついでに悠大はどうしてるんだろうといる方を見る

 すると悠大は女の子と話していた

 

「あいつ私以外の女の子とも話すんだ……」

「えっ、知らなかったの?」

 

 若葉は思いがけないといった表情で綾楓を見る。

 

「山下君って言えば二年の中でも結構モテてるんだよ」

「うそ……」

 

 想定外の言葉に綾楓は動揺を隠しきれない。クラスが違ったから、学校内の事はあんまり知らないこともあったが、悠大はそんな事全く言っていなかった

 

「山下君結構クールでかっこいいしね。あたしもあんな彼氏欲しいなぁ」

 

 若葉は勝手に妄想の世界へ入っていく。幼い頃からいた綾楓にとっては、悠大はめんどくさがりでだらしなくて、そんな感じには思えなかった。


「でも告白されても皆振ってるらしいんだよねえ……やっぱり綾楓と付き合ってるんじゃないかって噂もあるんだよ」

「私は……」

 

 そんなんじゃない、あくまで悠大は幼馴染み、綾楓にとっては弟のようなそんな存在だったはずだ。

 だが何故だろうか。このモヤモヤした気持ちは。胸がチクチクする感じは。

 嫉妬だろうか。悠大が他の女の子と話している、私だけだと思ってたものが全て壊れる。綾楓が知らない悠大の一面。そんなのがあったことが綾楓はなんだか許せなかった

 

 


 そんな事があってか、さっき悠大に会ってもまともに顔を見ることが出来なかった。逃げてしまった。

 顔を会わせるのが気まずい。あってどう話せばいいだろうか分からない。時間だけが過ぎていく。

 ふとまわりを見渡す。そこは見覚えのない住宅街が並んだ場所だった。しまった、無我夢中で走っていて気が付かなかった。これでは完全に迷子だ。

 高校生にもなってこれは恥ずかしい。人を見つけてここがどこだかたずねるしかない。そんな時遠くから一つの声が聞こえる。

 

 「綾ーー!」

  

 いきなり自分の名前を言われてびっくりする

 知っている。綾楓はその人物の声を、その人物が誰なのかを

 綾楓はその声の元へと走る。そこには紺色のツンツンした髪の少年がいた

 綾香は思わず叫んだ

 

「悠!!」

「綾!?良かった!!全く心配させんな」

 

 今の自分の悩みの元凶であり、幼馴染みである悠大がそこにはいた。

 

「なんでここにいるの」

「お前がずっと帰ってこないからだよ。お前ん家言っても居ないみたいだし。こんな時間までお前が遊び回ってるはずないし、どうせ道に迷ったんだろうと思ってな」

「それひどくない」

「でも実際そうだったんだろ」

「それは……」

 

 否定できない、実際道に迷ったのは確かだ。

 そしてさっきの事を思い出すと気まずくて言葉がでなかった。だがその表情が顔に出ていたのか悠大は話を続けた

 

「でもな、俺はただ心配だったんだ。さっきのお前なんかおかしかったし、どこか具合でも悪いのかと思ってさ」

  

 ちょっぴり照れ臭そうに頭を掻きながら悠大は言う

 そういえばこんなやつだった。いつもめんどくさがりでだらしないところがあるけどなんだかんだで私の心配をしてくれる。 

 そして思い出した。綾楓がなぜ悠大の面倒を見るようになったのかを。

 そのときがこんな状況だったことを

 

 幼い頃二人で鬼ごっこをした事があった。その時は綾楓が鬼で悠大を捕まえる事になった。だが悠大は足が早く逆に綾楓は遅かったため追いつけず見失った。

 しばらくして綾楓は悠大を見付けることが出来た。だが悠大は泣いていた。

 聞いたら綾楓が見当たらないのを知りここがどこか分からないのもあって寂しくなって泣いてたらしい

 それからだった

 

 悠大には私がついていないとだめだって

 

 くすっと綾楓は笑う

 

「おい、なに笑ってんだよ」

「ううんなんでもない」

 

 そうだった。忘れていた。たしかに自分が知らない悠大の一面があるかもしれない。しかし綾楓には自分だけしか知らない悠大の一面を知っている。それだけは誰にも譲れない

 だらしなくてめんどくさがりでちょっと弱虫な所がある。それでもそんな悠大が綾楓は好きだったのだ。

 そう、好きだったのだ。それがただ幼馴染みである事、友達である事の意味じゃなかったと気付いていなかっただけで

 

「そんじゃ帰るぞ」

「道わかるの?」

「当たり前だ、馬鹿にすんな」

 

 二人は悠大の家へと歩んでいった

 こんな事できるのは幼馴染みだからだったかもしれない、でもこれからはそんな事は関係なく出来るように

 幼馴染みから一歩先を踏み出そうと綾楓は思った

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