第35話 石を求めて

  イブールがあの塔で見つけたもの…あれが、“キタモラフ石”だったとはね…

翌日、ストの村を出発したアレン達は、ラスリアと瓜二つの女性・シアと共にその石があるとされる渓谷を登り始める。足元を気にしながら歩くラスリアは、そんな事を考えていた。

「“神とやらの侵略から星を守る”か…」

「その石が4つ存在するのは…四方に配置し、結界の力を強めるためなんだろうね…!」

シアから聞いた“キタモラフ石”について、イブールとチェスが歩きながら語り合う。

場所が場所なだけに、ミュルザに頼んで偵察に行ってきてもらうという手段もあったが――――霧が濃くて視界が悪いため、結局は彼も飛ばないで進んでいる。

アレンとミュルザは、ただ黙り込んだままチェスとイブールの会話に聴き入っていた。

「ねぇ、シア」

「…なんですカ?ラスリア…」

ラスリアは、先頭を歩いているシアに声をかける。

「貴女は、その石を見つけたら、どうするつもりなの…?」

ラスリアの問いかけを聞いて、シアは俯いてしまう。

 あ…。ちょっと馴れ馴れしかった…かな?

地面を見ながら黙り込んでしまったシアを見て、ラスリアは少し申し訳ない気持ちになっていた。

「どうする…って事はないデス。ただ…“無事”かどうかを確認したいダケで…」

「“無事”…?」

たどたどしい口調で話すシアの回答に、ラスリアは首を傾げる。

「…昨夜、皆さんにも申し上げましたガ…あの石がこの世界に存在することで、“神”の侵略を防いでいル。すなわち…あの石が破壊されれば、この世界は滅びの道を辿る事となるのデス」

「もし、4つのキタモラフ石が破壊されてしまったら…世界はどうなってしまうの?」

ラスリアは、恐る恐る感じた疑問をシアにぶつける。

すると、彼女は深刻そうな表情かおで告げる。

「神々とて、この大地そのものは破壊しないと思ウ…。ただ、神を崇拝しない私達人間は、確実に滅ぼされル…」

「そんな…」

シアの台詞ことばを聞いたラスリアは、背筋が凍るような感覚を覚える。

もし…本当の万が一、その石が破壊された上にウンディエル様がおっしゃっていた“最終兵器ファイナルウェポン”が“星の意思”によって発動してしまったら…!!

ラスリアはこの時、最悪の事態が起きた時の事を一瞬考えてしまう。

 いや…。そんな事、何が何でもあってはいけないことだわ…!

そう強く願いながら、ラスリアは自分の拳を強く握り締める。

「…時にラスリア」

「えっ…?」

不意に正面から見つめられたラスリアは、心臓が少し跳ねた。

すると、シアは自分たちの後ろを歩いているアレンに視線を向けて、重たくなった口を開く。

「あの銀髪の方…。アレンさん…でしたっケ?」

「ええ。…アレンが何か?」

「…彼の左目下にある痣…。もしかして、生まれつき持っているものなのデハ?」

「…!!!」

突然、アレンの痣の事を尋ねられたラスリアはその場に立ち止まる。

何があったのかとイブールやチェスがラスリアに視線を向ける中、ミュルザだけが黙ってラスリア達を見つめていた。

「何故…それを…?」

ラスリアの心臓は、強く脈打っている。

「昨日出会ったばかりの少女が、なぜアレンの痣について尋ねるのか」という疑問が浮ぶ。それと同時に、ラスリアは少しだけシアに対して不信感を募らせる。

「…世界が一つになる前…私はとある場所デ、彼そっくりの女性と会っタ」

何かに気がついたのか、シアは複雑そうな表情かおで語り始める。

「もしかして…“セリエル”っていう名前…?」

そう問いかけるラスリアに、シアは深いため息をつく。

「…名前まではわからない。ただ、そのときに会ったあの女性も、アレンさんと同じような形をした痣を持っていタ…。私の知る限りだと、彼は“ガジェイレル”よネ…?」

ラスリアはこの時、なぜシアは、ここまで知っているのが疑問でたまらなかった。

「確かに、嬢ちゃんの考えている通りだが…何故、そんなことまで知っている?アレンについては、“星の意思”や“キロ”くらいしか知りえぬ情報だが…」

そんな疑問を代わりにぶつけてくれたのが、ミュルザだった。

ミュルザはおそらく、言葉の意味はわからなくても、心の中を読み取る事でシアが何を話しているのか読み取っていたのだろう。

彼の発言により、その場にいる全員が黙り始める。しかし、ミュルザの話す言葉を理解できないシアは、すがりつくような表情でラスリアを見つめる。

「ラスリア…彼はなんテ…?」

「あ、えっと…。なんで貴女が、“ガジェイレル”の事を…知っているのかって…」

「…っ…!!」

“ガジェイレル”の言葉に対し、アレンが僅かに反応する。

すると、周囲が緊迫とした状況に陥ってすまう。

「シアちゃん…。貴女ってもしや…“デスティニーレ族”なのでは…?」

「エ…!?」

腕を組みながら話すイブールに、全員の視線が集まる。

シアもイブールが話している台詞ことばの意味はわからなくても、“デスティニーレ族”という単語を聞き取れていたのか、わずかに反応する。

「イブール…。“デスティニーレ族”って…何?」

不思議そうな表情かおをしながら、チェスがイブールに尋ねた。

「…昨夜、貴女が“キタモラフ石を守る一族”…って聞いて思い出したの。大学で、少し学んだ程度の知識だけど…」

そう呟くイブールの台詞を、ラスリアがシアに同時通訳をする。

「…貴女がおっしゃる通り…私は古代種“キロ”と人間の血を引く“デスティニーレ族”の人間…でス」

ラスリアが通訳をしてから数秒ほど、シアは黙っていたが…真っ直ぐにイブール達を見つめて答えた。

 このかんじ…「あまり自分の種族ことを教えたくなかった」みたいな口調…

この時、シアを見てラスリアは心の底からそう思った。

それはアレン達に出会うまで、彼女もシアと同じような立場だったからである。



 それから数時間の間、彼らは渓谷の頂上を目指して登り続けた。足場が悪いため、一歩間違えればあの世行きとなる可能性が高い。それによって、全員が用心して進む。最も、空を飛べるミュルザだけはあまり用心していなかったみたいだ。

「はぁ…やっと、頂上に到着…だね」

何とか登りつめた彼らの息があがっていた。

「ここに、“キタモラフ石”があるんだな…?」

アレンの呟きに対し、シアは黙ったまま首を縦に頷く。

「あ…!」

「どうしたの?イブール…」

何かに気がついたような口ぶりで、イブールがその場に固まる。

突然立ち止まった彼女に、チェスが声をかける。すると、深刻そうな表情かおで口を開く。

「いろんな事があって、すっかり忘れていたわ!!私から、キタモラフ石を奪ったあの女…。“8人の異端者”だったのよね…!?」

「…だったな。それがどうかしたのか?」

「あ…!!?」

イブールとアレンの2人が会話している中、チェスの表情が深刻になっていく。

「チェス…!?」

みるみると表情が青ざめて行くチェスに、ラスリアは不安を感じる。

「シア…貴女も、大丈夫…!!?」

気がつくと、自分の側にいたシアの表情も青ざめていた。

そして、2人は苦しそうに俯いている。

「…こりゃあ、悪魔おれらにしてみても不快な波長…。だが、一体誰が…!!?」

ミュルザも、顔色までは悪くなっていないものの、右手で耳を半分塞いでいた。

ミュルザが敵の正体をわからないって事は…また吸血鬼の時みたいに、心を読めない相手…!!?

チェスやシア。そしてミュルザと違い、アレン・ラスリア・イブールの3人は特に何も起こっていない。ラスリアの頭の中には、「なぜ、自分たちだけ」という考えがよぎる。


「んもぅー。観客ギャラリーが少ないって、つまらないわねぇー…」

「なっ…!?」

前方から、見知らぬ女性のような声が聞こえる。

「誰…!!?」

声に気がついたイブールとアレンは、すぐに身構える。

しかし、渓谷の頂上は霧に覆われていたため、すぐにその人物を視認する事ができなかった。

「それにしても、あたし一人でこんな場所におつかいだなんて…。ミトセってば、人使い荒いんだから…」

そうつぶやきながら、霧の中から出てきたのは…紅い髪を持ち、女性のような化粧をした男性だった。

「え…!!?」

その人物が視界に入った途端――――――一瞬だけ、ラスリアの脳内に映像ビジョンのようなモノが浮かんだ。

「ラスリア…大丈夫か?」

その後、アレンの呼びかけでラスリアは我に返る。

 今のかんじは…一体…?

映像ビジョンが何を示しているのかは理解できなかったが、この目の前にいる人物を見た事によって起きたのは確かであった。

「…コルテラ…やはり、貴方だったのネ…!!」

苦しそうな表情で俯いていたシアが、鋭い眼差しで紅い髪の男を睨む。

「シア…貴方、この人を知っているの…!!?」

シアの台詞に驚いたラスリアは、固まった表情のまま彼女に問いかける。

すると、このコルテラという男はシアの存在に気がついたのか、嫌そうな表情を浮かべていた。

「あらあら…こんな所にいたのね?“裏切り者”のシアちゃん!」

「なっ!!?」

不気味な声色で話すこの男に、アレンやイブールも驚く。

「あ…“キタモラフ石”…!!!」

コルテラの右手にて光っている石がキタモラフ石だと気がついたイブールが、大声を張り上げる。

すると、コルテラの視線がイブールやアレン達に映る。

「ふーん…悪魔にその飼い主に、レジェンディラスの“ガジェイレル”…。それに、あの時の小娘までいるのねぇー…」

「“あの時”…?」

コルテラの台詞ことばを聞いたラスリアは、何のことかわからず首を傾げる。

すると、この男は何かを思い出したような表情をして口を開く。

「ああー…今のはなしね!こっちの話だから!!」

「…?」

コルテラの表情が少しだけ慌てている雰囲気になっていたので、ラスリアはますます不思議な気分になっていた。


「コルテラ…貴方、その石をどうするつもりなノ!!?」

物凄い剣幕で声を張り上げるシアに対し、周囲の空気が緊迫としたモノに変化する。

すると、数秒間ほど黙り込んだ後に、コルテラは口を開く。

「どうするったってねぇ…。あたしら“8人の異端者”がこの石を回収している…って言えばわかるかしら?」

「!!?」

その台詞ことばを聞いたラスリア達の表情が、一変する。

「…って事は、てめぇも“異端者”の一人ってわけだな…」

ミュルザが笑みを浮かべながら呟いたが、そのは笑っていなかった。

「でも…あんたからは、普通の人間みたいな感覚がする…。しかも、これって…」

そう呟くチェスの視線は、いつの間にかシアに向いていた。

「ん…?“8人の異端者”って、皆が異民族なんじゃないのか??」

不思議に感じていたアレンがチェスに尋ねるが、答えられる雰囲気ではない。

「ウフフフフ…」

「何が可笑しいの…!?」

不気味に笑うコルテラに対し、シアは苛立った表情かおで言い放つ。

するとコルテラは、愉快そうな表情で口を開く。

「ええ。ウォトレストの坊やは勘が鋭いわねー…って感心していたの!」

「…どういう意味だ」

今の口ぶりで不快な気分になったのか、アレンも鋭い眼差しでコルテラを睨み付ける。

「…坊やのご想像通りよ。あたしとそこにいるシアって小娘は、同じ種族なのよ。ついでに言うと、あたしたち“8人の異端者”を復活する手助けをしていたのも、その女よ」

「なっ…!!?」

ラスリア達の視線は、一気にシアへ向けられる。

彼らの視線を浴びていたシアは、気まずい表情かおとなり…その様子を、コルテラは不気味な笑みを浮かべながら見つめていたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る