第19話 普通の第3部「最後の選択」12

字数的にはこの話で終わり。10万字を越えて書き続けるか? まあ、悩んだところで素人の小説はコネもないし出版社の編集なんかは読まない。


コウとナーは過去へ時をかけている。


「ねえ、コウ。」

「なに?」

「ポンジャ王を助ければ邪悪なる闇は生まれないかもしれないけど、魔物を倒したらコウ、あなたも生まれないことになるんじゃないの?」


コウとナーは世界を救うために時をかけて、ポンジャ王を助けに向かっている。しかし魔物を倒すということは魔物の子孫のコウは生まれないかもしれない。


「え!? あ、そっか・・・そこまで考えてなかったな。」

「ハチハチも死んでるし、あなたまで死んじゃったら私はどうすればいいの?」

「それで未来のナーは時かける予言の巫女になったのか。」

「そういうことか、納得。って、おい!」


ナーの未来の姿である時かける予言の巫女。彼女はなぜ現れて、自分がどうすればいいのかを教えてくれたのだろう。今まで危機が切迫していたり出来事が多過ぎて考えたこともなかった。


「後のことは後で考えるさ。」

「それもそうね。」


どうなるかわ分からない。それでも世界のために行くしかなかった。コウとナーはポンジャ王が魔物に殺される前の過去の世界を目指して時をかけていく。



ここはポンジャ城。


「ポンジャ王! 万歳!」

「ポンジャ王! 万歳!」

「ポンジャ王! 万歳!」


ポンジャ城のバルコニーの前に大勢の国民が集まっている。大人も子供も笑顔でポンジャ国の建国を祝って、ポンジャ王の登場を今か今かと待ちわびている。


「おお! ポンジャ王だ!」

「王様だ!」

「王妃様に姫もおられるぞ!」


バルコニーにポンジャ王が姿を現した。王妃と姫も王様と一緒に現れ、集まった国民に手を振って声援に応えている。


「私はいい国王になるぞ。」

「あなたならできますわ。」

「お父様すごい! がんばって!」


バルコニーで談笑するポンジャ王一家の表情は明るく希望に満ちていた。これからのポンジャ王国の繁栄と平和を夢見ていたのだ。


しかし人間が楽しそうにしている姿を陰から眺める魔物がいた。


「どうして人間は楽しそうなんだろう? 人間になったら分かるかな?」


魔物は毎日殺し合う日々に疲れていた。いつの頃からか人間に興味を持ち、人間に憧れていたことをまだ魔物は自覚していない。


「王様になってみたいな。」

「なればいいじゃないか。」


その時、魔物の心に闇が語りかけました。闇がどこから現れたのかは分からない。闇は人間や魔物の心の隙間に現れる。


「魔物なんだから人間を殺してすり替わればいいじゃないか。」

「え!? 王様を殺してすり替わる!?」

「そう、王様になってしまえばいいんだよ。」

「王様に・・・。」


魔物は闇に唆されポンジャ王を殺してすり替わることを決心しました。魔物はなってみたかった人間に、しかも王様になるというのだった。



そして、その日の夜。


「キャア!」


王妃様の悲鳴が皆が寝静まったポンジャ城に響き渡る。悲鳴を聞きつけてポンジャ王が王妃の寝室までやって来ると王妃の寝室の扉は空いていた。


「王妃!?」


ポンジャ王が部屋の中を見ると魔物が王妃を殺していた。周囲には王妃の血が飛び散っていた。魔物も返り血を浴びていた。


「くそ!? 魔物め!?」

「ガガガ!」


ポンジャ王と魔物は目が合う。ポンジャ王は最愛の王妃が殺されて怒り動揺していた。魔物は王様を探す手間が省けたと喜んだ。1人殺してしまえば2人目を殺すのは何の感情も生まれない。


「ガガガ!」

「うわあ!?」


魔物が王様に襲い掛かる。王様を殺して自分が人間の王になるのだと魔物の心は闇に吞まれ周りを見る余裕もなく王様に突撃した。


カキン!


魔物の攻撃がポンジャ王に当たる直前にコウが現れる。コウは剣で魔物の攻撃を受け止める。


「間に合ったぜ!」

「なんだ!? おまえたちは!?」

「そんなことは後よ! 王様は下がってください!」


コウとナーが時をかけ過去の世界にやって来た。そして邪悪なる闇の正体であるポンジャ王が殺されるのを阻止することに成功した。


「この魔物を倒せば、邪悪なる闇は生まれない。」

「ガガガ。」


コウと魔物は対峙する。コウは世界の平和のために、もしも自分が消えてしまったとしても構わないと覚悟して必殺の1撃を放つ。


「ホーリー&ダーク!!!」

「ガガガ!」


コウの攻撃は魔物に命中した。魔物は断末魔の叫びをあげて倒される。これでポンジャ王は魔物に殺されることはない。


「やった! 僕は普通に魔物を倒したぞ!」

「あなたの存在も消えていないわ! よかった!」


コウとナーは目的を果たした。これで邪悪なる闇は出現しない。そしてコウの存在も消えていない。全てがコウとナーの思い通りになったのだ。


「コウ。これで世界は救われたのね。」

「ナー。全ては君のおかげだよ。」


感極まって抱きしめ合う2人。しかし倒された魔物の体から何かが湧き上がってくる。


「なんだ!? あれは!?」


魔物の体から闇が現れる。魔物を唆した邪悪なる闇だ。魔物のは確かに倒したが魔物の心に潜んでいた闇までは倒すことはできていなかった。


「や、闇だ!?」

「魔物を倒したのに闇が生まれてしまったの!?」


コウとナーは喜んだのも束の間で新たに出現した闇に対して身構える。2人にはなぜ闇が生まれたのかが分からない。


「我は闇。生きとし生けるものに存在する心の隙間に住まうもの。」

「闇だと!?」

「そうだ。せっかく魔物を唆して王を殺して魔物にすり替え楽しく遊べそうだったのに、よくも邪魔してくれたな! 許さんぞ!」

「人間も魔物もあなたのおもちゃじゃないわよ!?」

「ただ面白ければいい。闇が世界中に広がっていけばいいのだ!」


闇。人間だけでなく魔物の価値観も超えているもの。闇にとって細かいことはどうでもいいのだった。闇が深く楽しければ良いと言うものだった。


「狂ってる!?」

「こんなもののために世界は滅茶苦茶になったの!?」


コウとナーは闇の言動に戦慄を覚える。闇は無のように全てに関心が無い訳でもなく、怒りや嫉妬心、憧れなどの感情、人間の心の隙間に現れる。厄介な存在であった。


「今度は、そこの怯えている人間の恐怖という心の隙間に憑りついてやろう!」

「来るな!? ギャア!?」

「しまった!?」


闇はポンジャ王に狙いを襲い掛かる。闇はポンジャ王を闇で覆う。皮肉にも闇はポンジャ王に憑りつくことに成功してしまった。


「そんな!? 邪悪なる闇が誕生してしまったわ!?」


ナーは予定していない闇の存在があったとはいえ、邪悪なる闇の誕生を防ぐことはできなかった。形を変えても運命通りに進む現実に絶望しそうになる。


「まだだ!」

「コウ!?」

「全てを陰から操っていた闇の存在が分かった。そして本当なら今ここに存在しない僕らがいる。ここで僕が普通に闇を倒して運命を変えるんだ! 世界を救うんだ!」


コウは立ち上がる。目の前の闇と戦うために。そして必殺の1撃を闇に憑りつかれたポンジャ王に向けて放つ。


「ホーリー&ダーク!!!」

「ギャア!?」


ポンジャ王に命中した。聖なる五芒星と闇の五芒星が1つに重なり切り刻みポンジャ王を倒すことに成功したのだ。しかし相手は闇。コウはまだ油断しない。


「やったか!?」

「まだだよ。私は闇だ。そんな攻撃で倒される訳がないだろう。」

「クソ!?」

「闇はおまえの中にもある。私を倒せるかどうかという焦り。そこの女にも自分たちが助かるかどうかという不安。どれも全て闇の感情だ。もしも私がこの世から消えても、またすぐに新しい闇が生み出されるのだ! ワッハッハー!」


闇は存在していた。それどころか闇はますます深く輝きを増している。もう闇を止める術は無い。その時、コウはある決心をする。


「ナー、おまえは未来に帰れ。」

「え!? コウはどうするのよ!?」

「僕は普通に闇を消し去る。」

「だったら私も!?」

「ダメだ! この闇は僕とナーがお互いを思いやる心に付け込んで力を増している。ここにナーがいたら、僕はナーのことを心配してしまうから、闇を倒すことができない。僕はナーを守りたいんだ。」

「コウ・・・分かったわ。コウ、死なないでね。」

「ナー、愛してる。」

「私も愛してるわ、コウ。」


コウとナーは最後の言葉をかわした。戦闘中ということもあり抱きしめ合うこともできなかった。視線を絡ませただけであったが、2人にはそれで十分だった。


「さよなら、コウ。」

「・・・さよなら、ナー。」


ナーは次元の入り口を開き飛び込む。そして入り口が閉じるとコウはナーに別れを告げる。


「いくぞ! 闇!」

「おまえの攻撃は私には効かないぞ!」


ついにコウと闇との最終決戦が始まる。ナーをこの世界から下がらせたコウには一か八かの秘策があった。


「おい! 闇!」

「なんだ? 人間?」

「今度は僕に憑りついてみろ! 僕の心に闇があると言うのならな!」

「いいだろう! おもしろい! 私には見えるぞ! おまえの心の中の不安そうな闇が!」

「うわあ!?」


闇がコウの体に侵入する。やはり闇の入り込む心の隙間の無い人間などいないのだろうか。


「フフフ。所詮は人間。心に闇の無い人間などいない・・・無い!? 闇がないぞ!?」

「僕の心の中にあった闇は、おまえが僕の体に憑りついてくれるかという不安だけだ! おまえが僕の体に入ってくれたら、僕の不安は一切ない!」

「なんだと!?」


コウの作戦勝ちであった。闇を必ず倒すというコウの心に闇がつけ込む隙が無かった。闇は徐々にコウの心の中で消滅していく。


「ギャア!? 私が!? 私が去るだと!? バカな!? ギャア!?」


コウの心の中で闇が消滅した。これで邪悪なる闇は生まれない。世界の平和は守られたのだ。


「やった。これで世界は大丈夫だ。あとは僕が闇を生み出さなければいい。」


コウは剣を自分に突き刺す。コウは新たな闇を生み出さないために自らの命を絶つことを選んだ。


「これでいい・・・。」


コウは剣が体に突き刺さったまま床に倒れた。目的を果たし満足そうな表情のコウの死と引き換えに邪悪なる闇が生まれるのを阻止することができた。



ポンジャ5世の世界。


「どうして!? 闇の蔦が消えてない!?」


ナーは1人だけで戻って来た。きっと未来の世界は平和になっていると信じて。しかし世界は闇で覆われたままだった。


「まさか!? コウは闇に負けたというの!?」


ナーは残してきたコウのことを心配する。コウは闇にやられてしまったのだろうか。


「違うわよ。」

「あなたは!?」


ナーの目の前に現れた未来のナーこと時かける予言の巫女である。その表情は異常なぐらいにこやかだった。


「おかえりなさい。」

「教えて! 未来が平和になってないってどういうことよ!?」

「いいわよ。でもその前に宿題の答えを聞いていいかしら?」

「宿題?」

「最強の剣はどこにあるのかしら?」

「私の家の物置にあるわよ!」

「ええ!? そうだったんだ。さすがの私も自分の家とは想像もしなかったわね。」

「さあ! 教えてちょうだい! どうして未来が平和に平和になっていないのかを!」


時かける予言の巫女は知りたいことを知ることができて満足そうだった。そして舌も饒舌に物語を話し始める。


「あなたがいなくなったあとコウは闇を倒したわよ。」

「やった! コウは闇を倒したのね!」

「そうよ。ただ・・・コウは新しい闇を生み出さないように自ら命を絶ったの。」

「そ、そんな!?」


コウの死を知りナーは悲しむ。コウは自らの命を犠牲にしてまで闇を倒したのになぜ世界は闇の蔦に覆われたままなのだろう。


「それなら、この世界は平和になっているはずでしょう!?」

「まあまあ、続きはここからよ。」

「続き?」

「なんと魔物は生きていたの。」

「え!?」

「そして魔物はポンジャ王と入れ替わり人間の王になってしまったの。そして、それにムカついたポンジャ王の霊が闇を生み出して邪悪なる闇になっちゃったのよ。」

「な、なによ!? それ!? 運命通りじゃない!? 私たちががんばってきたのは一体なんだったのよ!?」

「そう簡単に運命は人間ごときが変えることはできないのよ。」

「そんな・・・。」


ナーは力無く崩れる。自分とコウが世界の平和を願ってしたことは、結局は全て無駄だったのである。


「でも安心して。」

「え?」

「世界を平和にする運命を背負った人物、ポンジャ6世がいるから。」

「どこに?」

「ここよ。」


時かける予言の巫女は自分のお腹を指す。気にはしていなかったが、確かに少し大きいような。


「赤ちゃん!?」

「そうよ。私とコウの子供よ。」

「え!? え!? え!?」

「あなたのお腹の中にもいるのよ。」

「うわあ!?」

「この子が生まれて、成人になった時、最強の剣を闇の蔦に突き刺すの。そうすると再び大地に光が降り注ぐのよ。それが運命なの。」

「運命って・・・。」


闇の蔦には魔王モヤイが混じっている。最強の剣は魔王モヤイしか倒せない剣である。そして伝説の勇者ハチ、大好きだったハチハチとコウの血を引き継ぐポンジャ6世。世界が平和になる条件が整う運命にあった。


「生まれてくる子供の名前も決まってるのよ。ハチ公っていうの。」


時かける予言の巫女は笑顔で微笑む。母親になると愛しい男よりも自分のお腹の中に宿った子供の方が大切だった。


完。

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