7.「お父上はラスボスだった」

 僕はそれでもまだコトの重大性に気づいてなくって、どうにかなるさ——って軽い気持ちは揺らいでなかった。


 ——でさぁー、モモコ、三十万円なんて大金、あるの?

 ——あるッ

 ——えぇー? 幼稚園からのお小遣い貯めたやつ、とか?

 ——まぁー、当たらずとも遠からずだ。金利は四%だ、いいなッ、テツヤ

 ——おいおい、三%、でしょ!

 ——これから色々と指南しなきゃいかんことがあるから、その指南料込みだッ。

 ——(あの父上にして、この娘……おそるべし)


 ゴトゴトと、軌道の上を走る江ノ電。

 僕は、その車窓の向こうで昼間とは違う姿を見せる湘南の海と、モモコのお父上と被ってしまって、追い詰められるようにしてそこから目を逸らした。


 ——しかし、おとうさんも、うまく言ったもんだな【江ノ電で、ゴー】って。

 ——それ言うなら、モモコとテツヤで、【桃鉄】のほうが、うまいだろッ

 ——おおぉー!! モモコさんに、座布団三枚っ!

 ——あほか。テツヤ、FXってやったことあんのかよッ!

 ——ねーよ。


 ズコッ——

 モモコが大袈裟にズッコケている。それは、関西人がするようなリアクションで、なにか可笑しかった。


 ——それでよくもまぁー。あんな簡単に引き受けたもんだなッ

 ——仕方ねーじゃん。あそこで受けなきゃ、俺たちの結婚話なんて、永遠にナシナシ、だったろ?

 ——うむぅ……

 ——おとうさん、って、そんなゲーム強いのかよ、マネーゲームってやつ。

 ——オヤジはミツトモに来る前は、ウォール街じゃちょっと名の通ったディーラーだったんだよッ。母親のオヤジに引き抜かれる前までな

 ——え?、もしかして、おとうさん、ってなん?

 ——あぁー、そう。桐島家は代々、女系一家なんだよ。


 モモコのお父上がマスオさん——って、わかって、なんかわかんないけど、僕は頬が緩んだんだ。


 ——で、オレ、勝てそっ?

 ——まだ聞いてないけど、ルール次第だな。フツーにやったら万に一つの勝ちもないなッ


 ——ええぇー、ダメじゃん。モモコと結婚できないわ、三十万の借金は残るわじゃ、オレ、じゃんっ


 ——心配するなッ 負けた時は、ワタシが踏んでやるよッ


 そう言って、モモコはオッさんよろしく、腹を抱えてゲラゲラ笑ってやんの


 ——さっ、今週からはテッテーテキにFXのお勉強だッ! いいな、テツヤ!

 ——おうっ! やったろーじゃねーかっ! 待ってろっ!、ラスボスっ!


 僕はその時、モモコのお父上がどれほど最強のなのかということを知らなかったんだ。まっ、それが良かった、っちゃ、良かったんだけどね。


 かくして、僕とモモコは、お父上の提案に乗って——すごろくゲーム【江ノ電DEーGO】——ですることになったんだ。

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