第21話 対面と再会

 「着いたぞ」

馬車の馬を操っていた兵士の声が、前方より聞こえてくる。

すると、檻の扉も開けられ、兵士達に囲まれながら進んでいく事になった。

 ここが、ライトリア教の礼拝堂…

ラスリアは辺りを見回しながら、考え事をしていた。彼女の周囲には、屈強な兵士が囲むようにして存在し、仲間達はその後ろから歩かされていたのである。

 こんな事になるなら…ずっと、ストの村にいるべきだったのかな…?

ラスリアは悔しそうな表情かお拳を強く握り締めながら後悔の念を抱いていると、奥の方から、教皇のような服装をした男性が兵士達と共に歩いてきた。

「やっと…お会いできましたな。…古代種“キロ”の末裔に…」

「貴方は…?」

ラスリアは、目の前に現れた男に対し、鋭い眼差しで睨みつける。

「ああ…申し遅れました。わたしは、ライトリア教団の僧長モーゼと申します。…以後お見知りおきを…」

自己紹介をしたモーゼは、ラスリアの目の前で深くお辞儀をした。

「それにしても…絶滅したと思われていた古代種に生き残りがいたとは…このモーゼ、誠に嬉しく思います」

「そんな事より、早く仲間達かれらを解放して…!!」

ラスリアは、相手に対して眉間にしわを寄せながら叫ぶ。

「ラスリア…!」

背後では、小声で叫ぶチェスの声が聴こえる。

しかし、モーゼはそれに臆することなく、「その台詞を待っていました」と言わんばかりの表情かおで話を続ける。

「全ては、貴女次第ですよ、ラスリア様…。貴女が、我々にご協力戴ければ…」

「……私は、何をすればいいんですか…?」

怒りを抑えながら、ラスリアは話す。

背後では、槍と槍の持ち手がぶつかる音が響いている。

 ここで拒否をしたら…皆が何をされるかわからない。そんなのは……嫌…!!

ラスリアは、心の中で叫ぶ。

自分を含む5人の中で一番強いであろうミュルザですら、教団の紋章が入った首輪で押さえつけられる始末だ。それは、ラスリアの行動次第で、すぐに仲間達かれらの首が飛ぶという事を示している、何よりの証拠であった。

モーゼは不気味な笑みを浮かべながら、話を続ける。

「ラスリア様は、“未開の地”をご存知かな…?」

「…ええ」

“未開の地”という言葉を聞いた瞬間、ラスリアの心臓の鼓動が大きく跳ねる。

「あの土地では、未だ発見のされていない生物や資源が眠る、まさに“聖地”なのです。そして…」

「そして…?」

「“星の意志”の力が強い…。これが何を意味するか、おわかりかな…?」

その台詞ことばを聞いたラスリアは、首を横に振る。

「確か、貴女達“キロ”は、“星と対話する能力”をお持ちだとか…」

「…私自身は、星に語りかける事すらやったことないですけどね」

モーゼの台詞ことばに対し、ラスリアは皮肉を込めた口調で返す。

「構いませんよ、別に…。微力ながら、貴方様が無事に役目を終えられるよう、我々も助力致しますので…」

「…おい…!」

ラスリアが後ろを振り向くと、チェスがモーゼを睨みつけていた。

「僧長の御前であるぞ…!」

口出しをしたチェスに、兵士は槍を構える。

「やめて…!!!」

ラスリアはその場へ走っていきそうな勢いで叫んだが、周囲にいた兵士達に遮られてしまう。

「構わんよ…。どうやら、そこの少年が…この私に何か申したいみたいだからな…」

モーゼの視線は、明らかにチェスを見下していた。

「…“未開の地”の言葉が出て着て思い出したんだけど…あそこに行くには、ドワーフの能力ちからを借りないとたどり着けないんじゃないの?」

チェスは、皮肉っているような口調で話す。

 そうだ…。ウォトレストの村でも、ビジョップさんがそのような事を言っていた…!

ラスリアは、竜騎士の村で話していた事を思い出す。

 でも、そうだとすると…

ラスリアは、モーゼの顔を一瞬だけ見る。しかし、彼の表情かおは不安など全く感じさせない状態であった。


「その心配は皆無よ…坊や」

ラスリアがモーゼを見たのとほぼ同時に、横から聞き覚えのある声が聞こえてくる。

「あなた…!」

ラスリア達の目の前に現れたのは、巡礼者のような格好をしていたが、紛れもない堕天使フリッグスの姿であった。

「成程…。てめぇの主ってのが、このおっさんだったという訳だ…」

後ろの方では、ミュルザがボソッと呟いていた。

しかし、フリッグスはアレンやミュルザ達には見向きもせず、モーゼに対して跪く。

「モーゼ様。例の件、協力を取り付けました」

「ごくろう…」

フリッグスの知らせを聞いたモーゼは、満足そうな表情かおをする。

「もしや……ドワーフに、協力を約束してもらったの…?」

フリッグスやモーゼの口調から考え、ラスリアは答えを出す。

その後、一瞬だけ黙った後にフリッグスの口が開く。

「残念ね、古代種。確かに、おかげで“未開の地”まで地下トンネルを通って行ける事になったけれど…“協力”ではないのよ…」

「どういう意味…!?」

フリッグスの台詞に対し、ラスリアは疑問を感じていた。

しかし、その口から思いにもよらない一言が出てくる。

「“協力”というより、“強制”ね…彼ら、なかなか言うことを聞いてくれなかったから…」

「なんて女性ひと…!!!」

憤りを感じたラスリアは、鋭い眼差しで堕天使を睨む。

「強制って…まさか、彼らに手をかけたの!!?」

チェスが、険しい表情かおでフリッグスを睨みつける。

「まぁ、それはさておき…。ラスリア様の役目を滞りもなく終わらせるには、君の力が必要なんだよ…!」

そう言ってモーゼが指差したのは―――――――アレンだった。

「どういう…事…?」

「行けばわかるわ」

ラスリアの言葉に、フリッグスが瞬時に答える。

「…!!?」

この時、ラスリアは背後から何か殺気のような気配モノを感じていた。

再び後ろを振り向くと、そこではイブールが、物凄い形相をしていたのである。

「イブール…?」

その表情かおは、いつもの穏やかな彼女とは思えないくらい、怒りに満ちている―――――そんな表情かおだった。

「あんた…だったのね…」

「え…?」

イブールは低い声で何か呟いていたが、何を言っているのか近くにいたアレン達すらも聞こえなかった。

「あんたが…私の両親を…!!!」

「イブ…」

そう叫びながらモーゼを睨みつける表情かおを見たラスリアは、彼女から感じる殺気に対し、全身に鳥肌が立つ。

 モーゼ…この僧長とイブールの間に、一体何が起きたの…!!?

ラスリアは必死で兵士の拘束から抜け出そうとするが、腕を掴まれている事もあり、なかなか抜け出せないようだ。

「…あああああああああああっ…!!!!」

雄叫びのような絶叫が、礼拝堂内に響き渡る。


          ※


「…あああああああああああっ…!!!!」

雄叫びのようなイブールの絶叫が、礼拝堂中に響き渡る。

 イブール…一体、どうしたんだ…!!?

豹変したイブールを見たアレンは、驚きの余りに慌てふためく。彼の後ろにいるミュルザは、首輪で力を押さえつけられているのか、表情を一つも変えずにイブールを見つめていた。

「…いい声で鳴くじゃねぇか…」

「なっ…!?」

ミュルザが、低い声で何か呟いたのを聞いた気がした。

すると、アレンの目の前に、何か白い物が出現したのを感じる。

「なっ…!!!」

一瞬の出来事で見逃してしまったが――――――気がつくと、イブールはフリッグスの手で地面に叩きつけられた状態で押さえ込まれていた。

堕天使の背には、白い羽が見える。

「全く…。こんな所で暴走なんてされちゃあ、困るのよね…」

その場で大きくため息をつきながら、フリッグスは呟く。

「どういう意味だ…!!?」

アレンは深刻な表情かおで、フリッグスを睨みつける。

「どうもこうも、貴方…この女から、何も聞いてないわけ…?」

「何…!!?」

イブールを指差しながら問いかけるフリッグスを見たアレンは、困惑する。

「“両親の仇”って…どういう…事?」

イブールが絶叫する前に聴いた台詞ことばを聞き逃していなかったチェスは、独り呟く。

「あ…!!」

チェスの台詞ことばを聴いたアレンは、表情を一変させる。

 そういえば、昨夜…イブールが、俺に話してくれたのは…

アレンの脳裏には、宿屋でイブールが語っていた自身の出生の事が思い浮かぶ。

「まさか…?」

汗を握るアレンは、無意識の内に視線をモーゼの方に向けていた。

「あの時は、顔をじっくり見る事が出来なかったけれど…。その笑い方と、声…間違いないわ…!!」

振り向くと、堕天使に押さえつけられてはいるものの、正気に戻ったイブールの声が聴こえる。

「おい、イブール…。もしや、この男…」

アレンだけでなく、全員の視線がイブールに集まる。

「ええ…。そうよ、アレン。奴は…僧長モーゼは…私の両親を殺害し、私を悪魔召喚の生贄にしようとした、張本人よ…!!!!」

礼拝堂の中は、再びイブールの叫び声と、溢れんばかりの憎悪の念でいっぱいになっていたのである。


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