第36話 けじめをつけるために

「復活の…手助け…!!?」

コルテラが述べた台詞ことばが、アレン達全員を不安に誘う。

しかし、そんな彼らに構うことなく、コルテラは話を続ける。

「…まぁ、最終的にあの檻から出られたのは…世界統合によって起きた衝撃のエネルギーなんでしょうけど…」

彼は、呟くようにして語った。

「シア…。あのコルテラっていう男性ひとが言っていること、本当なの?」

ラスリアは口を動かしながら、シアの方を見る。

しかし、自分と瓜二つの顔であるシアに疑いの眼差しを向けるのは、ラスリア自身あまり好まなかった。

 まるで…鏡の中にいる自分を見ているようだわ…

ラスリアは、内心でそんなことを考えていた。

「この女が何をしでかしたのかは知らないが…とにかく、その石を俺達に渡せ」

アレンはそう告げながら、コルテラに剣の矛先を向ける。

「アレン…」

迷いのない眼差しで敵を睨むアレンを見たラスリア達は、目を覚ましたような気分になる。

「確かに…今は彼女の詮索よりも、その石を手に入れる事の方が先よね!」

「…だな。それに、てめぇをボコボコにしてから口を割らせるのもありだしな!」

気がつくと、イブールやミュルザも戦闘の構えを取っていた。

独り気まずそうな表情かおのまま、シアは黙り続ける。そんな彼女に、ラスリアは、なんて声をかけてあげればいいか迷う。一瞬考えた後、ラスリアはシアの肩に手を乗せて口を開く。

「シア…。どうしても言いたくなければ、無理に訊くつもりはないわ。とにかく、今は戦闘の邪魔にならないよう、後ろへ…」

「ラスリア…」

そう言って、ラスリアはシアを避難させようとする。

ラスリアは、戦闘に突入すれば自分が一番足手まといになることをわかっていた。故に、自然とシアを連れてその場を離れるという行動に移せたのだろう。アレン達やコルテラとの間で、緊迫として空気が広がる。少しでも動けば、戦が開始されるかのようだった。

「…むかつく」

「ん…?」

緊迫した雰囲気が続く中、コルテラはボソッと何かを呟いていた。

しかし、あまりに小さな声だったため、ラスリア達は何て言ったのかが聞き取れなかったのである。

「あたしが、“あの人”と組んだことで、デスティニーレ族は忌み嫌われるようになったというのに…。何なのよ、この状態…!」

最初の台詞ことばよりも大きな声で、コルテラは話す。

その口調には、わずかに苛立っているのが感じられた。

「どういう…意味…?」

敵の言う台詞ことばの意味をよく理解できなかったチェスが、恐る恐る尋ねる。

 この男性ひとは一体、何を考えているの…?

ラスリアも、不思議でたまらなかった。しかし、そんな悠長に考え事をする暇は、すぐになくなってしまう。

「シア…危ない!!!」

シアの立つ地面が急に光り始めたのに気がついたラスリアは、彼女を庇うかのように突き飛ばす。

その直後、地面から飛び出した光のようなモノが、ラスリアの右腕を貫通する。

「っ…!!!?」

ほんの一瞬の出来事だったのに、感じたことのない痛みを感じ始める。

その直後、膝を曲げたラスリアは腕を押さえながら地面に座り込む。

「ラスリア!!!」

気がつくと、ラスリアの側にアレンが寄ってきていた。

「ラスリア!!!大丈夫か…!!?」

「う…うん。…なんとか…」

非常時こんなときに、こういう考えは不謹慎かもしれないけど…

普段は冷静沈着なアレンが、こういう時に冷静さを忘れて自分を心配してくれているような物言いに、ラスリアは少しばかりか安心感を得ていた。しかし、だからと言って、腕の痛みが消えるわけではない。

「ラスリアさン…。ごめんなさい…!私なんかのためニ…!!」

横から、涙目になったシアがいた。

ラスリアは何か言葉を返そうとした、怪我による出血で意識が朦朧とし始めていた。

「…」

「ラスリア…?」

アレンが心配する中、ラスリアは黒い瞳を閉じて黙り込む。

すると、ラスリアの腕から光が発し、その光は怪我をした右腕に乗り移って行く。その様子をアレンやシア。チェス達だけでなく、敵であるはずのコルテラも黙って見つめていた。

そして、時間が経過するにつれ、彼女が負わされた傷が癒えていく。

「治癒…魔法…!!?」

シアが、初めて見たような表情かおで驚いていた。

しかし、その後すぐに納得したのか…拳を強く握り締め、立ち上がる。

「ラスリア」

「え…?」

頭上からシアの声が聴こえる。

 …あれ…?

下から見上げているためにはっきりとはわからないが、シアの表情かおが違うような感覚を、ラスリアは持った。

「さがっていてくだサイ。彼は…私が倒しマス」

「なっ…!!?」

その台詞ことばを聞いたアレン達は、全員が表情を変える。

「シア…?」

「彼…は、私と同じ一族。…過去に犯した罪は、自分たちで清算しなくてはならナイ。…ダカラ…!!!」

そう語るシアの表情は、真剣そのものだった。


          ※


「…援護するわ」

敵の前に立ち塞がったシアを見たイブールは、言葉が伝わらないのはわかっていても、彼女を援護しようと横に立った。

「TH…」

当然、シアが何を言っているのか理解はできなかったが…表情から、「ありがとう」と小さな声で呟いたように見えたのである。

「…そういえば、あんたの本気を今まで見た事ないのよねぇ…シア」

視線の先にいる“魔術師コルテラ”は、不気味な笑みを浮かべながら呟いている。

しかし、口を動かしながらも、魔術の詠唱は止まっていなかった。彼の周囲から、かまいたちのような風の刃が発生し、こちらへ飛んでくる。

「WFHF!!!!」

「…っ…!!!」

それに対し、たった一言を発しただけなのに、シアとラスリアの周囲に結界が出現する。

 詠唱時間が短ければ短いほど、凄腕の魔術師だって言われているけど…。この、できるわね…!

瞬時に魔法を発動させたシアを見て、イブールは内心で思った。

しかし、対するコルテラも、詠唱の短さと術発動の早さがずば抜けているのがよくわかる。徐々に強まる攻撃に、イブールも援護を加える。敵は、かまいたちに限らず、灼熱の炎や氷、強風を撃ってくる。

「ミュルザ…“命令”よ!!ラスリア達を、安全な場所へ連れて行って…!!!」

「はいよ!」

この戦闘で、後方にいるラスリア達に危害が及ぶ可能性を考えたイブールは、ミュルザに彼らを安全な場所へ連れて行くよう命令した。

そして、ミュルザ達の姿が見えなくなっていく。

「さて…これで、思う存分に暴れられるわね…!」

イブールは、コルテラの攻撃を防ぎながら叫ぶ。

「あっはっは!!シアならともかく…あんたみたいな雑魚魔術師が、あたしと対等に殺れるとでも思って…?」

「…五月蝿いわねぇ。このオカマ野郎が」

今の台詞ことばが気に障ったイブールは、鋭い眼差しでコルテラを睨み付ける。

「最も…シアと力を合わせた所で、一族で忌み嫌われるほど強かったあたしに勝てるはずなんて、ないけどね…!!」

コルテラの台詞ことばに対し、シアは魔術を防ぎながら黙り込んでいた。

「…それにしても、あんたら普通の人間って弱いものよねぇー!!」

「なんですって…?」

「だって、そうじゃない!…独りじゃ何もできないから、群れる!そして、群れから少しでも外れた奴には容赦がない…!!」

コルテラは、狂気じみた表情かおで叫ぶ。

その後、彼の視線はシアに移る。

「シア…。あたしの子孫であるあんただって同じ…!あの連邦に家族を人質に取られなければ、“8人の異端者”復活の手伝いだってさせられる事なかったでしょうにねぇ…!!」

「ちょっと、あんた…!」

イブールが言い返そうとした途端、シアが彼女の肩を掴む。

「シア…!?」

イブールの肩を掴んでいたシアは、彼女を宥めようとしているようにも見えた。

「Shout up!!!!」

シアが、物凄い形相で声を張り上げる。

言葉の意味はわからなくても、イブールは相手を黙らせようとしていたような気がしていた。実際、それが正しい解釈なのかはわからないが――――――

その後、双方は互角の戦いを繰り広げる。しかし、2:1で戦っていて威力が5分5分のため、隙を見せた方が負ける。逆に、隙をついて魔術を封じる事ができれば、イブール達の勝利となる。

 一瞬…一瞬でいいから、奴に隙ができれば…!!!

イブールは攻防をしながら、反撃のチャンスをうかがっていた。


          ※


「おい…ミュルザ!!!」

イブールがミュルザに“命令”した事で、アレン達は敵から少し離れた場所に移動していた。

アレンは、自分達を運んだミュルザの胸ぐらを掴む。

「おい…貴様、“命令”とはいえ“主”を見捨てるとは…それでも悪魔か!!?」

飄々とした雰囲気を出しているミュルザに、アレンは苛立ちを隠せなかった。

「アレン…ミュルザも!少し落ち着いてよ…!」

視線の下から、チェスの声が聞こえていた。

「…てめぇら人間の理屈で、語っているんじゃねぇよ」

ミュルザが、鋭い眼差しでアレンを睨む。

その勢いに押されたアレンは、ミュルザから手を離す。

「アレン…。私が思うに、シアはけじめをつけたいと考えているんじゃないかな?」

「けじめ…?」

冷静さを取り戻したアレンの側で、ラスリアが口を開く。

「あのコルテラって男性ひと、シアと同じ民族なんでしょ?…イブールも、何となくそれを理解して、援護に回ったんだと思うわ」

「ラスリア…」

彼女の台詞ことばを聞いたアレンは、その場で考え込む。

 イブールもあの女も…体力の限界だってある。いつまでも魔術を唱え続けられるわけでもないだろうしな…

その時、アレンは敵の隙をつく方法を思いついた。

「…とにかく、俺はあの場所に戻る。だから、ラスリアはミュルザとここで待っていてくれ」

「ああん?てめぇ、俺様に指図するつもりか?」

アレンの台詞ことばを聞いたミュルザが、不満そうな表情かおをする。

「…別に。ただ、あいつらの援護へ行くのに、これが最善の策と判断しただけだ」

「…相変わらず、すました野郎だぜ」

ミュルザは相変わらず不満そうな表情かおをしていたが、どうやら納得はしてくれたようだった。

「さて…。行くぞ、チェス」

「う…うん…!」

アレンはチェスに声をかけ、彼らはイブールやシアが戦っている場所に戻り始める。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る