二度読んで、二度とも涙しました。

 一度目は若い二人の美しく切ない恋物語として、二度目は自分でない誰かに想いを寄せる人々の物語として、拝読しました。泣けました。

 楽器の経験がない主人公が、ソプラノサックスを習いたい、と音楽教室に飛び込む。超初心者なのに、吹く曲も練習期間も決めている。先生は、そんな彼を快く受け入れる。それらの理由が徐々に明らかになるにつれ、この物語に登場する人物それぞれの優しさが、読む者の心の中にじんわりと広がっていきます。
 直接出て来ない里香さんの人柄も、「帽子さん」のエピソードでとても伝わってきました。

 ラストの千景先生の言葉は、大切な誰かへの想いをずっと大切にして欲しいという意味にも、里香さんを想う気持ちがきっかけで触れたソプラノサックスに象徴される「新しい出会い」を大事にして次の一歩を踏み出して欲しいという意味にも受け取れます。
 悲しい恋物語ながら、ラストに描かれる「済んだ空」を見上げているような清らかな読後感に、静かに涙いたしました。

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