湘南Money Game by 桃✖️鉄

【Fujisawa】Station

1.「成城と平壌」

 僕とモモコは、京都で知り合ったんだ——。


 そう、僕もモモコも京都の大学の学生だった。馴れ初めは、おいおいそのうち話にでてくるだろうから今は割愛するけど、大学の四年になって、就活始めたころかな、モモコが僕のアパートに転がり込んできたのは——、そそ、同棲ってやつ始めたわけなんだけどね。


 で、二人とも、メデタく就職先も決まって、あとは、卒業を待つだけ、っていう今年の春先のことだったかな、僕とモモコは、ぼんやりと卒業後のことなんぞ話をしてたんですよ。


 ——ってか、モモコん、って東京だよな?

 ——そうだよッ

 ——実家は、どこ?

 ——セイジョウ

 ——へ? セイジョウ、って、あのセイジョウ?

 ——ああ。あの、か、その、かは知らんがッ、セイジョウだッ

 ——モモコ、ってひょっとして、お嬢様……とか?(まさか……ねぇー?)

 ——おぉ。この立ち居振る舞い観てりゃ、わかるだろッ


(それなら、なおさら、わからんわ)


 ——成城のたみって、庶民じぇねーよね、フツーじゃないよね?

 ——成城はフツーに、正常だッ なんちゃって

 ——(………)

 ——笑えよッ ボケてんだから。 ツッコメよッ


 付き合って一年近くになるけど、モモコが「成城」育ちのお嬢様だとは知らんかった(ていうか、ゼッタイ、想像つかんし)。


 モモコは——、桐島きりしま桃子っていうんだけど、歳は僕より二つ下かな。というか、僕が大学に入るのに二年浪人したんで、そういう計算になる。

 背丈は僕の肩ぐらいしかないから、最近じゃちっちゃいほうだろうね、なんせ僕はフツーに中肉中背なんで。


 けど、目鼻立ちは、どれもハイビジョンなみにクッキリ、スッキリで、髪は長くっていつもオールバックのポニーテール。

 スリーサイズ?、んなもん訊いたら、どんだけタイキック浴びるかわからんし、まぁーでもスタイルはいい方だと思う。ちょっとだけお腹出てるのは僕だけが知ってるんだけどね。


 モモコは女子大に通ってたんだけど、僕の大学のミスコンにで出てぶっちぎりグランプリとっちゃった時は、「格差カップル」って、陰口叩かれたもんだよ。

 そんな見た目はめちゃくちゃ可愛いモモコだけど、その性格はいたって凶暴、いやドが三つほど付くような「ドS女子」だ。みんな、知らないんだよねー。僕のケツは年中青あざまみれ、ってのは誰にも言えないわけで。


  

 で、—————


 時は進んで、僕は就職先の「三友銀行」の研修期間も終わって、「藤沢支店」勤務が決まったんで、「江ノ電」の「極楽寺駅」近くにアパート借りたってわけです。本当は僕の実家が大阪なんで、大阪勤務希望したんだけど通らなかったみたい。

 モモコ?、あぁー、カノジョは実家の会社手伝わなきゃ、って実家のある「世田谷」に帰っちゃいました。とは、言ってもご存知の通り、「成城」って小田急沿線じゃない?、会おうと思えばすぐ会える距離だし。同棲してたときみたいにはいかないけど、それなりにちゃんと恋人同士はやってます。

 まっ、ざっとこれが、今の僕とモモコです——。


 金曜日の夜、モモコが僕のアパートに泊まりにきたんで、エッチして、朝起きたら十時で、遅めの朝食を「稲村ガ崎駅」近くのカフェで食ってた時の話なんだけど——。 


 ——テツヤ、言ってなかったことが、ある。

 ——なに

 ——ワタシさぁー、来年、ケッコンするかもッ

 ——言わなくたって……、オレだって、考えて……

 ——あ、違う違うッ、テツヤ、じゃないよぉー

 ——そう……、 えェーっ?

 ——親の勧める、いわゆる、ほら、セイリャクケッコン、ってやつッ

 ——チョっ、まって、まってっ


 モモコってね、こういうコなんです——。

 しれぇーっと、フツーに、こんな大事なこと僕に言って、そんでもって、何が可笑しいのか、ケラケラ笑ってるし。


 ——モモコは、それでいいのかよっ

 ——いいも、わるいも、ない。親の言うのはゼッタイなの、ウチじゃ。

 ——それ、阻止する手ないのかよ?

 ——ある、っちゃ、ある……、かも?

 ——おっ、 なに?

 ——オヤジに会ってよッ


 「成城」にお住まいのモモコのお父上に会って、つまり世間でもよくあるアレをやれってことです。

 モモコさんとケッコンを前提にお付き合いを——云々、ってやつ。


 ——よぉーし、行ってやろーじゃねーか、成城だろうが、平壌ピョンヤンだろうがっ

 ——オヤジは、じゃねーしッ


 そんな、こんなで、僕はモモコのお父上訪ねて、「成城」のお屋敷を訪ねることになったってわけ。



    

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